『なっちゃん!あのな、ワンピースが着てみたいん!』
9月に開催された“バリバラ✕車いすでお買い物ツアー”に参加してくれたゲストさんが、 開口1番、笑顔で私にかけてくれた言葉です。初めてイベント参加していただいた今年の春には、◯◯が着たい! という言葉は聞かれなかった方。
前回は一緒に様々なお洋服を見て、 着たことのないデザインのお洋服に試着室で 実際に袖を通す 経験をした彼女。オシャレが楽しいと感じる、言い換えれば 服選びの選択肢が拡がる可能性を感じ始めたようです。
嬉しい瞬間です!
着やすい服・着せてもらいやすい服
皆さんは、車いすユーザーさんの更衣介助をしたことがありますか?
あんなにも伸縮性のあるヒートテックを1枚着るだけでも大変。 伸びにくい肘や肩を少しずつ動かして袖を通し、背中に溜まる生地を整える。ズボンはウエストゴムであっても、お尻を通してウエストまでズボンを上げるために、何度も寝返りが必要なこともあります。
それに加えて、オムツや装具の着脱が必要な方もいますね。 介助する側も受ける側も、着替えが終わる頃には、お互い汗だくなこともしばしば。ですが、ご家族は忙しい朝、限られた時間で行っています。もちろん、何時間もかけて1人で行っている方もいます。。
365日×1日最低2回。 排泄介助が必要だと、一体1日何回でしょうか??
そう考えると、伸びやすく柔らかい生地・ウエストゴムのズボンを選び、小さなボタンが沢山ついている服を避けることは、ごく自然なことですね。そう、お洋服選びは“着たい服”ではなく“着やすい服・着せてもらいやすい服”であることが重視されがちです。。
着たい服を探す
初対面のゲストさんとは、時間の許す限りお話しをして、沢山のお洋服を一緒に見て、ゲストさんの“好き!・着たい!”を探していきます。
ご本人が着られないと思っているデザインも、縫製の仕方や素材を選べば可能なことが多くあります。また、脱ぎ着の際のちょっとした工夫で解決できることがたくさんあります。
だからこそ、『これが好き!』『これが着たい!』 ワクワクの感情が動き、好きだ!と思えること・それを相手に伝えることが大切なんです。 ここからお洋服選びはスタートします!
臨床に置き換える
私たちの生活は、意識・無意識の内に、沢山の選択肢の中から選び・決定することの積み重ねです。皆さんが今着ている服、今日のランチメニューは、全て自分で選択しているはずですね。。
更には通勤手段、今夜帰る家、一緒に晩ごはんを食べる人、お風呂へ入る時間までも、自ら選択・決定しています。。ですが、車いすユーザーさん、もしくは今担当している患者さんは、全く同じでしょうか?
・大切な人の結婚式に“着やすい服”を着て。
・今日はラーメンの気分だ!…ではなく、スプーンで食べやすいものの中からランチを選び。
・イルミネーションを楽しみながら帰るのではなく、エレベーターのあるルートを通り。
・あのドラマが終わってから…ではなくヘルパーさんの時間に合わせてお風呂へ入る。
ちょっと大げさな表現ではありますが、障がい者・高齢者と言われる方の中には、このような生活をしている方が沢山います。
日常生活の中で、極少ない選択肢の中から決定することや、諦める経験の多さが積み重なると、本人も気付かぬ内に、 少ない選択肢・諦めることが“あたりまえ”になってしまいます。
ファッションに限らず、本当は誰にも言えないけれど、我慢していることが沢山ある。 自分でも気付かない内に諦めていることが沢山ある。
まずは私たち医療福祉従事者が、隠れたこの現状に気付くことが大切ではないでしょうか。
目の前の患者さんが、心の奥底に仕舞いこんでいる◯◯したいな、を引き出す。選択肢を一緒に増やす。。
それが、リハビリ職だからこそサポート出来ることだと思います。
解決できる手段は、沢山持ちあわせているのだから。。^^
p.s.
ワンピースが着たい!と言ってくれた彼女。 良いお洋服に出逢うことが出来ました。
秋色で大人っぽいデザインが好みだったので、落ち着いたデザイン。 伸縮性がある生地。 着ている人も、着せる人も、快適な1着!
【目次】
岡野菜摘先生経歴
『大好きな服を着て 大好きな人と 大好きな場所へ』をモットーに、 理学療法士の知識と技術をファッションに混ぜ込みながら、ブログで発信。
また、デザイナーの鈴木綾と共に、イベント『車いすでお買い物ツアー』を実施中。 外出のきっかけ作りや、仲間作りを、ファッションを通して創造している。
選択肢を増やし、自ら選択することの楽しさを伝えることで、車いすユーザーが、 自分らしく生きることのできる社会を目指す。
ブログ:「あのモデルさんと同じ服が着られた!車椅子女子の表参道ファッション」
HP:「車いすファッションプロデュース」
※ボランティアスタッフ募集中!