スタジオユウ立ちあげ
福田先生:2007年末にフリーランスになりました。もともとヘルスカウンセリング学会でカウンセリングを学んでいましたし、ケアマネジャーとして相談業務をしてきた経験もある。それで、セミナーをするための講座を受けて、講師としてのスキルアップを図りました。
本を出せば多くの人に予防の大事さが伝わるのではないかと思い、出版のための活動もしました。とはいえ、すぐには無理で、試行錯誤している中で、スタジオユウという事務所を立ち上げたのが2014年12月です。
商工会の人たちと相談しながら、ビジネスとしてどうやって行けばいいのかを考えていたところ、工場や小売り業など企業とB TO B(Business to Businessの略:企業間の商取引、あるいは、企業が企業向けに行う事業のこと)で始めようということになりました。
ちょうどそのころ2015年2月に第1回日本予防理学療法学会がありまして、演題発表をした時に、(一社)産業理学療法研究会の高野賢一郎先生と出会い、産業理学療法という分野があることを知りました。
いま思い出したのだけど、福井に帰って最初に勤めた病院では、振動障害やじん肺で労災認定をうけた患者会の研修をさせてもらっていました。その頃から、無自覚に産業理学療法には関わっていたのですね。学生時代の臨床実習も労災病院でしたし。
収入は安定している?
ー 事業内容について詳しく聞かせてください。
福田先生:ある介護施設の社長からの紹介で、介護労働安定センターの委託をうけ、ヘルスカウンセラーとして介護施設従業員向け腰痛予防研修に入るようになりました。
委託業務は現在も続けていますが、そのうち、企業や介護施設と一定期間契約して報酬をいただきながら、作業性疼痛予防体操プログラムの作成や研修を導入してもらえるようになりました。
病院での理学療法と同様に、計画書や報告書も作成します。契約に至る前に、まずは会社や施設を訪問して、ヒアリングや現場見学をさせていただきます。それをもとに提案書をつくり、大まかな流れや費用の説明をします。
ゴール設定を事前に話し合いしますし、作業工程の評価やアンケート調査、課題抽出もして、話し合いをしながら方向性を決めていきます。
医療・介護保険にも限界がありますので、このような産業分野の仕事はさらに進めていかなければならないと思っています。いま現在も、PTのいないところ、必要とされている場所を探し回っています。
他に、行政の予防事業運動指導の委託をうけたり介護施設と個別契約したり、一般向けの講座や教室を主催したりしながら、トータルで勤務していたころの収入を保っている状況です。
安定はしていませんし、おそらく退職金などの社会保障を考えたら、どちらがいいのか分からないと思います。ただ、可能性をすごく感じますし、なにより私自身がのびのびとしていられます。
妻として嫁として母として家庭を大事にしたい気持ちがありますので、働き方は選んでいます。収入を追いかけて仕事に忙殺されるような働き方は絶対にしてはいけないと思っています。じつは、最近それで体調を壊したことがあります。
それでも、いずれ「一企業一セラピスト」というのがあたりまえの社会になることを夢みていますし、自分が暮らす福井県が、世界的にも健康の聖地と言われるくらいにステキな場所になるよう、生きている間に出来る限りのことをしたいと思っています。
産業分野と地域医療は視点が似ている
福田先生:私の強みは、看護師や介護士さんたちと仲良くなれることだと思っています。
いつでも必ず彼女たちが頼ってきてくれるので、しっかりコミュニケーションをとって、各自で予防できるように考えています。
PTとして、コンプライアンスの問題もありますが、産業分野ならば予防という側面から、産業医とコミュニケーションをとりながらやることができます。産業医の話は面白く、講習会や学会などにも毎年参加しています。
福井県のおおい町(旧:名田庄村)で地域医療をされている中村伸一先生に教えていただいたことですが、「産業医と地域医療は視点が似ている」そうです。
会社と地域で場所は違いますが、一つのコミュニティを何年もずっとみていくところが似ているのだと。「なるほど私が産業理学療法を面白いと感じたのはそこなんだな」と思いました。
福井県は信仰深い土地柄で、「講」というのがあります。「講」ってご存知ですか?寺の檀家が同業という集まりを作って、月に一回、同業の家に集まり、お勤めをしてお茶を飲む。家は順番で持ち回りです。昔は食事も出したらしいです。
だけど、どう見てもお茶会(笑)。近所のおばちゃんやおじさんたちがあつまる情報交換の場、コミュニティの場なんです。貴重ですよ。
行政主導で行っている予防教室のプログラムは、専門的な視点から見るとまだ十分ではありません。継続するという点で、十分なサポートが得られないのです。
それならば、お経を読むかわりに、みんなで体操したらどうなの?って思うのです。ソーシャルサポートと健康には深い関係があります。つながりの中でこそ本当の予防ができるはずです。
今後の構想としては、産業分野だけでなく地域にしっかりしたコミュニティの場を作ることを考えています。それも住民主導で。
まずは、昔からある小さい枠組みやネットワークを守ることが大事です。壊すのは簡単ですが、新しくつくりあげるのは大変な労力がいりますから。
幸い、福井県は日本のガラパゴスと呼ぶ人がいるくらい、独自のルールで古いままの地域性が残っていて、コミュニティを守ってきました。男女共働き率や子どもの体力・学力もトップレベルで、幸福度ランキングも日本一の土地柄です。
予防と健康づくりのほうでも福井モデルを構築できないだろうかと7年ほど前からいろいろと試みています。みんな集まれば、きっと楽しいんじゃないでしょうか。
【目次】
第二回:産業医と地域医療は視点が似ている
最終回:理学療法士という生き方を選ぶ
福田先生オススメ書籍
福田先生のコメント:心と体と世界とのあわいつながりについてかかれていて、私はこの本で、デカルトの二元論からはじまり、アフォーダンス理論や現象学的身体論、認知科学研究の全体像を、ようやくなんとなく理解することができました。
福田先生のコメント:働く女性や高齢の人たちが、一生幸せに豊かに生きられることをめざし、これまで私が数々の予防体操教室を運営しながらまとめてきた10秒ポーズという方法です。運動療法の基礎を抽出し、日常生活動作につなげられるよう意識転換していきますので、運動習慣がなかった人でも取りくみやすい予防や健康づくりに使える内容になっています。
福田裕子先生プロフィール
1991年 京都大学医療技術短期大学部理学療法学科卒業
1991年 京都南病院 理学療法士
1993年 光陽生協病院 理学療法士
1995年 鯖江ケアセンタ―みどり荘 理学療法士
2002年 今立町社会福祉協議会 理学療法士・介護兼務
2003年 今立町社会福祉協議会 理学療法士・ケアマネジャー兼務
2006年 越前市社会福祉協議会(市町村合併にともない)
2007年 放送大学教養学部発達と教育専攻卒業
2007年 独立開業
2014年 Soleilスタジオユウ開設
介護認定審査会委員5期。鯖江市健康づくり推進協議会委員2期。
医療・介護分野でリハビリテーション・運動機能向上関連事業・
Facebookページ:【1回10秒ポーズ】理学療法士とはじめる未来のカラダづくり研究会