リハビリテーション職の在り方
インタビュアー中川:
これからの地域包括ケアシステムにおける療法士の在り方はどう思いますか?森田先生:
プロフェッショナルのリハビリテーションというのは高齢社会になるに従って時代に求められると思います。だけどプロフェッショナルにこだわりすぎるのも難しいと思います。
つまり、縄張り意識を持ってしまうと損だということです。
医者もそうですが、プロフェッショナルだからこれが私たちの縄張りっていうところがあります。
そういう縄張り意識を持たないで、出来ればシェアするのがこれからは求められると思います。
インタビュアー中川:
なるほど。職人気質もありますから、テクニックにこだわる部分は強いように思います。森田先生:
特に医者は「俺はこんなに技術持ってんだぞ、俺についてこい」、「ここは俺にやらせろ」みたいな部分もあります。いろいろ医者の特権にしちゃっていますね。
本当は誰がやってもいいところもあるのに、そういうのはリハ職にも通じるところはありませんか?
技術を磨いて「俺はこれはできるぞ!すごいだろ!」ってなってしまうと損かもしれません。
生活リハビリテーションのことを考えると、家族が主体で関わるべきであってほしいので、そういうところをサポートできる専門職であってほしいですね。
インタビュアー中川:
リハビリテーションの概念はその人らしく生きる権利を取り戻すことですから、そういう風には考えていきたいですね。森田先生:
生活リハを医者の視点でいうと、リハ職が決まった時間やるリハビリももちろん効果があると思います。だけど、それと同じくらい生活をしていくことがリハビリになりますよね。
つまり、病院でリハビリしててもADLは上がるけども、ただ家に帰すだけでもADLが上がる、と思います。
家に帰ると自分でやりたいことがいっぱい出てきますよね。
例えばテレビを見たい・お茶を飲みたいなどなど。
そういう欲求を解消するためにたくさんの動作が生まれます。
そういう動作をしていく上でADLは上がると思います。
だけど、ほっとくだけではよくないので、そのための評価、例えば家の動線の評価などはリハ職がプロフェッショナルとして関わってほしいですね。
医者でも生活をみる視点は本当に大事で、糖尿病の管理を外来だけでしているのと、実際に家の生活を見てするのでは視点がまるで違います。
家に一歩入るだけで、外来だけで見ているときの100倍の情報が入ります。
そういう情報まで加味して糖尿病のコントロールをするのと、採血結果だけ見てコントロールするのではクオリティーがまったく違ってきますね。
だから本来、医者は生活などを含めて全人的に見た上で、患者の対応をしなければならないですね。
インタビュアー中川:
生活をみる専門家でありたいですね。日本の医療者全体に「生活をみる」という視点が少ないんでしょうか?森田先生:
だいぶ出てきています。特に最近。専門医から総合診療医という流れが出来つつありますね。哲学になりますが、勉強したこと・習得した技術はなるべく出さないほうがいいと思います。
つまり、『伝家の宝刀は抜かない』ほうが価値があります。
例えばリハ職としての技術をリハ職自身がやるんではなくて、患者本人と家族がそれを出来るように支援していきます。
自分がやるのは最終手段、本人と家族ができるようになれば後は自分がいなくてもどんどん進んでいくと思います。
だから刀は抜かない。
インタビュアー中川:
まさに自立支援!だけど…身につけた技術は使いたくなりませんか?
森田先生:
手に入れた武器は使いたくなります。戦争と一緒。だけどそこは使わないのが美学ではないでしょうか。
リハ学生へのメッセージ
インタビュアー中川:
では、最後に学生に一言お願いします。森田先生:
学生の頃は技術を学ぶのはそれなりにやっておけばよいと思います。他の経験を積むことが一番重要だと思います。
バイトでも、ボランティアでも、何でもいいから大人に混じる、子供に混じる、異文化・異世界に飛び込んで見聞を広めることが一番大事だと思います。それが何十年か後に生きてきます。
インタビュアー中川:
森田先生自身はその価値観を身につけられたのはいつ頃ですか?森田先生:
ここまではっきり言えるようになったのは夕張に行ってからですね。
夕張に行く前の総合病院でやっていた経験も生きていますし、その前の経済学部で勉強したことやバイト・ボランティアしていたことも生きています。
全てが今、やっと結びついてきたかなという感じ。最初は関係ないなと思っていました。
今は見聞を広めるということは趣味みたいなものですね。
面白いからやっていて後々に生きるとは思ってなかったけど、今になってやっと有機的に繋がってきているように思いますね。
インタビュアー中川:
なるほど、ありがとうございました。
森田洋之先生の経歴
【主な経歴】
1990:一橋大学経済学部入学1996:同大学卒業、宮崎医科大学医学部入学
2002:同大学卒業県立宮崎病院(初期研修)、同心会古賀総合病院(内科後期研修)
夕張市立診療所(2012年は所長)
ナカノ在宅医療クリニック
現在:南日本ヘルスリサーチラボ代表