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リハ議連、「給与倍増」を要望。加算から"真水"へ転換

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2025年12月4日、「リハビリテーションを考える議員連盟(リハ議連)」が、厚生労働大臣に対し、過去に例を見ない踏み込んだ要望書を提出したのだ。 今回の注目点は、従来の「加算」路線からの決別と、基本報酬の引き上げという「本丸」へのメスだった。現場の限界と政治の決断、その詳細をレポートする。

今回決議された5つの重要項目

11月26日の総会で採択され、今回大臣へ要望された主な項目は以下の通りである。

  1. 1.物価高騰に対応した持続的な賃上げ (令和7年度補正予算での「真水」による支援、令和8年度改定での12%以上の賃上げ、10年で給与倍増)

  2. 2.20年間変わらない診療報酬・基本報酬体系の抜本的見直し (疾患別リハ料の10%引き上げ、専門性の評価)

  3. 3.訪問サービス提供体制の再構築と基盤強化 (開設要件の緩和などによる地域格差の是正)

  4. 4.予防・公衆衛生に資する3療法士の活用 (約60年ぶりの資格法改正の検討、地域包括支援センターへの配置強化)

  5. 5.厚生労働省における「リハビリテーション課」の設置 (および「今後のリハビリテーション専門職の在り方検討会(仮称)」の設置)

衝撃のデータ「4割の施設でベアゼロ」

今回の要望において、最も強く訴えられたのが「処遇改善の失敗」である。 令和6年度のトリプル改定では「ベースアップ評価料」が新設され、賃上げへの期待が高まった。しかし、3協会(PT・OT・ST協会)が提示した実態調査の結果は残酷なものだった。

  • 介護・障害福祉施設の約4割で、過去2年間のベースアップ実施は「なし」。

  • 実施されたとしても、その多くは月額1万円未満。

  • 全産業の中で、医療・福祉職の賃上げ率は最低水準。

このデータに対し、総会に出席した国会議員からは驚きを通り越し、怒りに近い声が上がったという。「奨学金を返済しながら働く若手が、30代を前に生活のために辞めていく。これでは地域医療が崩壊する」

議連は、これまでの「加算」という間接的な手法では限界があるとして、「真水(まみず)」——つまり、経営状態に左右されず、確実に現場職員のポケットに届く形での補助金支給(令和7年度補正予算で月額2万円)を強く求めた。さらに、「令和8年度改定での12%以上の賃上げ」、長期的には「10年で給与倍増」という野心的な目標を政府に突きつけている。

「20年間、時が止まったまま」の基本報酬

なぜ、リハ職の給与は上がらないのか。その構造的な元凶として名指しされたのが、平成18年(2006年)から約20年間にわたり据え置かれ続けている「疾患別リハビリテーション料」の基本点数(205点)だ。

外科手術や内視鏡検査などの技術料が、医療の進歩とともに見直されてきた一方で、リハビリテーションの技術料だけが取り残されている。「20年間、物価は上がり、技術は進歩しているのに、報酬単価だけが変わらないのは異常」。 要望書では、この「失われた20年」を取り戻すべく、基本点数の10%引き上げを最低ラインとして要求。技術料そのものを底上げしなければ、原資が確保できず、持続的な賃上げは不可能だという結論に至った形だ。

「住む場所」でリハビリ格差を生ませないために

地域医療の崩壊も、待ったなしの状況である。現在、市町村の約4割で訪問リハビリテーション事業所が「ゼロ」という地域偏在が起きている。 早期のリハビリ介入が医療費を削減し、介護度悪化を防ぐエビデンスは既に揃っている。にもかかわらず、厳しい開設要件が障壁となり、必要なサービスが届いていない。議連は、被災地での特例措置(要件緩和)を平時の過疎地域にも適用し、全国どこでもリハビリが受けられる体制の構築を求めた。

政治は「待ったなし」と判断した

「人を支える人が、報われる社会へ」。 鈴木俊一会長の言葉に象徴されるように、今回の動きは単なる業界団体の陳情ではない。180名の国会議員が「リハビリ職の待遇改善なくして、日本の社会保障は維持できない」と判断し、動き出した証左である。

令和8年度に向けた予算編成と報酬改定の議論は、これから正念場を迎える。現場の声を背負ったこの要望書が、どこまで実際の政策に反映されるか。我々リハビリテーション専門職一人ひとりが、その行方を注視し続ける必要がある。

「加算」の限界を超えて。「真水」要求が示すリハ職の覚悟

これまでPOSTでは、令和6年度改定で導入された「ベースアップ評価料」について、その複雑な仕組みや現場への波及効果を報じてきました。当時の議論の中心は、「いかにして新設された加算を算定するか」という制度への適応でした。

しかし、今回のリハ議連による要望書は、過去の議論とは一線を画す「戦術の転換」を意味しています。

最大のポイントは、複雑な「加算」による誘導ではなく、「真水(まみず)」——つまり、制度の隙間に消えることのない直接的な支援(月額2万円の補助金)を求めた点です。 過去2年間のデータで「約4割の施設でベースアップなし」という実態が明らかになった以上、「加算を作ったので、あとは経営努力で」という従来の方針が通用しないことは明白です。議連と3協会は、この「政策の不発」を率直に認め、より直接的で強制力のある手段へと舵を切ったと言えます。

さらに、20年間据え置かれてきた「基本報酬」への言及は、小手先の微修正ではなく、リハビリテーションの「技術的価値」そのものの再評価を迫るものです。

「仕組み」の議論から、「価値」と「実利」の議論へ。 今回の要望は、長年耐え忍んできたリハビリテーション業界が、政治に対し「同情ではなく、正当な対価」を求める重要な要望となる。

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この記事の執筆者
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今井俊太
【POST編集部】取締役 兼 編集長

理学療法士としての現場経験を経て、医療・リハビリ分野の報道・編集に携わり、医療メディアを創業。これまでに数百人の医療従事者へのインタビューや記事執筆を行う。厚生労働省の検討会や政策資料を継続的に分析し、医療制度の変化を現場目線でわかりやすく伝える記事を多数制作。
近年は療法士専門の人材紹介・キャリア支援事業を立ち上げ、臨床現場で働く療法士の悩みや課題にも直接向き合いながら、政策・報道・現場支援の三方向から医療・リハビリ業界の発展に取り組んでいる。

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