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長期的運動による多発性嚢胞腎の腎嚢胞増大と腎機能障害の抑制 -新しい治療法としての運動療法への期待 -

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研究のポイント

  • ・多発性嚢胞腎注 1の腎腫大や腎機能低下において、現在使用されている薬剤は多尿や口渇等の副作用頻度が高いため、患者の生活の質(Qualityof Life:QOL)を損なわない新たな治療法が求められている。
  • ・運動耐容能が低下している多発性囊胞腎モデルラットにおいて、12 週間の長期的運動は運動耐容能を向上させ、腎嚢胞形成や腎糸球体障害を抑制した。
  • ・運動療法は多発性囊胞腎の新たな治療法として期待される。

 

研究概要

多発性囊胞腎は、遺伝子変異により両側腎臓に多数の囊胞が発生・増大し、腎機能が低下する、国の指定難病です。腎嚢胞の増加とともに、60 歳までに約半数が末期腎不全に至り、運動耐容能および生活の質(QOL)が低下しやすいと言われています。東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野の仇嘉禾大学院生、上月正博教授、東北医科薬科大学リハビリテーション学 伊藤修教授らのグループは、長期的運動は多発性嚢胞腎モデルラットに対して運動耐容能を向上させ、腎嚢胞形成、細胞増殖、腎糸球体障害を抑制することを明らかにしました。今後、運動療法は多発性囊胞腎の新たな治療法として期待されます。

この研究成果は、2021 年 7 月 21 日に米国スポーツ医学会機関誌であるMedicine & Science in Sports & Exercise に掲載されました。

 

研究内容

多発性囊胞腎は、その有病率が 2,000〜4,000 人に 1 例と推測される遺伝子変異疾患であり、両側腎臓に多数の囊胞が進行性に発生・増大し、さらに高血圧や肝囊胞、脳動脈瘤などを合併します。多発性囊胞腎患者は 60 歳までに約半数が末期腎不全に至ります。本邦では新規透析導入の原因疾患の第 4位となっており、その治療対策の重要性が喫緊の課題です。

 

多発性囊胞腎の原因は腎臓で機能している一次繊毛注 2関連タンパク遺伝子の変異であり、繊毛の機能異常が原因となって細胞内カルシウム濃度が低下し、その結果、細胞増殖を促進する因子(cAMP)が過剰に産生され、腎尿細管細胞が増殖、囊胞が増大します。現在、多発性囊胞腎の腎腫大や腎機能低下に対して有効性の示された薬剤は、腎臓における cAMP 産生を抑制するトルパブタン注 3ですが、多尿、口渇等の副作用頻度が高く、患者の QOL も低下し、治療の脱落率も高いことが問題となっています。他に、多発性囊胞腎において腎障害の進行を抑制する治療としては、降圧療法、タンパク質制限食等が考えられていますが、医学的な証拠はほとんどありません。

 

近年、透析治療までは必要ないものの腎機能がある程度以上悪くなった状態の慢性腎臓病患者において、長期的運動による運動耐容能改善、低栄養・炎症・動脈硬化複合症候群改善、タンパク質異化抑制、QOL 改善、透析導入時期延長等の効果が明らかにされています。しかしながら、多発性嚢胞腎に対する長期的運動の有効性を検証した報告はこれまでなく、その効果は不明でした。東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野の仇嘉禾(Jiahe Qiu)大学院生と上月正博(こうづき まさひろ)教授、東北医科薬科大学リハビリテーション学の伊藤修(いとう おさむ)教授らの研究グループは、多発性囊胞腎と同様な病態を示すモデルラット (多発性嚢胞腎モデルラット)を用い、腎嚢胞増大や腎不全進展に対する中強度長期的運動(最大運動負荷の65%程度)の安全性や有効性を検証しました。その結果、尿タンパクの減少、腎嚢胞増大、嚢胞周囲の細胞増殖、糸球体障害、腎間質線維化の抑制など、長期的運動が多発性嚢胞腎モデルラットの腎臓臓器障害を抑制することを世界で初めて明らかにしました。この機序として、長期的運動は腎臓における cAMP を増加させず、尿細管の細胞増殖を抑制することで、病態の進行を抑えていることが考えられます。

 

結論:

多発性嚢胞腎モデルラットにおいて、長期的運動が腎嚢胞や糸球体障害、腎間質線維化を抑制することを初めて明らかにしました。本研究の結果により、運動療法が多発性囊胞腎の新たな治療法として期待されます。

 

【用語説明】

注1. 多発性嚢胞腎:

国の指定難病で、腎臓に嚢胞が進行性に発生する遺伝子疾患。徐々に腎機能が低下し、60 歳までに約半数が末期腎不全に至り、本邦では新規透析導入の原因疾患の第 4 位である。

注2. 一次繊毛:

一次繊毛は細胞表面から外側に向けて突出している一本の不動性の構造体である。数多くの細胞膜受容体やチャネルが集積しており、これらの分子を介して一次繊毛は光、化学、機械刺激などの様々な細胞外シグナルを受容し細胞内へ伝達する。

注3. トルパブタン:

うっ血性心不全、肝性浮腫、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群による低ナトリウム血症の治療に用いられるほか、常染色体優性多発性嚢胞腎の腎容積増加抑制や腎機能低下抑制に用いられる。

 

図 1.腎中の白い部分が嚢胞.非運動群に比較して運動群の腎嚢胞面積が減少する.

 

 【論文題目】

Title: Chronic Exercise Protects against the Progression of RenalCyst Growth and Dysfunction in Rats with Polycystic Kidney Disease.

Authors: Jiahe Qiu, Yoichi Sato, Lusi Xu, Takahiro Miura, Masahiro Kohzuki, Osamu Ito.

日本語タイトル:多発性嚢胞腎モデルラットの腎嚢胞増大と腎機能障害への長期的運動の抑制効果

著者名: 仇嘉禾,佐藤陽一,徐璐思,三浦平寛,上月正博,伊藤修.

掲載誌名: Med Sci Sports Exerc. 2021 Jul 21. (Online ahead ofprint).

DOI: 10.1249/MSS.0000000000002737.

 

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/08/press20210823-02-kidney.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

長期的運動による多発性嚢胞腎の腎嚢胞増大と腎機能障害の抑制 -新しい治療法としての運動療法への期待 -

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