NYでフィジオになって見えた景色ー年収事情と日本の閉塞感の正体に迫るー【FuncPhysio NY PT, DPT, CFMS|須賀 康平】

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度々ツイッター上で見かける、世界の療法士と比較した年収に関して、日本の理学療法士(PT)の低賃金が議題?に上がっていることを目にします。そこで最近、アメリカの大学院を修了され憧れの地ニューヨークでニューヨーカーとなったPT…もといDPTの須賀さんへ、祝いの言葉とともにお金のリアル、そしてアメリカでの臨床のリアルをお伺いしました。本日はその模様を記事にしてお伝えします。

イマイ
本日はよろしくお願いします。まずは就職おめでとうございます。

 

須賀さん
ありがとうございます。ご無沙汰してます。

 

イマイ
本日は高年収の須賀さんにアメリカでの生活についてお話をお伺いできればと思っています。

 

須賀さん
確かに年収は上がりました。特にこのインタビューの時は円安なので特に日本円では上がりましたよね。笑

 

イマイ
「いくらもらってるんですか?」と聞いても答えられないと思いますので、アメリカでPTになるまでにいくらかかったのか教えてください。

 

須賀さん
はじめに経緯をお話しします。先日修了したピッツバーグ大学の前にロマリンダ大学を修了していて、すでにアメリカ(ニューヨーク州)で働く準備は整っていました。丁度コロナが流行していた時で、就活できる状況になく、せっかくなので筋骨格系で全米トップと呼ばれるピッツバーグ大学で前庭と筋骨格系の勉強してみたいと思って入学しました。

 

須賀さん
そんなこともあって、フィリピンへの英語留学等の費用等諸々を含めると2,000万円以上はかかっていると思います。これは日本での技術研修や大学院費用は除きます。学費に加えて、アメリカPT免許や働くためのビザ申請に必要な審査の費用が場合によっては数年前の2倍近くになっているものもあって、日本にいた時に稼いだお金はどんどん消えていき、ざっくり計算するとこれくらいになりました。

 

イマイ
2,000万円以上!?渡航費など細かいものを含めるともっと増えそうですね(借金まみれなんだ)。

 

須賀さん
そうですね。“計算していたら”行かなかったかもしれないです。給料から今計算して返す額の多さに絶望を感じています。笑

 

イマイ
すみません。いきなりの絶望で申し訳ありませんが、日本でも同じような話題で盛り上がっていて「資格取得に400万円奨学金を借りるとかアホ」的な発言が話題になりました。その5倍ですね。

 

須賀さん
結果的に年収は日本円にすると勤務時代の2倍以上に上がりました。が、お金の面のコスパだけ考えると投資としては正しくないかもしれません。高額な税金や医療保険料なども加味するとお金だけを求めてアメリカに来ると挫折すると思います。給与が2倍でも、物価も2倍な感覚になるので笑

 

イマイ
でも幸福度は高そうですよね。生活範囲が一気に広がったと言いますか、対象人口が1億人から約20億人(母国語・公用語・第二言語を英語圏とする人口)と実に20倍になるわけですからね。

 

須賀さん
間違いなく幸福度は上がったと思います。なぜなら、最高峰と世間一般で言われているアメリカ、そして、世界の中心とも言われるニューヨークで臨床をできてるからです。これで少なくとも「留学、海外で臨床しておけば良かった」などの後悔をすることはなく死ねます笑。また、ニューヨークでは現地の方も日本からいらした方も、本当にさまざまなバックグラウンドの方がいて、お話を伺うだけで知らない世界を知れてとても刺激的です。

 

イマイ
借金まみれになったとはいえ、幸福度も上がり年収も上がり技術や知識もアップしたと。

 

須賀さん
PTとしての能力も上がったのは非常に実感していて、アメリカ大学院での教育のおかげでレッドフラッグススクリーニングから理学療法介入の流れが非常によく整理されたと思います。

 

須賀さん
今、どの病期にあるか?予後はどうか?リファラル(他の専門家への紹介)をするべきか?など。ただ、ピッツバーグ大学を例にあげれば、エビデンス取得の方法をきっちり指導してもらえるため、日本に比べれば卒業生は論文を読んだり科学的に考える思考が身につきやすいと思います。

 

須賀さん
しかし、その卒業生も含めて、必ずしもアメリカのPT全員が能力が高くて論文をきっちり読んでいるということは全くないです。有名病院なども見学して、もちろん何割かの方はきっちり運動療法や患者さん対応をされていると感じました。が、東京オリパラでお会いした方がなど、日本のPTで知識、技術、患者対応の全てでレベルの高い方は本当にたくさんいますよね。どこでもやってる人はやっているし、そうでない人はそうでない。フィリピン、イタリア、台湾などの国のPTともよく交流がありますが、それはどこでも同じだと感じています。

 

イマイ
話が逸れたところでお伺いしますが、アメリカのPT教育を日本に導入したら日本のPTの質は高まりますか?

