尿失禁に対するリハビリテーション
ーー なぜこの分野に進まれたのですか?
フランスワーズ先生:まだ理学療法士になる前、産後のリハビリテーションに立ち会いました。その際に腹筋をするだけの足を動かす訓練しかしておらず、その中でも腰痛、尿失禁の要素はアセスメントになく、リハビリテーションには取り組まれていなかったんです。
理学療法士の学生だった頃、実習先のクリニックで見学していた時に理学療法士の方に「まだこの患者さんは痛みがあるようです」と意見をしました。
すると、「もしこの実習を無事終わらせたいのなら、私が言うようにやりなさい」と言われました。
そのような経験から卒後知識を学び始め、ストラスブルグという地域の理学療法学校で初めて、産前産後の尿失禁などのリハビリテーションを教えられました。それは1979年の話です。
その時に、自分に経験のない状態でリハビリテーションをするのに抵抗があったため、卒後に様々な勉強会に参加したり、情報を取り入れました。フランスだと大学の中でのセミナーがあり、「尿失禁に対するリハビリテーションが何をするのか」などを理解し、自分の中で徐々に整理され、記事を書くようになりました。
特に尿失禁に関してはさらに上の次元で、”公衆衛生的にペリネリハビリテーションが何に役に立つのか”という部分に興味をもち、大学に行きました。ペリネリハビリテーションにより、尿失禁をもち、それを抱えながら生きてる人でどれだけコストが違うのかなどの研究しました。
2人の医師との出会い
ある時、ミリアル医師と出会いました。ミリアル医師はペリネリハビリテーションを広めるため、様々な活動をされていたんです。その医師がフランスの中で様々な尿失禁セミナーを開かれた最初の1人であり、ヨーロッパの中で初めて“尿失禁リハビリテーション”という資格を作った方です。
他にも産婦人科の大権威であるフィニア医師は、尿失禁リハビリテーションの価値と効果をずっと勉強されてきた方です。
法の整備が行われ本格的なペリネリハビリテーションへ
フランスの中でペリネリハビリテーションを、我々療法士が「リハビリテーションにおいて使用出来る」と法的に認められました。その頃から、学生たちにペリネリハビリテーションをいち早く知ってもらいたいと思っていましたね。
「外来の患者さんに対してやるなら知識をもち、知識をもたないなら適当にやらないでください」と伝えてきました。
フランスの学校だと必ず実技の講習があります。患者さんのところへ行き、触診の練習をします。大抵、男子がかたくなっていますけどね。
フランスですと「聞いただけでやりたくない」と思われないように、実技の講習を守ってきました。その甲斐があって、役に立つという事を知ってもらえるようになりました。
今は昔と違い、骨盤底筋だけではなく、姿勢が変わると骨盤底筋の動きが変わり、ホルモンの変化、妊娠、閉経時にもそれらが変わり、腰椎、背筋、腹筋、呼吸筋、特に横隔膜など、それらすべてに影響すると言われています。
ペリネリハビリテーションにおいて一番大事なことが、患者さんのコンプライアンスを得られなければいけない点です。触診があるため、第1回目はほぼ説明と、どのようにエデュケーションをするのかに時間を費やします。
2回目は、それを続けるのかどうか、はっきりさせるのもペリネリハビリテーションの特徴のひとつです。そうでなければ起訴されてしまいます。
ペリネリハビリテーションの普及
ーー エデュケーションはインフォメーションではないというのがその通りだと思ったのですが、先生が教育する上で気をつけているポイントはありますか?
education. 不可算名詞 [また an education] (学校)教育 《 【類語】 education は人が身につけるにいたる過程を意味する語.
(英和辞書 Weblio辞書)
日本では、度々「教育」訳されることがあるが、実際には教育と似て非なるもの。語源はラテン語であり、「能力を引き出す」という意味になる。
フランスワーズ先生:エデュケーションセラピーにはWHOの中でも明確な定義がありますので、情報とは違います。情報とは直線的なもので、張り紙程度のものとなります。つまりは、患者さんの意見やフィードバックがないことになります。
エデュケーションセラピーには3つの特徴があり、1つ目は明確な定義があることです。2つ目は多職種で行うこと。3つ目はスキルをもった病院、施設で行うことによって補助金が厚労省からもらえることです。
患者さんに行う際、査定がありまして「患者さんに施しますので予算をください」と厚労省の直轄の機関に申請をします。それで補助金が出るか出ないか査定があります。また、4年に1度、施設がきちんと続けているかも特徴の1つとなります。
ーー ペリネリハビリテーションが大切だと思うのですが、日本ではまだまだ知られていません。どのようにすればもっと普及していきますか?
