第2回専門委員会、資格制度一元化巡り議論
5月の初回会合で介護職員数の初の減少や賃金格差拡大が明らかになった厚生労働省の「福祉人材確保専門委員会」は6月9日、第2回会合を開催し、関係団体からのヒアリングを実施しました。養成機関や職能団体から人材確保に向けた具体的な提言が相次ぎ、特に福祉系学校の存続危機と資格制度の在り方を巡って活発な議論が交わされました。
前回記事:2040年に向けた介護人材確保の新たな展望―リハ専門職の役割も視野に
福祉系高校が半減、地域偏在も深刻
全国福祉高等学校長会の髙橋秀親理事長は、前回明らかになった人材不足の背景にある養成教育の危機的状況を報告しました。「かつて全国に221校あった福祉系高等学校が現在109校まで減少し、減少率は50.7%に達している」と述べ、福島県、新潟県、山梨県、高知県の4県では福祉系高校が存在しない現状を明らかにしました。
さらに18府県では福祉系高校が1校のみとなっており、「今後の少子化や学校再編により、福祉系高等学校の存続自体が危ぶまれる深刻な事態」と危機感を表明しました。
一方で、福祉系高校の地域貢献度は高く、卒業生の約44.6%が介護職種に就職し、そのうち94.3%が地元で働いている実態も報告されました(資料6-2、5ページ)。「地域の介護人材確保や定着に大きく貢献している」として、養成教育基盤の維持の重要性を訴えました。
大学も定員割れが深刻化
日本ソーシャルワーク教育学校連盟の中村和彦会長は、福祉系大学の厳しい現状を数値で示しました。同連盟の調査によると、定員充足率90%未満の教育課程が2023年度で約4割に達し、特に介護福祉士養成課程を設置する大学では74%が定員割れを起こしています。
「福祉系大学は前回報告された私立大学全体の定員充足率よりも深刻な状況にある」と指摘し、福祉系大学の経営環境が「極めて厳しい状況に置かれている」ことを強調しました。
解決策として中村会長は「福祉・介護人材の安定的確保に向けた戦略的人材確保プラットフォーム」の構築を提案しました。事業者団体、専門職団体、養成校団体などの各ステークホルダーが情報を一元的に集約し、年単位で継続的に状況を把握・共有する仕組みの必要性を訴えました。
資格制度一元化で見解分かれる
前回会合では触れられなかった介護福祉士資格取得方法の一元化について、立場により異なる見解が示されました。
全国福祉高等学校長会は「延期の理由のひとつに『人手不足への対応』があるが、一元化を先送りにしても根本的な解決には至っていない」として、制度の信頼性向上のため完全実施を求めました。「国家試験制度の信頼性を高め、社会的評価や信頼を確立することが重要」と、資格の質の担保を重視する姿勢を示しました。
一方、日本社会福祉士会の西島善久会長も「さらなる経過措置の延長は行うべきではない」との明確な立場を表明しました。「国家資格は専門職の質の担保の観点から必要な知識の理解度を問い、一定の基準を満たした者に対し資格を付与している。その基準に到達した者とそうでない者は明確に区別する必要がある」と述べ、資格制度の意義を強調しました。
包括的な人材確保策を提言
日本社会福祉士会は、前回の議論を受けてより包括的な視点を提言しました。西島会長は「人材不足は全産業が直面している課題」として、介護人材に限定せず「広く福祉人材の確保について検討していく視点が重要」と指摘しました。
具体的には、社会福祉士や介護支援専門員なども含めた登録制度の再検討や、「産業全体との賃金格差により他産業への人材の流出が始まっている」現状を踏まえた処遇改善の必要性を訴えました。前回報告された8.3万円の賃金格差に対し、「全産業平均賃金と遜色ない処遇改善の取組を推進していく必要がある」と述べました。
外国人材への期待と課題
前回会合で留学生が養成校入学者の48.6%を占める現状が報告されましたが、今回の会合で日本ソーシャルワーク教育学校連盟は外国人材の受け入れについて「現時点で十分な知見を有していない」として意見を控える姿勢を示しました。外国人材の活用については、支援体制の整備とともに、より専門的な検討が必要との認識が示されました。
次回への課題と展望
今回の会合では、前回明らかになった量的な人材不足に対し、質の確保をどう両立させるかという根本的な課題が浮き彫りになりました。養成教育基盤の維持・強化、資格制度の信頼性確保、処遇改善による他業種への流出防止など、多面的なアプローチが求められています。
委員会では今後も関係団体からのヒアリングを続け、秋頃の中間とりまとめに向けて議論を深める予定です。前回設定された2040年に向けた272万人の人材確保目標の実現に向け、より具体的で実効性のある施策の検討が期待されます。
▶︎https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58608.html
令和7年6月9日開催の第2回福祉人材確保専門委員会の資料と議論内容に基づいて作成