厚生労働省は12月1日、第130回社会保障審議会介護保険部会を開催した。2040年の高齢者人口ピークを見据えた次期制度改正(2027年度)に向けた議論が大詰めを迎える中、令和7年度(2025年度)補正予算案に盛り込まれた介護職員への賃上げ支援策が示されたほか、利用者の自己負担割合(2割負担)の対象拡大や、ケアマネジメントの有料化について委員から賛成・反対双方の意見が相次ぎ、白熱した議論が行われた。
介護職員・従事者に月額1万円以上の賃上げ支援(補正予算案)
厚労省は、物価高騰下における人材確保対策として、令和7年度補正予算案における総額2,721億円規模の「医療・介護等支援パッケージ」の概要を提示した。
賃上げ支援: 介護従事者に対し、幅広く月額1万円の賃上げ支援を実施する。さらに、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員には月0.5万円、職場環境改善に取り組む場合は月0.4万円相当の上乗せを行い、最大で月額1.9万円程度の支援となる見込み。対象期間は令和7年12月から令和8年5月まで。
サービス継続支援: 物価高騰の影響を受ける介護事業所に対し、食材料費や光熱費、送迎コストなどの経費を支援する。

利用者負担「2割」の対象拡大、資産(預貯金)判断に自治体側から懸念
制度の持続可能性を確保する観点から、現在「所得上位20%」としている2割負担の対象範囲を、「上位25%〜30%」程度(年収260万円〜230万円以上)まで拡大する案が議論された。 厚労省は急激な負担増を避けるため、以下の配慮措置案を提示した。
負担増の上限設定:新たに2割負担となる人に対し、当分の間、負担増加額の上限を月額7,000円に抑える。
資産要件の導入:所得基準で2割負担となっても、預貯金等が一定額未満であれば、申請により1割負担に戻す。

委員の主な意見
慎重・反対:日本医師会の江澤和彦委員は「物価高騰インフレ下の今行うタイミングではない」と慎重姿勢を示した。また、資産要件の確認事務について、全国市長会の大西秀人委員(高松市長)は「現状でも補足給付の判定は煩雑。現場職員にとって過重な事務負担になる」、全国町村会の中島栄委員(美浦村長)も「人手不足の町役場には相応の負担」として、丁寧な制度設計を求めた。
賛成・推進::一方、部会長代理の野口晴子委員(早稲田大教授)は「人口構造の変化は不可逆。制度をソフトランディングさせるために、一定程度負担能力のある方々に応分の負担をお願いすることは必要不可欠」と導入を支持した。
ケアプラン「有料化」、住宅型有料老人ホーム等で先行検討へ
現在、全額保険給付(自己負担ゼロ)となっているケアマネジメント(ケアプラン作成)の利用者負担導入についても議論が交わされた。事務局は、介護付き有料老人ホーム(特定施設)との公平性や囲い込み防止の観点から、「住宅型有料老人ホーム等の入居者に係るケアマネジメント」について利用者負担を求める方向性を示した。
委員の主な意見
賛成:全国健康保険協会の鳥潟美夏子委員は「ケアマネジメントの役割は確立されており、他のサービスとの整合性や関心を高めるためにも、一律に幅広く利用者負担を求めていくべき」と述べた。
反対:日本医師会の江澤委員は「住む場所によって自己負担の有無が異なることは説明がつかない」と反発。認知症介護研究・研修東京センターの粟田主一委員は「独居認知症高齢者が増える中、有料化は権利擁護の観点からリスクを高める」と懸念を表明した。
2040年に向けたサービス提供体制と人材確保
人口減少地域におけるサービス確保策や、有料老人ホームの規制強化についても方向性が示された。
人口減少地域の特例: 人材確保が困難な地域に限定し、人員配置基準を緩和した新たなサービス類型や、訪問介護の「月単位の包括報酬(定額払い)」導入を検討。
これに対し、認知症の人と家族の会の和田誠委員は「基準緩和を進めれば介護人材の確保を諦める方向に働くのではないか」と懸念を示し、あらゆる地域での報酬による評価を求めた。
有料老人ホームの規制: 中重度者を受け入れるホームへの登録制導入等を検討。
日本慢性期医療協会の橋本康子委員は「一部の極端な例のために全体の仕組みを変えるのは不公平感がある」とし、人員基準よりも虐待や身体拘束への対応に焦点を当てるべきと主張した。
ケアマネ更新制廃止: ケアマネジャーの更新制廃止方針に関連し、連合の平山春樹委員は「必要な研修は労働時間として扱われるべきで、費用も個人の負担とすべきではない」と注文を付けた。
今後の見通し
菊池部会長は「昨年12月から開始した議論について一通りの意見をいただいた」と総括した。厚労省は今回の議論を踏まえ、年末までに意見のとりまとめを行う予定だが、利用者負担やケアプラン有料化を巡っては依然として賛否の溝が深く、最終調整が注目される。