フランスワーズ先生:フランスの場合ですと、産後のリハビリテーションでは尿失禁のリスクが高いというのが、産婦人科医が自覚し、エビデンスのもと「予防しないと危険である」と知っているため処方してくれます。
そのため医師と連携し、診察などで患者さんに尿失禁があるかどうか問診して頂き、医師が言うことで信頼も高まりますから、世の中への広報に繋がるのではないかと思います。
慢性的に咳き込んで、その際に腹圧に負担がかかり、膀胱に圧がかかって尿失禁が生じているかもしれないですが、問診の際に聞いてみないと、それはわかりません。
フランスでは、そういった学術的なものが漫画となり、出回っています。待合室にガイドラインとしておくこともあります。患者さん自身に自覚してもらうのが大切だと思います。患者さんのプライベートを尊重しつつ、生活の中で何がいけないかを調査します。
日本の皆さんへメッセージ
日本とリハビリテーションに関する交流が初めて出来たことに改めて嬉しくそしてありがたく感じております。 フランスに戻り周囲の方々とも今後、日仏間でどのようなことが実現可能かについて話し合っています。
特に私が感心したのは日本人学生が研究に取り組む情熱のある姿勢でした。 今回の遠征で確信したのは、日本もフランスも新世代のセラピスト達は新たな時代を迎えるため進化しつつあるということです。
パリ国立病院で管理職者としてセラピスト達や実習生にどのようなきっかけを与えればその人はリハビリテーションにより興味を持って頂けるのかを常に考えてきました。
そのおかげで自立した若者を何人も見てきましたが、それは私にとっても本人達にとっても誇らしいことでした。 臨床を実施する場がフランスに比べまだ少ないという現状だと理解しましたが、是非興味のある方にフランスへ来て頂きメンズ•ウィメンズヘルスの現場を体験して貰いたいと願っております。
また両国の交流が深まり、将来的に交換研修や共同研究等も発展出来ればリハビリテーション学の未来に役立つと信じています。
(通訳協力:立花祥太朗先生)
布施先生ご登壇イベント
【日時】2017年10月15日(日) 10:00〜18:30
【大会長】佐藤 千佳(女性のリハビリテーション研究会)
【会場】浅草ヒューリックホール
※総武線「浅草橋駅(西口)」より徒歩1分
※都営浅草線「浅草橋駅(A3出口)」より徒歩2分
【対象】療法士、看護師、助産師、その他セラピストなど
【定員】500名
詳細はこちら>>http://woman-forum.jp/whcf2017tokyo/
Françoise NOURDIN-BIZOUARD(フランスワーズ ヌルダン•ビズアール)先生のご紹介
【専門】ペリネオロジー、公衆衛生、医療経済学、病院マネジメント、教育
【執筆関連分野】ペリネオロジー、リハビリテーション、医療経済 etc.
※ペリネオロジー(フランス):ペリネオロジーとは尿失禁及び便失禁を治療あるいは予防するための分野である。主に会陰から骨盤底筋の役割や尿力学などを学び適切なリハビリテーションプログラムを提供するのが目的である。
1990年から2015年までフランスを代表するパリ公立病院連合AP-HPにて三つのリハビリテーション部の部長として勤務され、現在も講師としてペリネオロジー学の専門理学療法士として専門学校や大学で教鞭を執られております。
International Continence Societyメンバー及びフランス語圏国際尿力学とペリネオロジー学協会会員として国内を始め海外(ブラジル、レバノン等)で数多くの講演を行っており、フランス医療高等評価機構の顧問もされております。
現在はLariboisiere病院で研究をされていると同時に、パリ理学療法士委員会の副会長としてフランスの理学療法学の発展に貢献されている人物として知られています。
【資格】
1972年 ナンシーのIFMK(理学療法士専門学校)卒業、理学療法士国家資格取得
1977年 Bois Larris保健医療管理職育成機関(IFCS) 卒業
1990年 パリ第6大学にて骨盤底領域の研究の学内資格取得
1992年 サンテティエンヌ ジャン・モネ大学にてペリネリハビリテーションヨーロッパ認定資格取得
1998年 パリ第7大学にて経済社会科学における学内資格を取得
1999年 パリ第10大学にて公衆衛生学修士課程 (医療法学と医療経済学専攻)修了
2004年 パリ第7大学にて医療施設マネジメント修士課程修了
【職歴】
1972-1974年 ロシュプランリハビリテーションセンター及びポルティシオタラソセラピーセンターで理学療法士として勤務
1974-1978年 コルマール総合病院センター整形外科部門リハビリテーション科勤務
1978-1981年 理学療法士育成機関講師(パリ市)兼、公立病院勤務
1981-1985年 モントルイユ=スー=ボワの地方自治病院勤務
1985-1990年 クレテイユ公立病院リハビリテーション部部長
1990年以降 パリ公立病院連合Lariboisière病院上級管理者、医療従事者チームの管理者及び研修生責任者
(チーム85名うち理学療法士50名) 研修生や学生の指導者とともに骨盤周囲に関するリハビリテーション(pelvipérinéalogie)セミナーを行う