【発表のポイント】
・テレビや DVD などの視聴時間、スクリーンタイム(注 1)の子どもの発達との関連が懸念される中、その関連がいずれの発達領域と特異的なものなのかは明らかではありませんでした。
・1 歳時におけるスクリーンタイムと 2 歳時および 4 歳時における 5 つの発達領域での発達特性との関連を解析したところ、スクリーンタイムの長さと、2 歳時および 4 歳時点でのコミュニケーション領域および問題解決領域の発達特性が特異的に関連していました。
・デジタルデバイスの普及が加速している現代において、スクリーンデバイスの使用と子どもの発達領域の関連を示した新しい視点の研究です。
【概要】
子どものスクリーンタイムが子どものいずれの発達領域と特異的に関連しているのかはこれまで明らかではありませんでした。
東北大学東北メディカル・メガバンク機構の栗山進一教授、小原拓准教授、東北大学大学院医学系研究科の髙橋一平大学院生、浜松医科大学の土屋賢治特任教授、西村倫子特任講師らの研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加している 7,097 名の子どもを対象に、1 歳時のスクリーンタイムと 2 歳時および 4 歳時の 5 つの発達領域における発達特性との関連を調査しました。その結果、スクリーンタイムの長さが、2 歳時および 4 歳時のコミュニケーション領域および問題解決領域の発達の遅れと特異的に関連していました。
この研究成果は、小児科学の専門誌 JAMA Pediatrics に 2023 年 8 月 22日(日本時間)にオンライン掲載されます。
研究の背景
新型コロナウイルスの世界的な流行と近年のデジタルデバイスの急速な普及により、子どものスクリーンタイムが世界的に増加しており、スクリーンタイムが子どもの発達に与える影響を検討することは公衆衛生上の重要な課題となっています。そのような状況下で、子どものスクリーンタイムと発達の遅れや自閉スペクトラム症などの発達障害との関連が先行研究により報告されてきましたが、子どもの発達領域が様々存在する中で、スクリーンタイムが子どものすべての発達領域の遅れと関連しているのか、または特定の発達領域の遅れと関連しているのかは明らかではありませんでした。
今回の取り組み
東北大学東北メディカル・メガバンク機構の栗山進一教授と東北大学大学院医学系研究科の髙橋一平大学院生を中心とした研究グループは、子どものスクリーンタイムと特異的に関連する発達領域が存在し、その関連は一時点だけではなく、子どもの成長とともに継続すると仮説を立て、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加している 7,097 名の子どもを対象に、1歳時でのスクリーンタイムと 2 歳時および 4 歳時の 5 つの発達領域における発達の遅れの有無との関連を調査しました。
スクリーンタイムは保護者による 1 歳時調査票の回答に基づき評価し、1 日あたり、1 時間未満、1~2 時間未満、2 時間~4 時間未満、4 時間以上の 4 群に群別しました。5 つの領域における発達の遅れは保護者により ASQ-3(Ages and Stages Questionnaires, Third Edition)(注 2)を用いて評価されました。5 つの発達領域はコミュニケーション (喃語、発声、理解)、粗大運動(腕、体、脚の動き)、微細運動(手や指の動き)、問題解決(学習、おもちゃでの遊び)、個人・社会(おもちゃや他の子どもとの遊び)で構成されます。本研究では 5 つの領域ごとに点数を集計し、個人の合計点数が平均-2 標準偏差以下の得点だった場合「発達が遅めである」と定義しました。子どものスクリーンタイムと 5 つの領域における発達の遅れの有無との関連は多変量ロジスティック回帰分析(注 3)によって解析されました。
結果として、1 歳時でスクリーンタイムが 1 時間未満の子ども(基準グループ)と比較して、スクリーンタイムが 4 時間以上の子どもでは 2 歳時、4 歳時のコミュニケーション領域における発達の遅れがある割合がそれぞれ 4.78倍、2.68 倍と推定されました。また、基準グループと比較して、スクリーンタイムが 4 時間以上の子どもでは 2 歳時、4 歳時の問題解決領域の発達の遅れがある割合がそれぞれ 2.67 倍、1.91 倍と推定されました(図 1)。
