中央社会保険医療協議会(中医協)は11月19日、第628回総会を開催し、入院医療や小児・周産期医療、感染症対策などについて議論した。特定機能病院入院基本料の評価のあり方や、医師の診療科偏在への対応、病院薬剤師の業務評価などが論点となった。
特定機能病院を3類型に、評価のあり方を検討
事務局は、特定機能病院の承認要件が見直され、①大学病院本院が求められる役割を果たす基礎的基準を満たす病院、②ナショナルセンター等、③その他の特定機能病院の3つに分かれることを説明した。現在、特定機能病院88病院のうち79病院が大学病院本院、4病院がナショナルセンター等、5病院がその他の病院となっている。
日本医師会の江澤和彦委員は「全国医学部長病院長会議の報告では、2024年度の全国81病院の経常損失額の総額は508億円に達している」と指摘。「特定機能病院が倒れてしまうと地域医療崩壊に直結する。役割や機能に応じて評価を切り分けるとしても、いずれの類型であっても十分に評価していくことが必要だ」と述べた。

(2025年9月30日AJMC資料)
支払側委員からは「大学病院本院に関しては、地域の難病や高度医療の最後の砦として絶対に維持しなければならない医療機関である。その類型に関して診療報酬上一定の配慮を行うことは当然のこと」としながらも、「大学病院が経営を成り立たせるためにひたすら地域の症例を集約し医療収益を上げることを求めている現在の大学病院のファイナンスそのものの体制も問題だ」と指摘する意見があった。「診療報酬だけでなく補助金なども含め、あるべき姿を支えるためにどのように安定して地域の大学病院を維持していくか、政府全体で検討いただきたい」との要望が出された。
外科系医師の働き方改革、呼び出し当番翌日の休日要件を緩和へ
医師の診療科偏在への対応として、事務局は処置及び手術の休日・時間外・深夜加算1について論点を提示した。現行制度では、チーム制において緊急呼び出し当番を行った医師は翌日を休日とする必要があるが、当番中に診療を実施しなかった場合でも、予め診療の有無を予見することが困難なため、翌日を休日として扱うことが求められている。
事務局の医療課長は「医師の働き方改革の中では、令和6年以降は勤務間インターバルについての規制が診療報酬とは別に施行している」と説明。「算定に関して継続困難な要件として、一番回答が多かったのが休日呼び出し当番の翌日の休日対応ということだった」と調査結果を報告した。
江澤委員は「緊急呼び出しの有無にかかわらず、当番の翌日を休日とすることに賛同する」と述べた。また、消化器外科などでの手術の集約化の動きについては「前提として地域の病院と時間をかけて協議し連携を深めておく必要がある。集約化と同時に近接化も進めなければ、急性虫垂炎などの身近な手術が地域で受けられなくなることも懸念される」と指摘。「まずは取り組みの実態を把握し、地域全体としてうまくいっているのかどうか、集約化されない側の病院の経営や運営に支障はないのかなどの詳細な実情を把握することが先決であり、診療報酬で評価する段階にはまだなく、時期尚早と考える」との見解を示した。
診療側委員からは「処置及び手術の休日時間外深夜加算1に関して、非常に多くの病院が困っている。現在、医療法の方ですでに勤務配慮に関してしっかりとやらなければいけないことが規定されている状況なので、診療報酬の要件としての予定手術前日に当直等を行う日の部分の要件に関しては、少し緩和をしても実際に働いている先生方には大きな問題なく対応できるのではないか」との意見も出された。
医師数が減少する診療科への対応については、「外科、消化器外科、脳神経外科のドクターが地域でなかなか育たない、選んでいただけないということは医療界の一番大きな問題と認識している」としながらも、「これを診療報酬上どう対応するのかは制度上難しい。一番重要なのは、外科の先生方が働くような病院がしっかりと手当等を自主的に出せるような経営環境にすることだ」と指摘する意見があった。

