
人工膝関節全置換術(TKA)と人工股関節全置換術(THA)の術後リハについて、国内外のガイドラインを並べました。比べたのは、米国理学療法士協会(APTA)、英国国立医療技術評価機構(NICE)、米国整形外科学会(AAOS)、日本の理学療法ガイドラインと変形性膝関節症診療ガイドラインです。介入ごとに、何がどの強さで勧められているかを1枚の表にしています。術後24時間以内にリハを始めることや、漸増的な筋力強化のように、複数の資料で向きがそろう介入があります。一方で、監督下のリハと自宅での自主練習のどちらを基本にするか、寒冷療法をどう位置づけるかは、資料によって書き方が分かれています。日本の2つのガイドラインには、術後リハの「推奨の強さ」が付いた項目がないことも分かりました。
目次
- 0. 比べた資料と、この特集の読み方
- 1. エビデンス地図(介入×ガイドライン)
- 2. 複数の資料で向きがそろう介入
- 3. 監督下のリハか、自主練習か
- 4. 寒冷療法・NMES・遠隔リハ
- 5. 術前のリハ
- 6. THAの脱臼予防の動作制限
- 7. 日本の2つのガイドラインに「推奨の強さ」がない理由
- 8. 自院の術後プロトコルで見直したい8項目
- エビデンス地図(Excel)のダウンロード
- 参考資料
0. 比べた資料と、この特集の読み方
本特集では、2026年10月25日時点で全文を読めた次の7つの資料を比べました。どれも発行元のサイトやPubMed Central、日本のガイドライン検索サイト「Minds」で無料で読めます。
| 資料 | 対象 | 強さの表し方 |
|---|---|---|
| APTA TKA理学療法ガイドライン 2026年改訂版(1) | 初回TKA(膝のみ) | strong/moderate/weak/consensusの4段階 |
| APTA 同 2020年版(2) | 初回TKA(膝のみ) | strong/moderate/weak/best practiceなど(2026年版と体系が一部違う) |
| NICE NG157 人工関節置換術(3) | 股・膝・肩 | 推奨文の言葉(offer=勧める、consider=検討する) |
| AAOS 膝OAの手術的治療 2022(4) | 膝 | Strong/Moderate/Limited/Consensus |
| AAOS 股関節OAの治療 2023(5) | 股(保存療法と手術の両方) | 同上 |
| 理学療法ガイドライン 第2版 第11章・第12章(6, 7) | 股・膝 | TKA・THAの項目は「ステートメント」(強さなし) |
| 変形性膝関節症診療ガイドライン2023(8) | 膝 | TKAのリハはBackground Question(強さなし) |
NICE NG157は2020年6月の公表です。その後、2021年、2022年、2024年に小さな修正がありましたが、リンクの追加や更新だけで、リハビリの推奨の中身は変わっていません(3)。APTAの2026年版は2020年版の改訂で、推奨は20項目です(1)。2020年版からの主な変更点は、別の記事「人工膝関節のリハ指針、6年ぶり改訂 米PT協会が推奨20項目」で紹介しました。
比べる対象から外した資料が2つあります。1つは、日本整形外科学会と日本股関節学会の「変形性股関節症診療ガイドライン2024(改訂第3版)」です。Mindsで「本文公開交渉中」となっていて、本文を読めませんでした(9)。もう1つは、APTAの整形外科部会(APTA Orthopedics)がJOSPT誌に出した股関節OAの診療ガイドライン2025年改訂版です。採用した研究を手術を受けていない患者に限っているため、術後リハの比較には入れませんでした(10)。
表の読み方で、先に注意しておきたい点が2つあります。
- 強さの物差しは資料ごとに違います。APTAの「moderate」とAAOSの「Moderate」は、同じ言葉でも決め方が違います。NICEは段階で示さず、推奨文の動詞で強さを表します。表では各資料の表記をそのまま載せたので、列をまたいで強弱を比べないでください。
- 「記載なし」は「勧めない」ではありません。その資料が取り上げていない、という意味です。たとえばAAOSの膝のガイドライン2022は手術の方法を中心にした資料で、理学療法の個々の介入の推奨はありません。リハに関わるのは退院先の項目だけです(4)。
1. エビデンス地図(介入×ガイドライン)
介入ごとに、各資料の推奨と強さを並べました。右端の列には、同じテーマのコクランレビューや新しいシステマティックレビューの結論を載せています。










