第二回:私は自分のことを理学療法士と呼びません【蒲田和芳先生】

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私は自分のことを理学療法士とは呼びません。理学療法士免許は日本の医療システムの中での資格であって、それは私の活動範囲や人格全体の一部であると捉えています。自分自身は研究者、理学療法士、教員、経営者などのいくつかの役割を使い分け、次に説明する一つのライフワークに取り組んでいます。

理学療法士の資格の利点は、医療機関における診療活動ができること、医師や他の医療職との接点が多いことなどがあります。一方で、論文を読んだり、実験を行ったりするときは研究者の役割を担います。さらに、学生を指導するときは教育者などの役割があります。


現在の私の活動は以下の通りです。

・教育(広島国際大学、医療機関、各種セミナーなど)
・研究(広島国際大学大学院、共同研究機関、日本健康予防医学会、その他学会活動)
・臨床(医療機関、スポーツ現場)
・商品開発(株式会社GLAB)
・出版(講談社、ナップなど)
・疾病予防活動(企業内腰痛予防、自治体における膝痛予防)
・経営(株式会社GLAB)

いろいろなことを行っていると思われがちですが、私自身の中ではReaLine for Everyoneの一言に集約され、すべての活動を通じて「一つのこと」に取り組んでいます。ライフワークは一つですが、その達成のためにいくつもの役割があるということです。

ReaLine for Everyoneを具体的にいうと、関節の変形に対するrealign(ゆがみ矯正)の研究を進め、関節のマルアライメントの予防、軽減、治療を学術的に発展させること、そしてそれを個人技ではなく医療のスタンダードにすること、そして社会全体の文化として根付かせることを目指しています。

このため、いろいろな立場や役割がありますが、私にとっては取り組んでいるライフワークは一つで、状況に応じてユニフォームを着替えるのと同じなのです。大学における私の教育テーマは、スポーツ理学療法(SPT)の専門家の養成です。学生が入学する時点では、半数以上の学生がスポーツ外傷を契機に理学療法士という職業を知ったと言います。自分や同級生が怪我をしてリハビリに通った経験とともに、理学療法士との接点ができてこの資格取得を目指す学生が多いようです。



高齢者や重度障害者、小児麻痺や心疾患患者など様々な病期でリハビリを必要とする人が理学療法士を必要としています。一方で、スポーツ選手やスポーツ愛好家は、経済活動の担い手として、介護や社会サービスの担い手として、さらには社会の活力の象徴として社会にパワーを与えてくれます。


スポーツ理学療法は、医療サービスの一つの役割分担として社会の活力を高めるスポーツ選手やスポーツ愛好家をサポートします。そのことを学生には理解してもらいたいと思っています。


 2008年に、広島国際大学のベンチャー企業として株式会社GLAB(ジーラボ)を設立しました。その理由のひとつは研究費の獲得があります。企業活動によって利益を得て、それを研究費として活用し、そこから新商品や新サービスを社会に提案していく、という循環を生み出すためのエンジンとして株式会社が必要だと考えました。セミナー事業である程度収益があるのはわかっていましたので、商品の販売を加えて多少の研究費を獲得できると推測していました。
 

 会社経営は容易なものではありません。私財をつぎ込むとともに、常に倒産の恐怖とともに歩んでいきます。スタッフの給与を確保するためにも黒字経営を続けなければなりません。大量の雇用を確保できるような企業ではありませんが、わずかながらも雇用を創出し、利益を出して、納税します。納税するということ自体が社会への重要な貢献ですし、セミナーや商品が治療を容易に、そして効果的・効率的にするうえで役立ていただくことができれば、納税以上の貢献ができます。


2003年ころまで、年間に200日インソールを製作していました。1日1時間の製作時間を確保し、2名分のインソールを製作できましたので、ざっと年間の400名分ということになります。しかし、当時私やスタッフが担当していた患者のニーズを満たすには、あまりにも少ない数でした。例えば、スポーツ選手で練習用・試合用・雨用とか4〜5足を半年サイクルで買い替えれば、年間に10足のシューズが必要となり、それに対してインソールも10足必要ということになります。これでは全然ニーズを満たしていないことになります。


女子テニスプレーヤーの杉山愛選手のインソールを作製したことがありました。彼女は月に3足のシューズを使っていたため、12ヶ月で合計36足のシューズを使っていました。この年間36足のインソールへのニーズに対して、当時は絶対応えられませんでした。手作りの良さもありましたが、ニーズを満たすことができない作製方法そのものを根本的に変えない限り、永久に問題は解決されません。したがって、まったく新しい方法に着手する必要性に迫られました。



2003年からのアメリカ留学において、商品開発への意欲がさらに高まりました。アメリカの大学は我々の作る技術をビジネス化するために、強力なサポート体制を用意しています。研究者が開発したものを大学の中の技術移転事務所が聞き取りをして特許を申請したり、ビジネスパートナーとなる企業を探してくれるのです。
 

このため、商品のアイデアが生まれたら学会などで発表する前に特許出願を済ませ、ビジネスとして成立するように作っていきます。このことを契機に、特許を含めた商品開発の流れを学び、その意欲がたかまりました。
 

アメリカから日本に帰り、大学での研究費獲得のため、いくつもの企業を相談しながらインソールの開発を進めていきました。その流れで起業するに至り、大阪の共和ゴム株式会社の協力を得てインソールやバランスシューズの開発を進め、株式会社GLABでの商品販売が開始されました。

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蒲田先生が骨盤帯について講演するフォーラム

【大阪開催】2019年7月7日 ウィメンズヘルスケアフォーラム2019

セミナーのアイキャッチ

《概要》

日時:2019年7月7日(日) 10:00~17:00

年々、需要が増しているウィメンズヘルスケア。
過去数回に渡って行っているこのフォーラムも、お陰様で年々参加者が増えていき、その関心の高さが伺えます。
我々セラピストもこの流れに合わせて最新の情報や技術を獲得していく必要に迫られています。
今年は、昨年よりも更に充実した内容となっております。
様々な領域の女性医学を学べる数少ないチャンスです。
前回参加された方も、更に満足できる内容となっていますので、ぜひ、ご参加ください!

