ベンチェのとある病院にて
世界の医療を旅する男・山本啓太
前回の山本は、神秘の国キルギスの障害者たちの生活について報告した
そして今回、ベトナムで国際協力を行うもそこには様々な困難が!
今夜、山本啓太が療法士たちの知らない医療の世界へとお連れします!
※この記事はTBSクレイジージャーニーを少しだけパロディしてます
MC:今回ベトナムを訪れた目的は?
山本:2年前から関わっているハオドゥック村での地域医療支援活動に参加するためです。今年もたくさん勉強させてもらいました。
MC:それではVTRを見てみましょう。
ハオドゥック村での国際協力
ディレクター(D):今回集まったのはどのような人たちなのでしょうか?
山本:ベトナムタイニン省の地域リハビリテーションを支援する会という京都のNGOのメンバーです。今年は、医師、看護師、療法士、学生、現地通訳など計26名が参加しています。皆さん日本で仕事がありますので、現地での活動は1週間です。
D:具体的にどのような活動を?
山本:①現地リハビリ職種の養成、②現地CBRワーカー(主に訪問リハビリをするボランティア)の養成、③地域の障害に関する実態調査などです。それに加えて日本にベトナム人医療スタッフを招いて研修会を行ったりもしています。それでは働いてきますね。
患者には触らない⁉︎
~業務終了後~
D:お疲れさまでした。意外だったんですけど、山本さん、患者にはほとんど触らなかったですよね。なぜですか?
山本:この活動の目的は、現地スタッフの養成、つまりは教育です。特に今回に関しては、患者の日常生活動作が評価できているか、それに対する介入をどう考えているかを確認し、教育するためです。なので僕たちが一方的に介入して見せるのはただの自己満足だと個人的には思っています。
D:でも見てるだけで本当に良いのでしょうか?
山本:評価するために触ることはあります。けどガッツリ介入はしません。僕たちは1週間もしたら日本に帰るので、彼女たちが継続してできることを指導すべきだと考えています。『魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ』という老子の言葉が国際協力の格言となっているように。
D:なるほど。ところで見学の際、毎回すごく悩まれていましたよね。なぜですか?
山本:それは現地スタッフに対して、僕の意見をどう伝えれば良いのか悩んでいたんです。
ベトナムの理学療法士事情
山本:具体的に言うと、機能訓練ばかり行っている彼女たちに日常生活動作をみる重要性をどう伝えれば良いのか悩んでいたのです。
D:そのまま伝えれば良いのでは?
山本:僕も昔はそう思っていました。けどこの活動への参加を繰り返すうちにそう簡単には伝わらないことに気づいたのです。
D:と言いますと?
山本:それを説明するには、まずベトナムの理学療法士(PT)事情について話す必要があります。ベトナムには統一されたPT協会はありませんが、日本と同じく3〜4年間教育を受けた大学、専門学校卒のPTがいます。しかし、そのようなPTは少数派で、現場で働いている多くが看護師もしくは準医師の資格を取得後、3〜9ヶ月間リハビリに関する教育を受けてリハビリ科で働いている人たちです。
D:たったの3ヶ月ですか⁉︎
山本:はい、なので地域差や個人差はありますが、どうしても全体的なリハビリや理学療法に関する知識は、日本に比べると劣っているかと思われます。
D:なるほど。
山本:さらにベトナムの人たちは障害者の身の回りのことは家族が行って当然と日本人以上に考える傾向にあります。その結果、"社会復帰の希望が乏しい患者×十分な教育を受けていないPT=介入は機能訓練のみ"という現状に少なくともこの地域はなっています。これに対し、このNGOは近年、患者の日常生活を考えることの重要性を説いてきましたが、なかなか受け入れてもらえず悩んでいる状態です。
異なる文化の中で何を伝えるべきか
山本:このように教育や文化的背景が異なる中で、どう指導すれば彼女たちの考えが変わるのか、もしくは変える必要はないのか、まだ僕の中では腑に落ちていません。
D:単純に日本で学んだことをそのまま伝えたら良いと思うのですが?
山本:そうは思いません。国際協力の現場では相手の文化を尊重することが重要です。それを無視して自分たちの価値観を押し付けることはピース・コロナイゼーション(平和的侵略)と呼ばれ、避けなければならないことなんです。人類学者レヴィ=ストロースも『世界には様々な文化や価値観を持った社会が多数存在し、そこに優劣はない』と述べています。
D:そうなんですね。
山本:しかし、現状のままで良いとは思っていません。なので現地スタッフに新しい気づきを与えられないかとかなり慎重に言葉を選んでこちらの意見を伝えていました。けど通訳さんには僕の意図が伝らなかったようで怒られちゃいました。
D:なんて怒られたんですか?
山本:「なんで思ったことをはっきり伝えないの!ベトナムに何しに来たの!」って(笑)怖かったです・・・。
ジェネラリストを目指す療法士たちへ
D:最後の質問ですが、どのような療法士たちに国際協力をオススメしたいですか?
山本:海外に興味がある療法士はもちろん、ジェネラリストを目指す療法士にもぜひ経験してほしいですね。その理由は、このような場所では、詳しい患者情報がないことがほとんどで、一から評価しなければなりません。なので疾患に関する広い知識や評価・介入方法を知っている必要があります。
D:なかなか日本では経験できないことですよね。
山本:また、人・物・金がないという日本よりも難しい環境で、目の前の患者のリハビリテーションを考えなければなりません。間違いなく自分の知識や応用力の乏しさを痛感しますよ。2年前、天狗になっていた僕の鼻をへし折ったのがこの活動ですから(笑)
D:国際協力に興味を持つ療法士が増えると良いですね。今日はお疲れさまでした!
山本啓太の世界の医療を巡る旅はこれからも続く!
【目次】
第四回:旧ソ連の影響残る地で生きる障害者たちに会う in キルギス