 

須賀さん
高まる部分ももちろんあると思います。特にエビデンスの教育をした後に、ケースベースでその知識をどう使うかディスカッションをしていく、という部分を取り入れると。ただ、日本人だからこそ高い技術も多いです。

 

イマイ
具体的にはどのような点ですか?

 

須賀さん
介入の流れを組んだり、説明の見せ方という面ではアメリカのPTは上手だなと思うことは多いのです。ただ、自分が知っていることに当てはまらないと「仕方ないよね」とそれ以上あまり考えなくなる傾向があります。

 

須賀さん
しかし、日本人の場合はそこからでもなんとかできる方法があるはずだ、と丁寧に考えますよね。ここにも原因があるかもと。最初から肩の痛みのある方に何の説明もなく足を触り出すといったことが起こるかも知れないという欠点もはらんでいると思っていますが。

 

イマイ
その辺りは日本で日本人の中で働いていると気付きにくい点ですね。患者さんを“様”で呼ぶのか否かが話題になるレベルですし。

 

須賀さん
ファーストネームで呼ぶ文化であることもあり、その辺で議論が起こるのをみると文化の違いを感じますね。今働いている職場は、日本人が経営しているクリニックですは多国籍のPTが働いています。

 

須賀さん
日本での臨床経験を持っているのは私だけですが、他施設でよくならなかったからといらっしゃる何名かのクライアントさんの話では、日本のPTだったらもっと丁寧だよな、と感じることもあります。例えば、「この運動すると痛みが増すって言ったら理由も説明されずに、回数減らしましょうって繰り返し言われたの」など。日本だったらもっと運動のフォームが悪かったか、その運動自体が合ってないのか?もっと考えますよね。

 

イマイ
日本人で自己肯定感が低い人は一度アメリカに行って現場を体験できるといいですね。打ちひしがれる点もあると思いますが、自信を持てる部分も出てくるでしょうね。

 

須賀さん
間違いないですね。以前POSTでもスタディーツアーを組まれていたと思いますが、あのような経験はいいですよね。コロナが収束したらNYでもやりたいですね。

 

イマイ
NYいいですね。とりあえず、MLB(メジャーリーグ)とNBA(バスケットボール)の試合は必須でお願いします。

 

イマイ
話の視点を変えて、年収を考えたときに日本は社会保険制度が導入されているため上限があります。その点アメリカは民間保険ですよね。

 

須賀さん
そうですね。アメリカの場合、保険料によってサービス内容が大きく異なります。安いと言っては失礼ですが比較的リーズナブルな保険の場合、受診できるクリニックや医療プロバイダーがあらかじめ指定されて決まっているケースが多いです。

 

須賀さん
初診は決まったクリニックで診断をもらって、その後ネットワーク内(インネットワーク)でスペシャリスト(整形外科医や理学療法士など含めて)クリニックを紹介されます。当然、自分自身で選ぶことは難しくなります。これが、良い保険に入っていると最初からスペシャリストへ受診が可能など保険料を多く払っていると制約なく選べます。

 

イマイ
日本でいう総合病院の形態がクリニック間の連携で行われているということですね。

 

須賀さん
それに近いですが、それでも日本の場合、行く病院を選べますからね。日本の場合一律料金で平均以上の医療を全員平等に受けられる制度ですよね。世界で最も素晴らしい、というか奇跡のシステムの中にいたのだと実感しています。

 

イマイ
そうですよね。高額医療制度もありますからね。一方で民間保険制度だと、不正請求の嵐なのでしょうね。だからこそ売上が上がり、年収も高くなるのかもしれませんが。。

 

須賀さん
当然起こりうると思います。そもそも受診していない日の請求をクリニックや病院が保険会社に申請して、必要分を支払ってくださいという連絡が来るということも耳にします。ちなみにアメリカでは理学療法士がダイレクトアクセスをできる州がほとんどです。

 

須賀さん
ただし、ニューヨークの場合は経験年数等の制限があります。ただ、私の場合は日本での経験はその要件を十分に越えているので、確認中ですが、曖昧な回答しか帰ってきていません。なので、初回はダイレクトアクセスが可能なセラピストから一緒に入ったという証明のためのサインを必ずもらうようにしていますが、このようにこれに限らずうやむやにされている事も多々あると思います。

 

イマイ
民間保険だから年収が高くなる(売上上限がない)ということも当然ですが、日本人の年収不満みたいなものは、民間保険のアメリカでは起こらないものですか?