『あの蒲田和芳先生の実技を受講できる!』

大会では通常の座学に加えて、リアラインコンセプトやISR(組織間リリース®)で有名な広島国際大学の蒲田先生による実技講座を別に受講することできます。
実技講演に参加したい方は本大会参加申し込みに加えて実技チケットを申し込むことで、別部屋で実施される特別セミナーを受講することができます。
実技を受けることによって、更に学習度を高めることができ、現場に活かしやすくなります。
定員に限りがあるので、申込みはお早めに!

●座学講義【快適な生活を実現するための産前・産後ケアの考え方:リアライン・コンセプトに基づく治療法】
●実技講義【デバイスと運動療法による産後の仙腸関節障害のマネジメント】
 

大会概要

【日時】2019年7月7日(日) 10:00〜17:00(予定)
【会場】TKPガーデンシティ大阪梅田
※JR大阪環状線 大阪駅 桜橋口から 徒歩8分
※JR大阪環状線 福島駅 出口から 徒歩3分
【対象】療法士、看護師、助産師、その他セラピストなど
【参加料金】大会参加チケット:12,960円(税込)※実技チケットは別途料金が発生します。
【定員】400名

 

講師一覧

蒲田 和芳先生(広島国際大学教授、株式会社GLAB代表取締役)
・丹羽 麻奈美先生(PALM care)
・萬福 允博先生(乳腺ケア 泉州クリニック)
・新谷 礼先生(江川産婦人科)

 

 

蒲田和芳先生経歴

■現職

広島国際大学総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 准教授

株式会社GLAB(ジーラボ) 代表取締役

日本健康予防医学会 副理事長

■学位・免許・資格

1995年4月 理学療法士免許(第14544号)

1997年3月 日本体育協会アスレティックトレーナー(776C70813)

1998年3月 学術博士(東京大学大学院 総合文化研究科 生命環境科学系)

■学歴

1987    卒業: 富山県立高岡高等学校

1987     入学: 東京大学 理科II類

1991    卒業: 東京大学 教育学部 体育学科 【教育学学士】

1994    修了: 東京大学大学院<前期課程> 教育学研究科体育学・スポーツ科学専攻【教育学修士】

1995    卒業: 専門学校 社会医学技術学院 夜間部理学療法学科 【理学療法士】

1998    修了: 東京大学大学院<後期課程> 総合文化研究科生命環境科学系 身体運動科学研究室 【学術博士】

■職歴

1997年4月~1998年3月   正職員: 横浜市衛生局 横浜市スポーツ医科学センター開設準備室

1998年4月~2003年3月   正職員: 横浜市スポーツ振興事業団 横浜市スポーツ医科学センター 整形診療科 理学療法室長

2003年6月~2003年5月   博士研究員: コロラド大学ヘルスサイエンスセンター 医学部整形外科 整形外科バイオメカニクス研究室

2005年6月~2006年3月   研究員: フロリダ大学航空機械工学科 整形外科バイオメカニクス研究室

2006年4月~2007年3月   正職員: 広島国際大学 保健医療学部 理学療法学科 助教授

2015年4月~            職名・職階変更: 広島国際大学 総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 教授

■非常勤・臨床

1990年12月~1998年3月 研修: 日本体育協会スポーツ診療所 理学療法室

1992年7月~1993年9月    アドバイザー: 株式会社セノー トレーニングマシンSXシリーズリニューアルプロジェクト

1995年4月~1996年3月    非常勤講師: 富士ビジネス&アスレティックカレッジ(機能評価学、スポーツ医学、アスレティックリハビリテーション担当)

2007年4月~2008年9月   非常勤理学療法士: 蜂須賀整形外科, 広島市

2008年4月~            臨床アドバイザー: 貞松病院, 大村市

2008年10月~2011年11月      臨床アドバイザー: 和光整形外科, 広島市

2010年11月~2015年9月 非常勤理学療法士: アオハルクリニック, 東京都港区

2011年4月~            臨床アドバイザー: 東広島整形外科, 東広島市

■スポーツ現場

1991年4月~2003年5月   東京大学運動会アメリカンフットボール部Warriors トレーナー

1995年9月              福岡ユニバーシアード 選手村診療所 理学療法士

1996年7月              アトランタオリンピック 日本選手団本部医務班 理学療法士

1997年4月~1999年3月   株式会社ワールド ラグビー部 非常勤理学療法士

2000年8月              シドニーオリンピック 日本選手団本部医務班 理学療法士

2002年9月~2003年3月   株式会社シャンソン 女子バスケットボール部 非常勤理学療法士

2012年5月~2013年3      中国電力女子卓球部 トレーニング指導

 

第二回:私は自分のことを理学療法士と呼びません【蒲田和芳先生】

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