歯を失うと認知症になるメカニズムを明らかに 男性では人との交流、女性では果物・野菜の摂取が大きく影響

3468 posts

口腔の健康状態の悪化が認知症発症に影響する可能性が指摘されていますが、これまでそのメカニズムに関する人を対象とした研究はほとんどありませんでした。そこで人との交流などの社会的な要因や、野菜や果物摂取といった栄養に関する要因が、口腔の健康状態と認知症発症の間のメカニズムになるか調べました。

調査の結果、歯の喪失と認知症発症との間に有意な関連が見られ、その関連を友人・知人との交流人数といった社会的な要因や、野菜や果物の摂取などの栄養に関する要因が部分的に説明することが分かりました。特に男性では、友人・知人との交流人数が口腔と認知症との関係を13.79%、女性では野菜や果物摂取が8.45%説明し、大きな役割を果たしていました。歯をできるだけ残すことは、家族や友人との社会関係を維持することにもつながり、また良好な栄養状態を通じて、認知症発症予防に寄与している可能性があります。

本研究成果は、11月19日にJournal of Dental Researchにて公表されました。

 

 

■背景

認知症は要介護状態となる主要な原因の一つであり、認知症の予防と認知症の進行抑制は重要な課題です。認知症発症の確立したリスク要因としては、高血圧や糖尿病など栄養に関連する要因や精神状態の悪化や身体活動量の低下、社会的な交流の低下などが挙げられています。口腔は会話や食事を行う際に使用する器官であり、栄養摂取や社会的な交流は口腔とも深く関係していると考えられます。栄養摂取や社会的な交流といった経路を介して口腔が認知症発症に影響する可能性がありますが、口腔状態と認知症発症との関係について、社会的な要因や栄養に関する要因を通じた認知症発症の経路について調べた研究はありませんでした。そこで本研究では、歯の喪失は認知症発症リスクを増加させ、そのメカニズムは栄養摂取や社会的な要因で説明されるという仮説について検討を行いました。

 

■対象と方法

本縦断研究では、日本老年学的評価研究機構のデータの 2010 年(ベースライン)、2013 年、2016 年の調査に回答した人を対象としました。2013 年の媒介変数の効果を見るため、ベースラインと 2013 年の要介護の人、2013 年以前に認知症を発症した人、死亡した人や、追跡不能であった人を除外しました。また、ベースライン時点で認知機能関連項目スコアの認知機能低下を示す質問 3 つすべてに「はい」と答えた人を除外しました。

歯の本数(20 本以上/ 0-19 本)と、2013 年から 2016 年までの認知症発症との因果関係を、何が媒介(仲立ち)するかを分析しました。認知症は、介護保険賦課データの「認知症高齢者の日常生活自立度」のランクⅡ以上と定義しました。媒介変数には、体重減少、十分な野菜や果物摂取(1 日 1 回以上)、閉じこもり、交流人数(10 人以上)の有無を用いました。人口統計学的要因として、年齢・婚姻歴、社会的経済指標として、等価所得・教育歴、併存疾患として、高血圧・糖尿病の有無、生活習慣指標として、飲酒歴・喫煙歴・日々の歩行時間の影響を統計学的な方法により取り除きました。統計解析には、媒介分析の手法の一つである KHB 法を用いました。歯の喪失が認知症発症に及ぼすリスクを算出し、また、各媒介変数がどの程度その経路を説明するかを調べました。

 

■結果

35,744名が解析対象者(女性が54.0%)でした。平均年齢は男性が73.1(SD=5.5)歳、女性が73.2(SD=5.5)歳でした。ベースライン時点で、13,580人(38.0%)が20本以上の歯を有しており、1,776人 (5.0%) が2013年から2016年の間に認知症を発症しました。多変量解析の結果、歯の喪失が認知症発症に有意に関連していました(ハザード比=1.14 (95%信頼区間:1.01-1.28))。また、媒介変数による間接効果はハザード比=1.03 (95%信頼区間:1.02-1.04)でした。また、各変数の媒介割合は、体重減少、野菜や果物摂取、閉じこもり、交流人数の順に、男性では、6.35%、4.44%、4.83%、13.79%、女性では、4.07%、8.45%、0.93%、4.00%でした。すなわち、男性では特に友人・知人との交流人数、女性では特に野菜や果物摂取が、歯の本数と認知症発症の因果関係を仲立ちする役割を果たしていました。

 

■結論

6年間の縦断研究の結果、歯の喪失と認知症発症との間には有意な関連が見られました。この関連は女性では野菜や果物の摂取などの栄養状態、男性では人との交流人数といった社会的な要因で主に説明をしていました。

 

■本研究の意義

本研究の結果から、口腔の健康状態を維持することは人との交流といった社会関係を維持することにもつながり、また、栄養摂取の維持を通じて認知症発症予防につながる可能性が示唆されました。

 

表1: 男女ごとの本研究で用いた歯の本数・媒介変数と認知症発症のクロス集計表(n=35,744)

 

表2:男女ごとの各媒介変数が口腔と認知症との関連を説明する割合(n=35,744)

 

共変量として、年齢、婚姻歴、義歯使用、等価所得、教育歴、高血圧、糖尿病、飲酒歴、喫煙歴、歩行時間を調整しました。

 

■発表論文

S Kiuchi, U Cooray, T Kusama, T Yamamoto, H Abbas, N Nakazawa, K Kondo, K Osaka, J Aida, Oralstatus and dementia onset: Mediation of nutritional and social factors, Journal of Dental Research(in press)

 

■謝辞

本研究はJAGES(日本老年学的評価研究)のデータを使用しました。

また、JSPS科研(JP15H01972, JP 16H05556, JP19H03860, JP19H03861, 20H00557, 19H03860)、厚生労働科学研究費補助金(H28-長寿-一般-002, H30-循環器等-一般-004, 19FA1012, 21FA1013)、国立研究開 発 法 人 日 本 医 療 研 究 開 発 機 構 ( AMED ) (JP17dk0110017, JP18dk0110027, JP18ls0110002,JP18le0110009, JP20dk0110034, JP20dk0110037, 21lk0310073h0002)、国立研究開発法人科学技術振興機構(OPERA, JPMJOP1831)、革新的自殺研究推進プログラム(1-4)、公益財団法人笹川スポーツ財団、公益財団法人健康・体力づくり事業財団、公益財団法人ちば県民保健予防財団、公益財団法人8020推進財団の令和元年度8020公募研究事業(採択番号:19-2-06)、新見公立大学(1915010)、公益財団法人明治安田厚生事業団、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費(29-42, 30-22, 20-19)、公益財団法人医療科学研究所の助成を受けて実施しました。

最後に、調査にご協力いただいた参加者の皆様に記してお礼申し上げます。

 

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/12/press20211220-01-dementia.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

歯を失うと認知症になるメカニズムを明らかに 男性では人との交流、女性では果物・野菜の摂取が大きく影響

Popular articles

PR

Articles