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【連載 ヨガとリハビリテーション】 日本は痛み医療の最貧国?

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日本ペインリハビリテーション学会へ

先日、第21回日本ペインリハビリテーション学会に参加するため、名古屋まで行ってきました。

私が今勤務している大学病院のペインクリニック診療部長である、ペインクリニック専門医の北原雅樹先生と、一緒に勤務している女性理学療法士と参加しました。

北原医師は、世界で初めて設立された学際的痛みセンター・ワシントン大学ペインセンターで臨床経験を積まれた、経験豊かな「痛みのスペシャリスト」です。

当日会場には300人くらいの医療従事者が揃っていました。昨年2015年の理学療法士国家試験がちょうど第50回目の国家試験だったのですが、5年前からついに受験者数が毎年1万人を超えて、2016年現在、国内の理学療法士数は12万9942人にまで増えました。

12万人以上も理学療法士がいて、本学会の参加者がたった300人とは、しかも300人全員が理学療法士とは限らないので、

「まだまだ慢性疼痛に対するリハビリテーションへの理解と関心が低い」

と、北原医師は嘆いていました。

土日が出勤だったり、名古屋会場まで行けない、学会費の負担が大きい、という理学療法士もいるので、もちろん参加は自由だと思います。でも、もし理学療法士が慢性疼痛に対して、

「知らない」「興味がない」「知る必要はない」

と言うなら、

「本当に毎日患者さんと接しているのかな?」

と思ってしまいます。といっても、私も慢性疼痛について興味を持ち始めたのは、北原医師と出会ってからなので、私が慢性疼痛についていろいろ語るには時期尚早かもしれません。

 

 

日本の慢性疼痛の現状

慢性疼痛とは、それぞれの疾患の治癒に本来必要な時間を経過しても、3〜6ヶ月以上続く痛みのことです。

日本慢性疼痛学会によると、慢性疼痛に苦しんでいる方は国内で14〜23%、約2000万人を超えるといわれています。

高齢者は除外して、働き盛りの年齢層の方が痛みを患うことにより、生産性が落ちて、なんと年間3700億円もの経済的損失となっています。「生産性が落ちる」とは、痛みが原因で遅刻・早退・欠勤をしたり、痛みが原因で失業・転職・休職・退職をして経済的に損失をすることです。

ちなみに1位は精神疾患で、毎年1兆円の経済的損失、2位がこの慢性疼痛で、先述した通り毎年3700億円の損失となっています。

これに対して厚生労働省は、2011年度の予算に初めて、慢性疼痛関連の科学研究費として1億3000万円を導入しました。ですが、経済的損失だけでなく、通院や投薬などによる医療費、本人だけでなく家族の負担も考えると、全く足りません。

日本は世界に比べて、慢性疼痛治療へのアプローチが極端に遅れています。北原医師も、「日本は痛み医療の最貧国」だと、本学会で訴えていました。

 

ヨガと慢性疼痛

働きたいという意欲はあるのに、

「痛くて働けない・・・!」

という患者さんを今目の当たりにしています。

慢性疼痛患者さんへの治療法は様々ありますが、麻酔科医の診断のもと、理学療法士が運動療法でアプローチすることでも、痛みで苦しむ患者さんが少しずつ変わっていくのです。

私は慢性疼痛を患う患者さんに対しても、治療のツールの一つとしてヨガのポーズを推奨しています。

例えば、四つ這いで脊柱の屈曲と伸展を繰り返す、「CAT&COWポーズ」です。四つ這い位が辛くて取れない方には、椅子座位や正座で「CAT&COWポーズ」を行ってもらいます。

 

「スフィンクスのポーズ」も有効です。リハビリでは「パピーポジション」と呼ばれる、腹臥位で肘をついた状態で上体を起こすポーズです。こちらは主に胸椎を伸展させます。

可能なら「コブラのポーズ」で、腰椎を中心に脊柱全体を伸展させます。


他には「ガス抜きのポーズ」も大切です。背臥位で両膝もしくは片膝ずつ両手で抱えて、骨盤の後傾や腰椎の後弯を促したり、殿筋群をストレッチします。

ストレッチだけでなく筋力強化も行います。殿筋群の強化には「橋のポーズ」が有効です。リハビリでは「ヒップリフト」といわれる、重要なエクササイズです。

 

私が所属しているペインクリニックでは、物理療法や徒手療法はほとんど行いません。運動療法によって、患者さん自ら身体を動かすことを知ってもらい、継続してもらうことで心身の変化に気付いてもらい、自分で自分の身体とうまく付き合っていけるように促すのです。