一方で、1 歳時のスクリーンタイムは 2 歳時の微細運動、個人・社会の領域における発達の遅れと関連していましたが、4 歳時では関連が確認されませんでした。粗大運動の領域では 2 歳時、4 歳時ともに関連が確認されませんでした。
今後の展開
本研究ではスクリーンタイムは子どものすべての発達領域に関連するのではなく、コミュニケーション領域および問題解決領域の発達の遅れと特異的に関連し、その関連は子どもの成長とともに継続することが明らかになりました。
こういった関連が報告された一方で、デジタルデバイスが急速に普及している現代においてスクリーンタイムを極端に減らすことは現実的ではありません。スクリーンデバイスは教育的な一面も含んでおり、先行研究において教育的なスクリーンデバイスの使用が発達に良い影響を与えることが示されています。また、本研究では点数が-2 標準偏差に達しない場合を先行研究等に倣い「遅れ(delay)」と表現していますが、デジタルデバイスの発展をはじめ社会が大きく変化する中、この発達の違いが果たして「遅れ(delay)」なのかどうかは議論が必要と考えます。さらにスクリーンタイムと発達が関連していることは明らかになったものの、本研究の範囲では、長いスクリーンタイムが発達の違いの原因なのか結果なのかまではわかりません。発達の特性が、一つのことに集中して長く続ける、待ち時間等の過ごし方が限られる、といったことと結びついた結果として、スクリーンタイムの長さにつながっている可能性も考えられます。
以上により、本研究結果は今後の子どものスクリーンタイムと発達との関連を検討する研究において、発達の領域別に検討する必要があることを示唆するものであり、スクリーンタイムの制限を推奨するものではありません。
今後は、スクリーンデバイスの使用以外の子どもの生活環境も考慮に入れた上で、スクリーンを通してどのようなコンテンツをどのくらいの時間、見るとどのような影響があり得るのかを詳細に検討する必要があります。また本研究の対象は 4 歳児までとなっていますが、成長に伴い今後、どの発達領域にどのような影響があるか、継続的な調査による成果が期待されます。
【謝辞】
東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート研究は、日本医療研究開発機構 (AMED)の助成を受けています(助成番号 :JP17km0105001、JP21tm0124005、JP19gk0110039)。
【用語説明】
注1. スクリーンタイム:
テレビや DVD、ゲームなどの画面(スクリーン)を備えたデバイスの使用に費やされた時間のこと。本研究では下記の質問項目を対象としている。「ふだんの 1 日のお子さんのテレビや DVD・テレビゲーム・ネットゲーム(携帯・タブレットも含む)の利用時間」
注2. ASQ-3(Ages and Stages Questionnaires, Third Edition):
米国で開発された子どもの発達評価ツール。親などの養育者が記入することで簡便に児の発達の状況を把握することができる。
注3. 多変量ロジスティック回帰分析:
2値の結果(発達の遅れの有無)が起こる確率をとある要因(スクリーンタイム)によって説明・予測することができる統計手法。その際にスクリーンタイムと発達の遅れの有無に影響する複数の要因を考慮し、これらの要因に関わらず発達の遅れが明確になる確率を予測した。
注4.有意差:
統計的に意味のある差を有意差と表現する。
【論文情報】
タイトル:
Screen Time at Age 1 Year and Communication and ProblemSolving Developmental Delay at 2 and 4 years
著者:
髙橋一平、小原拓*、石黒真美、村上慶子、上野史彦、野田あおい、大沼ともみ、篠田元気、西村倫子、土屋賢治、栗山進一
*責任著者:
東北大学東北メディカル・メガバンク機構 分子疫学分野 准教授:小原拓
掲載誌:
JAMA Pediatrics
DOI:
10.1001/jamapediatrics.2023.3057
URL:
https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2023.3057
詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/08/press20230822-01-screentime.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。