人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty: TKA)後のリハビリテーションについて、
「術後3か月くらいまでしっかりやれば十分なのか」
「150日の算定上限を超えてまで運動療法を続ける意味はあるのか」
と悩まれる先生方は多いと思います。
2025年にKanthaらが報告したシステマティックレビューは、この問いに対して「12週以内と12週超では“伸びる能力”が違う」という、臨床的に非常に興味深い視点を提示しました(1)。
本記事では、このレビュー(1)を軸に、後期リハビリのRCT・メタアナリシス(2–7)をいくつか統合しながら、
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12週以内 vs 12週超で何がどこまで変わるのか
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「どの患者に」「いつ」「どのくらい」介入するのが現実的なのか
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日本の150日ルールの中でどう戦略を立てるか
を、医療従事者向けに整理していきます。
目次
- 1. まず押さえたい3つの前提
- 2. Kanthaら2025年レビュー:何をどう比較したのか?
- 3. 12週以内 vs 12週超:何がどこまで変わるのか
- 4. 他のRCT・レビューと矛盾しないか?
- 5. これらのエビデンスをどう統合するか?
- 6. 日本の150日ルールの中でどう設計するか
- 7. 実践的なプログラム設計案
- 8. 臨床での“使いどころ”:どの患者に長期介入を勧めるか?
- 9. エビデンスの限界と、不確実性の扱い方
- 10. 日本での運用に向けた筆者なりの提案
- 11. まとめ
- 参考文献(主要)
1. まず押さえたい3つの前提
1-1. 症例数は増え続ける、日本でも
日本整形外科学会のレジストリ(JAR/JOANR)の2022年度報告では、年間8万件超のTKAが登録されています(9)。
高齢化と手術適応の拡大を考えると、今後も増加が予想され、術後リハの「質」と「持続性」は、個別症例だけでなく医療政策レベルのテーマになりつつあります。
1-2. 「後期リハ」の定義
多くの研究では(1–4)、
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術後〜退院まで:急性期・早期リハ
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術後2か月以降:later-stage(後期)介入
という区切りを用いています。Kanthaらも、「術後2か月以降に開始された運動療法」を対象に、期間によって「12週以内」と「12週超」に分けて比較しています(1)。
1-3. 日本の150日ルールとの関係
運動器リハビリテーション料(TKAを含む術後)は、原則として手術日から150日が算定上限です。
術後2か月で後期介入を開始し、そこから12週間(約3か月)リハを続けると、ちょうど約5か月=150日前後となり、制度上のタイムリミットと重なります。
つまり、Kanthaらの「12週以内プログラム」は、日本の保険診療でギリギリ完結できるボリューム感だと考えることができます(1)。
2. Kanthaら2025年レビュー:何をどう比較したのか?
2-1. 研究の概要
Kanthaらは、主要データベースを2025年5月まで検索し、術後2か月以降に実施された運動療法を評価したRCT 15件(患者数1,160名)を統合しました。
PICOは以下の通りです。
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P(患者): TKA術後2か月以上経過した患者
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I(介入): 他の治療を併用しない運動療法プログラム
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C(比較): 介入期間が12週以下 vs 12週超
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O(アウトカム):
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機能的パフォーマンス(5回立ち座り、TUG、階段昇降など)
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筋力(膝伸展・屈曲)
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可動域(ROM)
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歩行能力、疼痛、QOL指標など
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PEDroスコアの平均は約6点で、中等度の方法論的質と評価されています。
2-2. プログラム内容のざっくりした特徴
Kanthaら(1)のまとめによると、対象となったプログラムには以下のような傾向がありました。
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両群とも筋力トレーニングはほぼ必須
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12週以内プログラムでは、機能的トレーニング(起立・階段・歩行など)の比重が高い
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12週超プログラムでは、ストレッチや可動域エクササイズの比率が増える傾向
ここから、「短期=動作中心」「長期=構造(筋・可動域)中心」という設計思想の違いが見えてきます。
3. 12週以内 vs 12週超:何がどこまで変わるのか
ここからは、12週以内の運動介入と12週超の介入で、「どのアウトカムが伸びやすいか」を整理します。
まずは全体像が一目で分かるように、主要アウトカムごとの特徴を表にまとめます。
表1 TKA術後後期リハビリにおける介入期間別アウトカムの特徴
(Kanthaらのシステマティックレビュー(1)および関連RCT(2–4)を基に作成)