生成AI活用で医師の負担軽減、医師事務作業補助体制加算の拡充を
働き方改革に関連して、医師事務作業補助体制加算における生成AI等のICT活用が議論された。事務局は、生成AIを活用した文書作成補助システム等が作業効率の向上や労働時間の削減効果を示していることを報告した。
江澤委員は「現状、生成AIは医療機関の規模により毎月20万円から50万円程度の費用がかかるが、活用している医療機関の持ち出しで費用負担している実態となっている」と指摘。「医療従事者の負担軽減は質の高い医療にもつながるので、生成AIが活用できる評価に高めるとともに、対象病棟の拡大や要件緩和などについて積極的に検討すべきだ」と述べた。また、「施設基準として求められている緊急入院患者数や全身麻酔による手術件数の実績要件は大変厳しく、負担軽減に取り組んでいても加算を算定できない医療機関も多い。病院内で多忙な現場は救急以外にも多々あるので、この点についてはぜひとも検討をお願いしたい」と要望した。
診療側委員からは「AI等の活用によって医師の働き方の支援とか労働時間の削減に取り組んでいる病院はだんだん増えてきており、その効果も実際に出てきているので、そういう働き方の動きを我々しっかりと後押ししていく必要がある」との意見があった。「医師事務作業補助体制加算を、実際それによって効果を上げているところを人数を少し減らしても継続して認めるというような形の対応の仕方もあるでしょうし、また別の加算等を作り促すということもあるかと思う。今後の生産性向上の取組をどのような形で診療報酬上評価していくのが適しているのか、上手な方法をぜひ医療課の方でもご検討いただけたら」との提案もなされた。

地域加算の見直し、経過措置など特段の配慮を
地域加算については、人事院規則で定める級地区分が10年ぶりに見直されたことを受け、診療報酬上の地域加算における地域区分を見直すことが論点となった。
江澤委員は「級地区分の見直しにより、地域加算を算定可能な病院・有床診療所の数には大きな変化はないと記載されているが、現状の厳しい経営環境下においては、地域加算が下がる医療機関への支援を、経過措置などの特段の配慮は欠かせない」と述べた。

病院薬剤師の業務評価を拡充、施設間連携も推進へ
病院薬剤師については、業務に対する評価のあり方と、転院・転所時における施設間の薬剤情報連携について議論された。事務局は、病院薬剤師が不足しており、人件費を含めてその確保が喫緊の課題であることや、令和6年度改定で新設した薬剤業務向上加算により新規採用者数の拡大につながった事例があることを報告した。
江澤委員は「薬剤業務向上加算の算定は低調と認識しているが、算定状況やどういった医療機関に出向しているのかなどの実態把握も必要と思う」とした上で、「医薬品の出荷停止や調整が相次いでいる状況の中、病院薬剤師は日々患者さんのために医薬品の確保や院内での周知などに全力で対応しており、業務負担も増している。後発医薬品使用体制加算については増点が必要ではないか」と述べた。施設間の情報連携については「薬剤総合評価調整加算において、病院や介護施設における薬剤師間の情報連携を評価する方向で検討してはどうか」と提案した。
診療側委員からは「どこの病院も病院薬剤師不足をしている。病院の薬剤師を評価するいくつかの点数があるが、ぜひともその辺を上手に評価を検討いただくことで、病院に薬剤師が来て地域医療を支えていただく一員として活躍いただくような形につながるようにご検討いただければ」との要望があった。