 

須賀さん
そんなこともないと思いますよ。その点は日本と同じように、キャリアアップや年収を上げるために民間企業でアプリの開発に携わるPTもいると聞きます。大学4年間が終わった後に借金をして3年間DPTコースに行って、博士の学位も取っているのにこの給料ではやっていられないと考えるようです。

 

須賀さん
アメリカの方が絶対上と感じていない日本にルーツがあるアメリカのPTでは日本で働いてみたいというPTもいますよ。全般的に日本は医療従事者の低給料で奇跡の保険システムが保たれていると感じていますが、良い面としては何と言っても日本の場合には保証がありますよね。簡単に解雇することはできませんし、ほぼ決まった額の給与や昇給があります。給料は高いかも知れませんが、アメリカの場合いつでも解雇できますからね。

 

イマイ
そうですよね。日本の方が恵まれている点も多いですよね。

 

須賀さん
解雇の話だと、そのおかげで流動性は高まりますしチャレンジングな採用も可能になっている面もあると思います。試しに採用してみて、ダメなら解雇すればいいですからね。その点で、日本の方が“閉塞感”を感じやすいと思います。

 

イマイ
日本にいるとその“閉塞感”の正体がわかりにくいなと感じます。須賀さんから見た日本の“閉塞感”の正体はなんだと思いますか?

 

須賀さん
1回選んだらなかなか変えられない、そして、“どんなに頑張っても変えられない何か”があるということだと思います。社会保障の制度で言えば、どんなに頑張って単位を取っても上限がある。エビデンスを出したから点数を上げてくれと訴えても財源がない。

 

須賀さん
下げられないという意味や社会に価値を伝えるという面ではエビデンスを出すなどももちろん重要だとは思っています。ただ、変えられない。変わらない。そんな空気感が閉塞感なのだと思います。それはPT以外の部分でもそうですよね。

 

イマイ
と言いますと?

 

須賀さん
例えば、公益の仕事を無報酬で頼まれることがあります。私もありますし、そのほかの方が頼まれているのをSNSで見ます。内容によっては、財源がなかったり、自分が興味を持っていたり自分にメリットがあれば無報酬でも喜んで承諾します。が、「何々からの依頼は無報酬でも必ずやるもの」という同調圧力は強く感じます。

 

イマイ
なんとなく分かります。それによって守られている部分もありますよね。

 

須賀さん
そうですね。ある意味で社会保障もそういったものなのかもしれません。その中で、「売上を上げる!」と息巻くと逆に叩かれることがありますよね。頑張っているの定義をここで議論はしませんが、頑張ろうと突出しようとすると叩かれる場面を見受けます。

 

須賀さん
特にお金が絡むと、君も同じであるべきといったような。その結果、チャレンジしてみようというモチベーションが減退する。これが日本を出てみて感じた閉塞感の正体であると私は感じています。

 

イマイ
とても分かりやすいですね。中庸(メソテース)という概念がありますが、ちょっと誤解された形で伝わっている節がありますね。須賀さんはそれに対して、日本という枠組みから出られたことで、閉塞感を拭うことができたんですね。

 

須賀さん
もちろん今の職場は日本の文化も少しありますので、全くないというわけではありませんが、アメリカに来て一番楽な部分はそこです。違うと思えば堂々と「私はやらない」と言える環境、文化がアメリカにはあります。

 

イマイ
自分自身に思想や主義があって、意見を言いたい人にはアメリカの文化が馴染みそうですね。

 

須賀さん
そうですね。なので自分で決めることや主張してなんでも正しいと思うことを進める、ということに慣れてない方にはアメリカ生活は合わないかなと思います。あとは便利な看板の役割もありますね。日本で働いているだけでは得られない外から見た価値がわかりやすい形で手に入りました。その一つがアメリカの大学院修了とDPTという看板です。これによっていただけた仕事もあります。

 

イマイ
その看板で得たお仕事はどんなものがあるんですか?

