運動学習における小脳の役割
自転車の乗り方など,頭ではなく体で覚えた記憶は,時間がたっても忘れません.こうした運動の記憶は小脳が担っています.本書籍では運動学習における小脳の役割が以下のように記載されています.
実行された運動の軌道や結果に関する情報は,感覚情報 (sensory conquences;SC)として中枢神経系にフィードバックされる.このフィードバック感覚情報 ''SC''が,意図していた感覚情報 ''predicted-SC''と異なる場合,目的誤差を修正して運動指令を書き換えるシステムが必要になる.小脳は,課題を繰り返す間に SCにおける誤差を検出して,長期抑圧 (LTD)に基づいてその誤差を減少させる「誤差学習」を行う場と位置づけられている.
出典:運動学習理論に基づくリハビリテーションの実践 (第2版)
この神経回路があるため,練習することで自転車に乗ることができるようになります.しかし,小脳失調を呈す症例では上記の誤差学習が得られず,単なる反復的な訓練では運動学習が進まない場合があります.このような症例ではどのような治療戦略でリハビリテーションを行う必要があるのでしょうか.
本書の特徴
本書は,「理論編」と「実践編」に分かれています.理論編ではリハビリテーションで必要な神経機構や課題設定などの運動学習理論が書かれています.対して実践編では理学療法と作業療法でそれぞれ8症例が収録されており,反張膝や小脳失調の症例に対しての具体的な評価や介入方法を知ることができます.また,本書の特徴としてすべての症例の治療アプローチの映像が収録されたDVDが付いており,実際の介入場面を見ることができます.個人的には,学生や若手セラピストは実践編を一度読んでから理論編を読むことで,複雑な運動学習理論を学びやすくなると思います.
理論に基づいた実践を
運動学習を進めるにあったって,考慮する項目は非常に多く,それぞれが介入結果を大きく変えていくと実感しています.本書を学ぶことにより,普段の臨床においてさらに治療選択の範囲が広がりました.難解な運動学習理論を臨床の場で実践するのにオススメの1冊です.