お節介おばちゃんが「友達になるための壁」を壊してくれる
ー 「コミュニティーに入っていけない」「友達ができない」という悩みは積極性が少ない国民性も関係しているかもしれませんね。
オリィ 日本人の国民性的には、半強制的にマッチングする仕組みがあった方がいいと思っています。
私みたいに、相手からの会話を全力で待ち構える姿勢を取ることが難しくても、お節介おばちゃんが間にいて、仲を取り持ってくれれば、解決できますよね。
前回、年齢差別の話をしましたが、会社で偉い地位にいた人が定年後、高齢者コミュニティーに参加するとなった場合、プライドが邪魔してなかなか声がかけられないということってやっぱりあると思うんですよね。
そんなときに周りも「偉そうなやつだから放っておこう」ではなく、「この人とあなた、気が合いそうだから、絶対喋った方がええわよー」とお節介な人がいてくれた方が、長期的には幸せに向かう気がしませんか?
そのお節介おばちゃんは、実在する人物はもちろん、AIでもいいと思っています。
ー コミュニティーに所属しても、しばらくしてその居心地が悪くなってしまい、その中で孤立してしまったり、悩まれる人も思います。
オリィ なので、私は、3つくらいのそれぞれ独立したコミュニティーに所属している方がいいと思っています。
複数所属していれば、もし一つのコミュニティーで人間関係が悪化しても、「大丈夫、自分にはあとふたつある」と思えて余裕ができますし、そのコミュニティーとの縁をきっても気にならないはずです。
これは、仕事においても一緒ですよね。収入源が3つぐらいあれば、所属している会社からクビになったとしても生きていけますから、ビクビクしすぎることもない。
自分が自分らしく生きていくためには、複数のコミュニティに入って、逃げこむ先を作っておくことが大切だと思います。
ALS患者の7割が生きるよりも死ぬ選択をする
ー 今、自分らしさの話がありましたが、自分らしさという言葉ってけっこう曖昧な表現だと思っていて、どうすれば自分らしく生きられるのか目標設定に悩んでいる人もいると思うのですが、オリィさんの中で何かそれに対する答えはございますか?
オリィ これまでALS患者さんと多く接してきて分かったのが、「医療がどれだけ発達しても、自分らしく生きれないのであれば、死を選ぶ」ということです。
現在、日本には1万人のALS患者さんがいると言われていますが、そのうち人工呼吸器を装着する選択をする方は3千人だけだそうです。つまり、ALS患者の7割が死ぬという選択をしていると言えます。
この地球に生まれてきた瞬間は、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求なんてものはなく、とにかくまず生理的欲求や安全欲求、つまり生きていくことが最優先事項だったはずです。
この錯覚はおそらく、歳を重ねて周りから「おめでとう」「ありがとう」と言われる経験を積み重ねたからこそ「認められたい」や「求められたい」という欲求が強くなることに由来しているんだと思っています。
本人が「自分は役に立たない存在だ」と思っていたら、周囲がいくら「君は仲間だよ。僕らは君が居てくれるだけで嬉しいんだよ」と言ったところで、自分らしく生きていると言えないと思います。
現に、番田に秘書業務をやってもらっていた頃「あんまり一員である感覚がしないんだよね」と言われたことがあります。
彼は、当時在宅にいながらもオリィ研究所の一員として、仕事をして給与も発生していました。コミュニティーにたしかに所属していたはずなのですが、彼自身には「帰属意識」がなかったのです。
それからは、出来る限りOriHimeで毎日出社してもらい、これまでメールだけでやっていた報告を、オフィス内で「〇〇の件、完了しました!」「〇〇の件、契約取れました!」などと、わざとらしく声に出してもらうようにしました。
また、それに対して周りのスタッフも「おつかれ!」「すばらしい!」と褒め合う文化も作りました。社内コミュニケーションが増えたことで、番田自身が自分の仕事に価値があるものだと気づき、次第に仲間意識が芽生え、勉強意欲が高まり、ポジティブな発言が多く聞かれるようになりました。
つまりここから何が言いたかったかというと、自分らしく生きるためには、人は頼られる存在になり、それを本人が自覚するという確固たる自信が必要だったんだと思います。
「少なくとも足を引っ張らずに一緒にいることができる」「大切な人を守っていくことができる」という自信が、自分らしさに繋がっているんだと思います。
【目次】
第一回:OriHimeが創る参加2.0 外出の価値とコミュニティー
第三回:「自分らしく生きる」の正体
【連載|ADLTech】
排尿コントロール:尿失禁・頻尿をテクノロジーで未然に防ぐ