がむしゃらに勉強した"暗黒時代"
ーー 理学療法士(以下PT)になってからの軌跡を教えて頂けますでしょうか。
脇元先生 私がPTを目指したきっかけは、もともとバレーボールの選手で、大学時に怪我によってバレーができなくなって歯がゆい思いをした経験からです。
「同じような想いを選手にさせたくない」これがPTを目指したきっかけです。今の自分ならあの頃の怪我は治せたな、勝たせることができたなと思うこともありますが、そういった経験が糧となり今では多くのメダリストのサポートもできるようになったのだと思います。
学生時代はとにかく勉強をしましたね。
そして、卒後は学生時に学んだ評価と治療手法を重視した臨床、治療成果を問う研究に明け暮れていましたが、今思えば、当時の理学療法は残念なことに臨床成果を得られないものばかりでした。
なぜなら30年前の整形疾患の理学療法は「患部の評価、患部の治療」に終始するばかりで、理学療法の治療介入へのガイドラインさえ全くなかったのです。
研究機関においても拘縮・変形の組織病理・病態の研究が主で、「なぜ拘縮が起こるのか?なぜ変形が起こるのか?」という問いに対する研究は皆無でした。
「拘縮・変形がなぜ起こるのか?」この問いに対する学術は、世界中を見てもだれも着目していませんでした。
ですから新人PTとなって数年は、整形疾患の患部治療に効果を全く見いだせないまま時を過ごしていました。
まさに暗黒の時代でしたね(笑)。
またPTになってすぐにJOC(Japanese Olympic Committee:公益財団法人日本オリンピック委員会)とご縁があったので、その当時からオリンピック強化選手を診る機会がありました。
その頃から「勝たせる理学療法とは?」を意識していましたが、こんな満足度を得られない理学療法士という仕事なんて辞めようと思ったことも幾度となくありました。
「しかし、辞めることはいつでもできる」、それまでは効果ある治療法に結びつく研究と臨床を繰り返し、「進まなくなったら辞めてしまえばいい」と決意し、がむしゃらに勉強してきました。
Spine Dynamics療法とは
ーー Spine Dynamics療法について教えてください。
脇元先生 はい。まず自分自身が「なぜ拘縮が起こるのか?なぜ変形が起こるのか?」という問いに答えるべく研究を進めて分かったことは、
「身体全体の力学的環境注1)が原因となり、脳が一部の関節に拘縮・変形を起こす」ということでした。
さらに専門的にいうと関節拘縮・変形とは、「関節の力学的エネルギー伝達効率の低下によって脳が起こす生体順応反応の結果」であることが分かってきました。
つまり、関節拘縮・変形が結果であるとするならば、拘縮を治す・変形を止める治療対象とは「身体全体の力学的環境」にあることが分かります。
身体全体の力学的環境を評価し、その問題点を改善することで患部の拘縮は治り変形は止まり、痛みもなくなります。
以上の研究はすべて力学的考察から研究開発された治療法まで含まれています。
それを体系立てたものが「Spine Dynamics療法」です。
Spine Dynamics療法は、「なぜ、患部に拘縮、変形、痛みが生じたか?」→「身体全体の力学的環境にどんな問題が生じたか?」を量的に評価し、その問題点を解決する治療法までを体系化しています。
また、近年は「なぜ、身体全体の力学的環境に問題が生じたか?」という根因に対する研究を進め、その答えが患者の「習慣性因子」にあることも分かってきました。
このことは「病気は天から降ってこない、病気は患者自身の中で作られたもの」ということです。
慢性疼痛が身体的要因のみならず、心理・社会的(環境)要因によって障害が形成されるように、痛みや拘縮・変形の形成プロセスも、根因に「患者の生き方」があり→心のプロセス→社会的プロセス→体の力学的プロセス→障害像形成という構図(臨床推論注2))が明確になってきたのです。
注1 身体全体の力学的環境:各種運動の中で身体に働く力(重力など)を制御する能力
注2 臨床推論(Clinical Reasoning: CR):障害像形成に至った患者の心身プロセスを推論すること
治るべくして患者さん自身が治す
ーー 先生が医療法人を立ち上げられた経緯を教えて下さい。
脇元先生 17年間私を育てて頂いた船橋整形外科病院を退職し、“患者さんの生き方を変える”医療サービスを創りたいという想いで法人を立ち上げました。
この法人は、「起こるべくして起こる病気は、治るべくして患者さん自身が治す」ということを念頭に置いた医療サービスのあり方を、患者さんや医療関係者に情報発信することを理念としています。
10年目にあたる今日でも、医師・コメディカル・受付の全スタッフが自身で治そうとする患者さんに対して、最大限の応援を行う業務・医療サービスのあり方を日々進化させ続けています。
ここで私どもの数ある医療サービスの特徴の一つとして、通常では医師が手術を行うか否か判断する際、画像(エコー、X線、MRI等)情報と理学的検査情報が使用されます。
当施設は、理学的検査のうち機能的検査情報は、専任PTが「身体全体の力学的環境の問題点から起こっている患部の機能低下」を一時的に解決させます。
それにより、患部の潜在機能は回復し、「正確な患部の機能情報」を医師に伝えることができるのです。
つまり、身体全体の力学的環境から影響している見かけの機能低下のままでは手術適応になる患者さんも、潜在機能を回復させて再検査すると、手術適応にならないケースが多く存在するということです。
私どもPTスタッフは、患者さんの初診再診時の正確な機能情報を、医師に提供する医療サービスを担っており、同時に正確な機能情報を提供できるセラピストの育成に努めているのです。
脇元幸一先生の経歴
【主な経歴】
西日本リハビリテーション学院卒業
1987年:東京慈恵医科大学病院
1989年:船橋整形外科病院 理学診療部 部長
2006年:清泉クリニック整形外科 設立(現在 医療法人 SEISEN 専務理事)
東海大学 医学部基礎医学系分子生命科学 研究員
国立電機通信大学産学官プロジェクト人間工学共同研究員
【著書】
「スポーツ選手のための心身調律プログラム」(大修館書店)
「アスレチックリハビリテーションガイド」(文光堂)