がん性疼痛への挑戦と限界
ー 理学療法士になったきっかけを教えていただけますか?
萬福先生: よくある話ですが、高校生の時にサッカーでケガをしたのがきっかけです。養成校に入ってから、スポーツ分野で経験のある先生に付いて、現場の見学などさせていただきました。
ただ、10年以上も付き添って交通費すら出ない現場を目の当たりにして、頑張り続けるモチベーションがありませんでした。情熱を持って出来ないだろう、と。
そんな時に僕の祖父が肺がんになって、自分が恩返しできることはないかと考え、呼吸器の分野に興味を持ちました。また、学生時代に実習で、高知大学医学部附属病院(以下、高知大)で呼吸理学療法を見る機会がありました。
これがきっかけで、最初の就職先は大学病院で、呼吸リハビリをしているところにしようと決めました。
ー 高知大では、呼吸理学療法をしたいと思うようなエピソードがあったんでしょうか?
萬福先生:僕のバイザーが呼吸理学療法に詳しい先生だったこともあるんですけど、明確な検査データやガイドライン、先行研究を基に理学療法プログラムを決めるというプロセスが、非常に印象に残っています。
それまでは、なんとなく手で感じて、上の先生が教えることに基づいてリハビリ、みたいな実習が多く、学生ですし、データやエビデンスに基づいているものではないと、咀嚼できませんでした。
“自分の自信のないモノや根拠のないモノを患者さんに提供する”ということは、正直出来ないなと、学生ながらに思っていました。
ー サッカーのプレースタイルもそうだったんですか?笑
萬福先生:ゴールキーパーをしていたのですが、戦術的に型にはめたがる方でした。ゴールキーパーの人ってそういう人多くないですか?笑 何かと理論的にプレーするスタイルの選手は多いような気がします。
ー ちょっとゴールキーパーのプレースタイルに詳しくないので、割愛しますが、がん患者さんの痛みに、興味をもったきっかけを教えていただけますか?
萬福先生:笑。がん患者さんの痛みに興味を持ったのは大学病院にいた時ですね。呼吸に限らず明確な理学療法に興味をもち、大阪医科大学附属病院に入りました。しかし、入職してすぐに、切断後の幻肢痛がある患者さんを担当して、そこから痛みに興味をもちました。
その後、段階的なミラーセラピーによって幻肢痛が改善されたので、ある学会で発表したのですが、その時に壬生先生(現甲南女子大学助教授)に逆ナンされました(笑)。
それから勉強会に誘われ、完全アウェーの飲み会に一人で乗り込み、西上先生を紹介してもらい、今まで以上に痛みについて学ぶようになりました。今考えると、よくあの飲み会に行ったなと思います(笑)。
写真:WORLD CONGRESS ON PAIN 2018 での発表
そこから、大学病院で、がん患者さんを担当することが多くなり、がん患者さんの痛みを改善させることができないかと考えるようになりました。
一応、がん性疼痛に対するリハビリテーションのガイドラインもありますが、そのほとんどは、全然良くならないか、実施できる内容ではありませんでした。
多発骨転移していて骨折リスクが高い方や疼痛コントロールのために副作用が強いオピオイドを使用して座位を保持するのがやっとの方など、Dietzの分類(がんのリハビリ分類)で言う維持期や緩和期に生じる疼痛そのものに対して、理学療法では何もできないなと痛感したのを今でも覚えています。
ー その当時のガイドラインはどういった内容のものだったんでしょうか?
萬福先生:基本的にマッサージや物理療法が主流でした。もちろん運動療法も含まれていますが、ガイドラインの参考文献は、Dietzの分類の予防・回復期にあたり、維持期や緩和期の患者さんには適応ではないと思います。
実際に、維持期や緩和期の疼痛を有する患者さんのカルテを見ると、ずっと前から痛みを発症していることが多く、その時期の理学療法が、一番大事なのではないかと考えるようになりました。また、日本では誰も研究をしておらず、参考になる論文もなかったので、自分でやろうと思いました。
ー続く。
【目次】
第一回:明確な理学療法を
最終回:乳がんサバイバーの性生活
萬福先生オススメ書籍
萬福 允博先生のプロフィール
【資格】
理学療法士
ヨガインストラクター
がんのリハビリテーション研修 修了
【職歴】
H23年〜H29年:大阪医科大学附属病院 リハビリテーション科
H29年:田辺整形外科 上本町クリニック
H29年:乳腺ケア 泉州クリニック リハビリテーション科 科長(現在に至る)
【所属学会】
IASP (International Association for the Study of Pain)
ASCO (American Society of Clinical Oncology)
日本乳癌学会
日本緩和医療学会
日本運動器疼痛学会
日本ペインリハビリテーション学会 など