起業とそれから
インタビュアー:前回の内容は、主に理学療法士を目指されたきっかけと、起業に至るきっかけという2つの分岐点についてお伺いしました。
−−−起業をされて最初に始めた事業は何ですか?
達川先生:訪問看護ステーションですね。当初はPTが法人で事業をするなら訪問看護しかなかったです。当時に知り合った看護師と保健士の方々に訪問看護を教えてもらって、看護に関心を持ちました。
インタビュアー:看護師はすぐ辞めちゃうってよく聞きます。実際はどうなのでしょうか?
達川先生:うちは幸いそういうことがなかったですね。看護を大事にしていたっていうのもあると思いますけどね。
インタビュアー:その後に何をされましたか?
達川先生:デイサービスですね。実は病院で働いている時に訪問看護ステーションとデイサービスをやるという計画は立てていて、デイサービスは商店街の近くとか馴染みのある場所でやりたいというのがありましたね。例えば、病院の平行棒で練習していて、どこに出かけたっていう事を聞かないので、そういう街中がリハビリの舞台になってもいいんじゃないかなと思っていました。
インタビュアー:確かに商店街にデイサービスってないですね。
達川先生:そういう場所で歩くことで地域に参加という気持ちにもなりますしね。
インタビュアー:徒手療法を娯楽という風にとらえていると言われていたのですけど…
達川先生:その前に、リハビリテーションと理学療法の境がわからない若い人が多いなって思って。学生さんにこのことを聞いても答えられる人がいないですね。若い教官の方にも聞いた時に、答えられなかったので、ショックを受けました。
リハビリテーションにも医学的リハビリテーションと社会的リハビリテーションがあって、医学的リハビリテーションの中に理学療法があると思います。医学的リハビリテーションは病院で怪我や病気の人にとっては、とても意味がある事です。しかし、そういう人たちが退院して、社会に出た時に医学的リハビリテーションを病院の外で展開しても意味がないと思うんですよね。
障害を持った状態で、社会の中でどうやって自分らしく生きていくかっていう社会的リハビリテーションが大事だと思います。今では地域リハビリテーションや訪問リハビリテーションという言葉があるけど、若い人たちの多くは、医学的リハビリテーションを在宅でしようとする人たちが多いです。
私は、在宅を中心に社会的リハビリテーションを行うことが必要だと思っています。だから、逆に病院で社会的リハビリテーションをやっても仕方がないですよね。そのための住宅改修や他職種連携等のスキルであるんだと思います。
インタビュアー:起業した当初からそう思っていたのですか?
達川先生:言葉にしっかり出せるようになったのはここ数年ですね。
医学的リハビリテーションと社会的リハビリテーションのどちらも出来るのがPT
インタビュアー:地域リハビリテーションなどをやりたいという若い療法士が増えてきていますが、医学的リハビリテーションと社会的リハビリテーションを分けた時に、従来の急性期、回復期を学んでから地域リハビリテーションを学ぶという流れでは古いと思われますか?
達川先生:古いかどうかはわからないですが、必ずしもその順番でなくても良いと思います。ただ、地域リハに行きたいけど、とりあえず病院で働くという人は、最終的に地域リハに行かないですね。そもそも病院は地域や在宅リハの練習場じゃないのだから、地域や在宅リハをやりたいなら初めからそういうところで勉強するべきだと思います。
それに、就職試験で病院側に「何年か後に地域リハや在宅リハをやりたいです」と言えないと思うんですよね。その時点で自分に嘘をついていますよね。病院にいくなら急性期をとことん学ぶとか、どっちにしろ、プロフェッショナルが必要ですよね。
今の若い子たちが地域リハビリテーションをどうとらえているかはわからないけど、在宅で医療や技術を提供するのか、本当に社会的リハビリテーションをしようと考えているのかですよね。
社会的リハビリテーションというのは、PTじゃなくてもできるんですよ。ただ、医学的リハビリテーションと社会的リハビリテーションのどちらも出来るのがPTだという事が大事だと思います。医学的リハビリテーションの知識を持って社会的リハビリテーションをするから意味があるのだと思います。
インタビュアー:という事は、やはり最初に病院で学んだ方がいいのでは?
達川先生:病院で社会的リハビリテーションを学べるのであればいいですけど。一番怖いのは、医学的リハビリテーションのみで在宅リハをやってしまうと、かなり歪んだものになってしまうと思います。
インタビュアー:今の若い子たちは、社会的リハビリテーションをどこで学べばいいのですか?実習とかだと病院実習はありますが。
達川先生:社会的リハビリテーションを学ぶ前に、そもそも社会とか生活っていう部分が欠けていると思います。病院で働いている人は、病院しか知らないから社会人と言えないと思うんですよね。その感覚でやっちゃうと、生活も見えないのではないかなと思います。
今では、地域包括ケアの中で「もっと専門性を強めるべきだ」という若い人が多いですが、それよりも社会性を強めた方がいいのではないかなと思います。社会性を持っている専門性のある人がやるから意味があるのだと思います。それがコミュニケーションにもつながりますしね。
インタビュアー:強い専門性を望んでないってことですね?
達川先生:そうですね。今以上の専門性は望んでないですよね。
次回:「今後の展望。リハビリ業界は可能性に満ちている」、明日3月6日(日)配信予定です。
(インタビュー:輪違 記事編集:蜷川・林)
達川 仁路先生経歴
【資格】理学療法士、ケアマネジャー
【学歴】
福井医療技術専門学校卒業
【職歴】
平成4年4月より市立敦賀病院リハビリテーション科勤務。
平成17年5月より有限会社リハぷらす設立、現代表取締役
二州介護支援員連絡会会長