慢性疼痛治療のゴールは、「痛みをなくすこと」ではなく、「ADLやQOLを高めて、痛みとうまく付き合っていくこと」だからです。

 

私がヨガクラスの生徒さんにヨガを教える時は、ポーズに慣れたり飽きたりしている方も多いので、ベーシックなポーズにアレンジを入れて、少し複雑なポーズを導入することがあります。

一方で、患者さんの治療でヨガポーズを活用する時は、いかに分かりやすくシンプルで、その症例に効果的なポーズであるかが重要です。

治療には、リハビリの時間に理学療法士と一緒にエクササイズするたったの数分間より、家や職場や学校で、自分でそのエクササイズを、正確に、頻繁に、長く続けられるかどうかにかかってくるからです。

理学療法士による運動療法だけでなく、認知行動療法も取り入れると、より慢性疼痛治療に効果的であることも明らかです。

ときに精神科医、整形外科医をはじめとした各科の医師、看護師、臨床心理士、鍼灸師、作業療法士や言語聴覚士の力も必要です。

お互いの専門知識や技術を活かし、連携することで、より良い医療を患者さんに提供していくことが私達の使命です。

 

(参考:ACCJ-EBC医療政策白書2015年版)

 

【バックナンバー】
▷タレント活動する理学療法士
▷女優から理学療法士へ
▷私が大学院に行く理由
▷ヨガとリハビリテーション −連載第1弾−
▷足への意識で身体は変わる。 −連載第2弾−
▷知足と満足 −連載第3弾−
▷セラピストが身体を動かしていますか? −連載第4弾−

▷日本は痛み医療の最貧国? −連載第5弾−

 

堀川ゆき先生経歴

滋賀県近江八幡市に生まれる。

2002年:上京して劇団青年座研究所に入所する。

2005年:テレビ朝日「秘湯ロマン」レポーターとして活動する(〜2013年)。

2006年:単身ニューヨークに3ヶ月間渡り、Michael Gilbert、Debellis Nixa、Horowitz Carlの指導のもと全米ヨガアライアンス認定ヨガインストラクター資格を取得。ニューヨーク中のヨガスタジオを訪れ、約200コマの様々なヨガクラスを受講してまわり、ニューヨークのヨガスタイルに深く影響を受ける。帰国後ヨガインストラクターとして活動。ヨガの聖地インドのリシケシのヨガニケタンアシュラムや、スウェーデン、ドイツ、デンマーク、タイなど各国を旅して現地のヨガを体験する。

2008年:アンダーザライトヨガスクールにて受付業務を担当する。

2010年:高級会員制フィットネスクラブ ウラクアオヤマにてヨガを中心としたレッスンを担当。同時に2011年より自身主宰の都内のスタジオで完全紹介制パーソナルレッスンを開始。ヨガ・マットピラティス・ペアマッサージストレッチを組み合わせたオリジナルのレッスンを行う。

2015年:都内大学病院及び整形外科クリニックにて理学療法士として勤務する。

 

学歴

2013年:日本大学文理学部英文学科卒業

2014年:東京メディカルスポーツ専門学校理学療法士科卒業

2015年:慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修卒業

    慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程入学

 

学位             

健康マネジメント修士

 

所属

慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程           

 

資格・免許                                                                                      

・理学療法士

・全米ヨガアライアンス200(ニューヨークヨガスタジオTeacher Training Course修了)

・抗加齢指導士

・特殊小型船舶免許

・文部科学省認定 色彩検定2級

・京都府洋裁学校正教員資格

 

所属学会         

・公益社団法人日本理学療法士協会

・日本抗加齢医学会

・日本スポーツ産業学会

・日本ペインリハビリテーション学会

 

社会的活動           

2011年:いわき市社会福祉協議会災害支援ボランティアセンター ボランティア

 

出演・掲載など

2005年:テレビ朝日「秘湯ロマン」レギュラーレポーター出演(〜2013年)

2008年:日本文芸社「荷風!」都電のある風景 レギュラーモデル出演

2010年:iPhone& iPadアプリ「堀川ゆき インド・リシケシ・ヨガの旅」ヨガポーズ写真集発売

2015年:日本スポーツ産業学会第24回大会号掲載「メンズヨガ —男性のヨガに対するイメージとヨガセッション後の変化—」他

【連載 ヨガとリハビリテーション】 日本は痛み医療の最貧国?

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