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ACL損傷とPCL損傷の整形外科的テストの疑問|吉田俊太郎

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理学療法士の吉田俊太郎と申します
私は解剖学教室に所属し、筋骨格系の研究をしています(順天堂大学大学院にて医学博士号取得)。同時に普段は臨床で患者さんのリハビリを担当しています。
解剖学は教員の先生方が担当されることが多く、解剖学を専攻しているセラピストが担当することは少ないと思います。そのため私の方では臨床で働くセラピストが日々行っている評価と治療の疑問を臨床解剖学の視点から解決していきたいと思います。

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前十字靱帯損傷と後十字靱帯損傷の整形外科的テストの疑問

前十字靱帯損傷の整形外科的テストは"前方引き出しテスト"(図1-a)と"ラックマンテスト"(図1-b)の2種類存在するのに対して、後十字靱帯損傷の整形外科的テストは"後方引き出しテスト"(図2)の1種類しか存在しない。

 

どうして対称的な位置にある靱帯にも関わらず、テストの種類の数に違いがあるのか疑問を持った方も多いのではないだろうか。

私は臨床で働きはじめた頃は先輩に整形外科的テストの実技指導を受け、当テストも何度も練習をさせていただいた。練習後は自分の膝関節がガクガクと不安定になり、立ち上がりや歩行するのにも違和感を感じたことを覚えている。

 

そのような経験から不安定テストは何度も反復すると患者さんの負担になること、一回で正確に評価できるようになる必要があるなと実感したのを覚えている。

 

前方引き出しテストとラックマンテストの使い分けとして、前方引き出しテストの場合は膝関節は屈曲90°で実施するためイス座位でもテストができること、ラックマンテストの場合は膝関節は屈曲15-20°で実施するテストであるため、痛みや不安などで膝関節を90°まで屈曲できない方でもテストができるということが言われている。しかしながら本当にそういった環境的な要素や主観的な要素のみが理由なのであろうか?

 

前十字靱帯は2つの線維束からなる

前十字靱帯は1つの線維束として大腿骨の外側から脛骨の内側へ斜めに後方から前方に走行し、膝関節伸展で緊張すると習ったのではないだろうか?なぜ膝関節伸展位で緊張するのに整形外科的テストでは膝関節屈曲位でテストをするのだろうと疑問を持った者も多いのでないだろうか?

 

それらの疑問を解決するには、前十字靱帯の形態解剖学(組織の形状や構造を学ぶ解剖学)の知識が必要となる。実は前十字靱帯は1つの線維束ではなく、2つの機能的な線維束から構成されているのである。1つ目の線維束は前内側線維束、2つ目の線維束は後外側線維束である。なぜ2つの線維束に分けられるかというと、それぞれの機能(役割)が異なるからである。

 

前内側線維束は、膝関節伸展位で緊張は低めで、膝関節屈曲位で緊張が増加、45°付近で最大に緊張し、さらに屈曲していくと緊張は低下するという機能を持っている。それに対して後外側線維束は膝関節完全伸展位から15°屈曲付近で最大に緊張し、さらに屈曲していくと顕著に緊張は低下するという機能を持っている(図3)1)

 

よって膝関節屈曲90°で実施する前方引き出しテストは前内側線維束のテストであり、膝関節15-20°屈曲位で実施するラックマンテストは後外側線維束をテストしているということが理解できる。

 

このことは整形外科の領域では既に意識されており、前十字靱帯損傷の再建術は2重で行うことが主流になってきている。2重にすることで強度が高くなることもあるが、2つの機能的な線維束があることも理由の一つになっている。

後十字靱帯も2つの線維束からなる

 実は後十字靱帯も2つの線維束で構成されている。1つ目の線維束は前外側束、2つ目の線維束は後内側束である。では、なぜ2つの線維束からなるにも関わらず、前十字靱帯と異なり後方引き出しテストの1種類のみのテストしかないのだろうか?

 

それには線維束の太さの影響が推測される。それは前外側束の方が後内側束の2倍の太さを持っており、2倍の太さである前外側束は膝関節屈曲位で緊張する機能を持っている。

 

それに対して細い後内側束は伸展で緊張する機能を持っている(図4)2.3)。そのため細い後内側束の方は重要視されておらず、太い前外側束が緊張する膝関節屈曲位での後方引き出しテストのみになったと推測される。しかし整形外科の領域では後十字靱帯の再建も2重で行うようになってきており、今後は整形外科的テストも膝関節伸展位も合わせた2種類の実施が推奨されるようになるかもしれない。

 

【目次】

第一回:ACL損傷とPCL損傷の整形外科的テストの疑問

第二回:外側広筋斜頭という言葉を聞いたことはありますか?

第三回:大腿直筋のもう一つの起始【反転頭】の解剖学

 

参考文献

1) Vercillo, F. et al.:Determination of a safe range of knee flexion angles for fixation of the grafts in double-bundle anterior cruciate ligament reconstruction: a human cadaveric study. Am. J. Sports Med. 35 : 1513-1520, 2007.

2) Grgis, F. G. et al.: The cruciate ligaments of the knee joint, anatomical, functional, and experimental analysis. Clin. Orthop. 106 : 216-231, 1975.

3) Harner, C. D. et al. : The human posterior cruciate ligament complex: an interdisciplinary study. Ligament morphology and biomechanical evaluation. Am. J. Sports Med. 23: 736-745, 1995.

ブログやっています。もし宜しければ下記のURLよりご覧ください。

触診解剖ブログ
https://shuntaroblog.com/

 

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