周産期医療、MFICUの専任医師配置要件を見直しへ
小児・周産期医療については、母体・胎児集中治療室(MFICU)の専任医師配置要件の見直しが論点となった。事務局は、「周産期医療の体制構築に係る指針」でオンコール医師による対応が想定されていることなどを説明した。
健康保険組合連合会の松本真人委員は「MFICUには宿直以外の医師を配置するか複数の医師が施設内で勤務していることが安全性の観点から望ましいとは考えるが、データを見る限りでは現行のままではユニットが維持できない地域があり、周産期の体制構築に関わる指針で1名の医師による対応が想定されていることであれば、指針に基づく適切な運用が担保できることを前提として、施設基準の緩和は一定の理解ができる」との見解を示した。
江澤委員も同様に、周産期医療の体制構築に係る指針に即して見直すことに理解を示した。
産科入院医療については、看護協会の木澤晃代専門委員が「産科病棟の中では混合病棟が増加しており、すでに8割が混合病棟となっている。産科混合病棟においては産科以外の患者のケアに対応するために、正常分娩中の産婦へのケアを中断しなければならない状況も生じており、新生児の感染管理等の面でも様々な課題がある」と指摘。「母子が心身への悪影響を受けることなく安心して安全な医療・看護を受けられる環境を整えるためには、小児病棟同様、産科においても区域特定を急ぎ進めていくことが必要であり、ゾーニングや病棟内での職員の担当範囲のユニット化等を推進すべきと考える」と述べた。
日本労働組合総連合会の高町晃司委員は「周産期のハイリスクの救急医療に手厚くする方向で母体・胎児集中治療室を評価していくことは重要だが、陣痛誘発による異常出血のようなケースは母体搬送に対応するだけではなく、搬送そのものを減らしていくことも必要ではないか」と指摘。「地域の周産期医療センターが中心になって地域の産科の診療を向上させて、緊急の母体搬送を減らした場合に評価されず、逆に医療の質に課題がある医療機関から繰り返し母体搬送を受け入れることが評価されることでは本末転倒なので、このようなことがないように工夫していただきたい」と要望した。

抗菌薬適正使用、AWaRe分類に基づく評価を見直しへ
感染症対策については、抗菌薬適正使用体制加算における評価方法の見直しが議論された。事務局は、Watchカテゴリーを含むいくつかの抗菌薬について、14日以上の処方が治療ガイドライン等で推奨される場合があること等を踏まえ、サーベイランスにおいてウイルス性上気道炎や急性下痢症に対する抗菌薬の使用状況を重点的にモニタリングする観点から、評価方法を見直す方向性を示した。
健康保険組合連合会の松本真人委員は「ガイドラインを踏まえてサーベイランスの評価方法を見直すことには異論はないが、アクセス抗菌薬の使用比率が低い医療機関が相当あることが示されている。適正使用の底上げにつながるための対応についても別途の検討が必要だ」と述べた。
全国自治体病院協議会の小阪真二委員は「マクロライド系抗菌薬を14日間処方まで算定できるよう見直していただいたのは前よりは嬉しいが、まだ不十分かなという気がする」と指摘。「DPB(びまん性汎細気管支炎)は東アジアに非常に多い病気で、欧米ではこんな病気はないとされていたものが東アジアで非常にたくさん発見されて疾患概念となった経緯がある。日本には特殊事情がある」と説明した。また、非結核性抗酸菌症については「増えてきており、特にMAC(マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス)が増えてきていて、これは本当に年余にわたり、下手すれば一生飲む薬だ。クラリスロマイシンはキードラグなので、ずっと飲む。70%を目指すのであればもう少し長期投与になるものの解析と削除と除外ということを進めていかないと、数字上は現れてこないと思う」と述べた。
江澤委員は「そもそもJ-SIPHEへの参加に非常に手間がかかり、通常の医療機関では対応が難しくなっている。もう少し参加しやすいサーベイランスとしないと、こうした取組は広まらないと考える」と指摘。「AWaReのアクセス分類については、発展途上国用の必須薬剤リストからできたものでもあり、日本で未承認の薬剤や副作用が疑われ製造中止になった薬剤、あるいは日本の臨床家が使用したことのない薬剤も認められることから、日本の臨床実態にあった基準を示す必要があるだろう」との見解を示した。