 

須賀さん
国際関係の仕事を得られやすくなったように思います。昨年行われた東京オリパラのポリクリニックでの活動は、今の便利な看板なくして得られなかった仕事だと思います。また、昔から“国際支援”というものに興味がありました。ただ、プロフェッショナルとして自信が持てた時点でそれを行っていきたいと考えていました。そして、“国際支援”という形で関われていると感じるのは「カンボジアでサッカースクールを創る」というプロジェクトにPTとして関われていることです。

 

イマイ
すでにクラファンを成功されているようですね。

 

須賀さん
そうですね。コロナの影響もあって実質的な活動は現地で十分にできてないですが、看板あってこそ得られた繋がりだと思っています。

 

イマイ
アメリカに行って、高年収をもらえるようになったものの2000万円を投資し、高い物価の中で暮らし、対象人口が20億人に達したと。これだけ聞くと、お金があるのかないのかわからない状況ですね。ただ、自分の思ったことを素直に言葉で伝えられる文化圏にいられることで幸福度が高まっている今、プロフェッショナルとしての支援にも関わることで“お金以外の幸せ”を実感している。というまとめでよろしいでしょうか。

 

須賀さん
そうですね笑。もともとアメリカになんらかのつながりがあったり、現地生まれであったり、潤沢な資金が家庭としてあるという場合でない限り、年収という基準だけでアメリカを羨ましいと思わない方が良いと思います。

 

須賀さん
数えきれないマイナスを超えて免許とビザ取得に至る過程ですので。もちろん多くの資金が投入されて研究も盛んなアメリカのPT業界はすごい面、発展している面も多々あります。しかし、必要以上に自分達を卑下せずに、日本でみなさんが臨床を行っていることは受ける側にとっても素晴らしい部分も多いということが伝わると嬉しいです。

 

須賀さん
日本は世界的に見て稀な受診する側にとってありがたい制度、そして、素晴らしいPTが大勢います。おこがましく響いてしまうかも知れませんが、変な情報に惑わされず、ご自身の目の前のことを貫いてほしいと思います。隣の芝は青くて、日本でそのまま働いていたらもう少し生活も楽だったりするのかなと考えることもありますので笑。

 

イマイ
ありがとうございます。本日は、「日本とアメリカの年収格差」という話題を軸にお話をお伺いしましたが、結論年収に格差はあれど生活という面を考えると物価等で年収が高いのは当たり前であると。つまり、一長一短で単純な数字を並べても意味がないということがよく分かりました。

 

イマイ
ですが、「日本とアメリカの年収格差」という話題が盛り上がる点は日本らしい“空気”による閉塞感によって起こっていると言えます。その点、空気の薄いアメリカに憧れる気持ちが「日本とアメリカの年収格差」の比較によって噴出したということかもしれないですね。

 

須賀さん
そうですね。ぜひ一度アメリカに来て自分の目で確かめてみてほしいなと思います。ラーメンがとても高いと実感できると思います。ニューヨークでお待ちしています。

 

イマイ
本日はありがとうございました。ニューヨークでお会いしましょう。

 

須賀さん
こちらこそありがとうございました。お待ちしています。

ー完ー

日本の評論家山本七平は空気の正体を「臨在感的把握」と言い換え「臨在感的把握の原則は、対象への一方的な感情移入による自己と対象との一体化」と述べています。感情移入を絶対化し、感情移入ではないんだと思い込ませる状態になることによって「空気」の支配がうまれるという主張です。例えば、療法士が毎年の給与改定の際に「もっと給与を上げてくれ」と一般的には主張しません。これはすでに「臨在感的把握」の状態にあると言えます。臨在感的把握によって守られていると感じることもあるでしょう。この状態に不満があり、脱出したい場合には日本以外へ出る必要があるのが現実です。数字のトリックに騙されないよう、目の前のことに必死になることが現在求められている唯一の道なのかもしれません。誰にも気付かれず突出するためにも…。

須賀さんプロフィール

▶︎FuncPhysio NY

過去のインタビュー

理学療法士として成長するための道のり アメリカ大学院、英語、筋膜マニピュレーションⓇspecialist アジア人初取得

4度の語学留学 苦難の路を乗り越え、遂にDPT留学の切符を掴む

須賀さんの歩み

▶︎2021年の振り返りと2022年の抱負

▶︎アメリカでの就職活動について

カンボジアのサッカープロジェクト World Football Ship

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