第三回:酸っぱいブドウ【ヨーク大学 心理学部 日本学術振興会海外特別研究員|作業療法士 伊藤文人先生】

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個人差を考える

 

― 心理学に興味のある人はたくさんいると思うのですが、それを活かせてない現状があると思います。臨床で生かすための方法って何かありますか?

 

伊藤先生 OTの学生向けに話をさせていただくときには、「認知的不協和」という社会心理学の用語を、「酸っぱいブドウ」の話に例えて説明しています。

 

キツネが木の上のブドウを食べようとして、何度も飛び上がるんですけど、高すぎて届かないから結局あきらめます。そのときキツネは「どうせあのブドウは酸っぱいんだろう」という風に、食べられない自分を正当化して自分を納得させる話です。

 

この時「食べたいのに届かない」という矛盾によって生じる葛藤が認知的不協和です。この用語を知っていると、例えば利き手交換を嫌がる人に対して、「認知的不協和が大きいのかもしれない」と捉えることができます。

 

この用語を知らなければ、「患者さんに嫌われている、とか、患者さんの協力性が低い」って、考えてしまうかもしれませんよね。つまり、自分の主観を言葉にできて、別の視点から考えられる、というのが心理学を学ぶ大事さかと思います。

 

ただし、このようにラベリングする時は気をつけないといけないこともあります。利き手交換を勧めた時、認知的不協和の大きさは人それぞれで、すんなり了承する人もいれば、嫌がる人もいるはずです。

 

用語をポン、と当てはめると、みんなにそれが同じように当てはまると無意識に思ってしまいがちですが、個々人で程度の違いがあるはずです。以前、研究会で社会的行動障害を扱った際に、講師を務めた理事が「ある・ない」という言葉は危険だと、話していました。

 

その時は確か無為の話だったと思うんですが、「無為がある」という表現は程度の違いを無視していて、それぞれの対象者に対する個別のサポートを考えられなくしてしまう、というようなことを聞いた覚えがあります。

 

すごく実感がこもっていて、「なるほどなー」と考えさせられました。「ラベル」の背景には個人差があることを常に心に留めておくことが大事だと思いました。

 

― 個人差の研究はどのように行われるのですか?

 

伊藤先生 例えば、ある心理尺度のデータをもってきて、得点の高い人と低い人がいて、Y軸に得点を入れてX軸にある領域の脳活動の大きさを取ったとします。それで相関をとって、個人差をとらえていくのが一般的な方法です。「こういう人はこういう傾向がある」という感じですね。本当にそれだけでいいのかっていうのはあると思います。

 

質的研究や症例研究の価値は、量的研究では説明しきれない、外れ値みたいな人に対応できる、という部分にあると思っています。その視点ってすごく大事だと思います。

 

 

― やはり日本よりも海外で研究する方が質的には高いのでしょうか?

 

伊藤先生 必ずしもそんなことはないです。海外から日本にわざわざ来る人もいます。ただ、私が研究している分野に関しては、全体的にアメリカやイギリスの方が質は高い印象です。

 

こちらでは論文数よりも、どのレベルの雑誌に論文を載せたかや、自分の論文が何回引用されたかが重視されて、こういった質の部分が就職などを左右するので、必然的に研究者は質の高い研究を目指すという感じですね。

 

日本にいても一流の研究をすることは可能ですが、やはり英語力の向上や見識を広げるという意味で、一度外から日本を見てみるのは良いかなと思います。いま日本にいるトップクラスの研究者も留学経験のある人がほとんどですし、日本神経科学学会で発表しようとすると、ポスターもスライドも全部英語で準備しなければいけません。

 

私のいる大学は、研究に必要なソフトをだいたい無料で提供してくれてるので、そういったこともありがたいですね。あとは毎週のようにセミナーがあって、最先端の研究の話を頻繁に聞けるのも大きいです。

 

私の場合は、ニューロイメージングを始めた頃から憧れていた研究者が、たまたまアメリカからヨーク大学に移ったので、ヨークを選びました。「人間はお金をもらったときと、褒めてもらったときの脳の活動が似ている」という論文を彼が昔に出したんですけど、それ以来ずっと憧れていて、結局イギリスまで追いかけてきました。

 

もともとヨーク大学にいた別の心理学者と共同研究をしていたのも大きかったです。他にもヨークとは色々な縁があって、研究者っぽくないかもしれませんが、運命を感じました。

 

私の受け入れ教員は日本人なので、彼と二人で話す時は日本語です。ただ、ラボミーティングの時は他のメンバーが英語なので、彼とも英語で話します。日本人同士で英語を話すのに、最初はちょっと恥ずかしさを感じましたけど、そんなことより自分の英語をどうにかしなきゃいけないので、もうどうでもよくなりました(笑)

 

【目次】

第一回:安易な声がけへの後悔

第二回:研究者への道を歩む

第三回:酸っぱいブドウ

最終回:基礎研究者と臨床家を繋ぐ

 

伊藤先生オススメ書籍

語源で覚える英単語3600
Posted with Amakuri at 2017.10.29
藤井 俊勝
青灯社

 

伊藤文人先生 プロフィール

経歴

2017年8月 – 現在:イギリス ヨーク大学 心理学部 日本学術振興会海外特別研究員

2017年6月 – 現在:北海道大学大学院保健科学研究院 客員研究員

2014年10月 - 2017年7月:東北福祉大学感性福祉研究所 特任講師

2013年4月 - 2014年9月:京都大学こころの未来研究センター 日本学術振興会特別研究員(PD)

2010年4月 - 2013年3月:東北大学 大学院医学系研究科 障害科学専攻博士後期課程 博士(障害科学)

2010年4月 - 2012年3月:東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学 日本学術振興会 特別研究員 (グローバルCOE) (DC1)

2008年4月 - 2010年3月:東北大学 大学院医学系研究科 障害科学専攻博士前期課程

2004年4月 - 2008年3月:北海道大学 医学部 保健学科作業療法学専攻

 

受賞歴

15th European Congress of Psychology Best poster award

東北大学医学系研究科 辛酉優秀学生賞 特別賞

第14回日本ヒト脳機能マッピング学会 若手奨励賞

第13回日本ヒト脳機能マッピング学会 若手奨励賞

 

作業療法神経科学研究会

ホームページ

https://www.ot-neuroscience.com

facebook

https://www.facebook.com/作業療法神経科学研究会-272019856333321/

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