感染対策向上加算、微生物学的検査室の評価を検討
感染対策向上加算1については、微生物学的検査室の有無による評価の違いを設けることが論点となった。事務局は、現在、感染対策向上加算1を届け出している施設の約6割が微生物学的検査室を有していることを報告した。
江澤委員は「検査室を有していない医療機関であっても、加算1の施設基準を満たし、地域の感染症対策においてすでにリーダー的な役割を果たしている。微生物学的検査室の設置を評価するとしても、加算1の要件とするのは時期尚早と考える」と述べた。「そもそも変更できない建物のハード部分を要件設定するのが診療報酬評価にはなじまないのではないか。微生物学的検査室を導入していない背景についても精査した上で検討すべきだ」との見解を示した。
診療側委員からも「感染対策向上加算の要件に入れるのではなく、微生物学的な検査室を持っているということをプラスで評価をいただくというふうに読ませていただいた。もし要件に入れるとすると、現在今感染対策向上加算1を取って、かなり地域で主体的に活躍をしていただいている医療機関が急に大変なことになるので、ぜひともそこの部分は現状をしっかりと把握をしてご対応いただきたい」との意見が出された。

結核病棟、重症度・医療看護必要度等の扱いを見直しへ
結核病棟のユニット化病床・モデル病床については、重症度・医療看護必要度や平均在院日数の扱いを見直すことが論点となった。事務局は、結核病棟の病床利用率が2023年に26.8%と極めて低く、年々低下傾向にあることを報告した。
江澤委員は「これまでも重症度・医療看護必要度や平均在院日数の扱いについても配慮をされていたが、病床利用率が極めて低く年々低下傾向にあり、病院の使命感で維持されているような状況にある。今後も行政の施策として結核病棟を維持するのであれば、結核病棟の重症度・医療看護必要度や平均在院日数を現状に合わせて変更するなど、抜本的な見直しをする必要がある」と述べた。
診療側委員からも「今、この重症度・医療看護必要度ですとか平均在院日数というものを全体でまとめてやると本当にこれ維持できなくなってきているという状況がある。結核の患者さんは特殊な形で平均在院日数も長いですし、重症度も引っかからないという患者さんをだけども、その地域の病院は見なければいけないということで今対応している。適切にここの部分の取り扱いは除外を認めるなど、適切にご対応いただきたい」との要望があった。

医療安全対策、重大事象の把握と再発防止を徹底へ
医療安全については、医療安全対策加算の要件に、医療事故調査制度に関する検討会の取りまとめに基づく対応を位置づけることなどが論点となった。
江澤委員は「資料の課題で示されているような新たな取組も意義のあることではあるが、現時点ではいずれの項目も望ましいものという位置づけなので、各医療機関が対応できる範囲で促していくのが良いと考える」と述べた。
松本委員は「全ての医療機関で重大事象を把握し、再発防止を徹底することが本来の姿であり、少なくとも医療安全対策加算の要件に検討会の取りまとめに基づく対応を位置づけるべきだ」と述べた。また、パニック値の報告対応については「死亡事例も出ているところなので、検体検査管理加算の望ましい要件ではなく、一定の準備期間を置くとしても義務化を検討すべきではないか」との見解を示した。
高町委員は「医療事故調査制度ができるまでは、医療事故の原因分析をして再発を防止につなげることは被害者は裁判をすべきではなかった。医療事故調査制度は被害者が裁判をすることなくその原因を分析し再発を防止につながると考えていたが、適切な医療情報が報告されていないのではないかという指摘が報道されている」と指摘。「そのようなことに対応するために研修を進めていくことは必要だと思うが、その研修が表面的なものであってはならない。実際に医療裁判を提起しなければならなかった被害者の声を直接聞くような研修も検討していただきたい」と要望した。
災害医療、特例的対応を事前に決定・周知へ
災害医療については、災害発生時の診療報酬上の特例的な対応について、事前に対応を決めて周知しておくことが論点となった。事務局は、不幸にも災害が立て続けに起きたことにより、診療報酬上の特例的な対応も低経過されてきたことを説明した。
江澤委員は「災害特例が周知されるのは一定の時間がかかるので、個々の災害ごとに後追い的に対応するのではなく、事前に対応を決めて周知しておくことは災害の備えとして意義のあることなので、論点に示された内容に賛同する」と述べた。







