第三回:熱傷にはじまり、腎不全、バイオメカニクス、そして脳研究へ【森岡 周先生|理学療法士|畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授】

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脳研究を行うことで起こった様々な批判

― 脳の研究はいつ頃から開始されたのですか?

 

森岡先生 先ほど話した通り、当初は姿勢制御研究を運動学的手法を用いて行なっていましたが、臨床では、筋力が向上した場合でも、患者さんの姿勢バランスが必ずしも安定しないこともあるわけです。

 

つまり、その外れるケースをターゲットにしないと、本当の意味での姿勢バランスの決定要因には迫れないと思ったわけです。

 

20代後半は、今のように週末が仕事で忙しくなく、子供と動物園に行くことがありました。私は、時に子供そっちのけで、サル山でサル同士の関係性を読み取ることや、フラミンゴの姿勢を時間をかけて観察していました。

 

ある時、フラミンゴの細い腱しかない足で、そして寝ているにもかかわらず、どのように姿勢を制御しているんだろう、と考えこんでしまったのです。

 

当時、「フラミンゴの立位重心動揺を測らせて下さい」とお願いしたこともありました。結局のところ、様々な障壁で実現できませんでしたが(笑)。

 

また仕事の関係で、バレエダンサーと会話することがあり、その方の知覚経験を聞いたことがありました。

 

中でも一人称的に「床を感じている」といった類の表現が多く聞かれ、普段私たちが無意識であるものを意識におこす心的手続きを加えていることがわかりました。

 

この作業を通じて微妙な誤差を検出することで、例えば、つま先片足立ちの際にも揺らぎを最小限にすることでき、それにより、余計な筋力を使わず制御できることから、プロポーションを保つことができることがわかりました。

 

こうしたプロセスの中で、感覚情報処理であったり、知覚・意識経験であったり、記憶や適応・学習などのメカニズムを知ることの大切さを知り、最終的に“脳”になったワケです。

 

 

脳研究を始めたころは、様々なところから批判がありました。目に見えない脳の研究など理学療法分野に必要ないと指摘されたこともあります。私自身、脳科学者とは思ったことはないのですが。

 

しかし、仲間とともに脳と行動の研究を継続したり、本を書いたりすることで、少しずつ認知されるようになり、今となっては時代も変わり、脳・神経科学や運動制御・運動学習の考え方が私たちの分野にも定着するようになってきました。

 

今思うと、臨床実習での熱傷にはじまり、腎不全、バイオメカニクス、そして脳研究とあらゆる道を辿ってきました。

 

一貫性がないとお叱りを受けるかもしれませんが、これが私らしさでもありますし、その場その場で出会った人に影響を受けながら、それに流されつつ、自分のテーマを決めてきたように思えます。

 

自分が成長するためには、このように今まで培ってきたものを一度リセットする能力、そして、立ち止まり、変えることが必要なのかもしれません。子供がそれまで培ってきた発達をリセットしながら、新たな能力を獲得するのに似ています。

 

 

実際、私自身、今の分野のルーツは、心理学・哲学から勉強をはじめ、そこから、修士課程で教育学や発達学を学び、博士課程で神経心理学を専攻し、現在の認知行動神経科学とリハビリテーションの接点を考える方向へと展開してきました。

 

現在では、リハビリテーション脳科学については、以前よりも広がりをみせ、優秀な人材が育ってきたように思えます。

 

一方、私自身の興味は神経科学から、行動・現象学にシフトしつつありますので、そろそろ次の展開を考えたいとなと思っています。

 

 

【目次】

第一回:不真面目な高校生活から一転、今の礎を築く養成校時代

第二回:自らアポを取り、パリ留学へ

第三回:熱傷にはじまり、腎不全、バイオメカニクス、そして脳研究へ

第四回:畿央大学前学長の生き様に憧れ、大学教員の道へ

第五回:共に楽しむことこそ、教育の原点

第六回:心身の揺らぎを忘れたとき、人間はロボット・AIにとって変わられる。

第七回:異業種、異世代、異性とのコミュニケーションが脳を育てる

最終回:生きる

森岡先生が大会長を務める第20回日本神経理学療法学会学術大会

【日程】

2022年 10⽉15⽇(⼟)〜16⽇(⽇)
アーカイブ配信期間:11月1日(火)~11月30日(水)

【会場】

大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島5丁目3−51

※会場開催+アーカイブ配信

HP▶︎http://jsnpt20.umin.jp/index.html

森岡 周 先生 プロフィール

1992年 高知医療学院理学療法学科卒業

1992年 近森リハビリテーション病院 理学療法士

1997年 佛教大学社会学部卒業

1997年 Centre Hospitalier Sainte Anne (Paris, France) 留学

2001年 高知大学大学院教育学研究科 修了 修士(教育学)

2004年 高知医科大学大学院医学系研究科神経科学専攻 修了(特例早期修了) 博士(医学)

2007年 畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授

2013年 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長

2014年 首都大学東京人間健康科学研究科 客員教授

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター HP: http://www.kio.ac.jp/nrc/

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Facebook:https://www.facebook.com/shu.morioka

Twitter https://twitter.com/ShuMorioka

 

<2017年3月現在の論文・著書>

英文原著73編(査読付)、和文原著100編(査読付)、総説72編(査読無)

著書(単著・編著)15冊、(分担)20冊

http://researchmap.jp/read0201563

 

(撮影地、撮影協力:畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター内)

第三回:熱傷にはじまり、腎不全、バイオメカニクス、そして脳研究へ【森岡 周先生|理学療法士|畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授】

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