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【DNSアプローチ】母指機能が痛みの運動療法にもたらす効果

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ちょっとした工夫で運動療法効果が上がるならば臨床にとても役立つと思いませんか。DNSアプローチには、身体機能評価での見落としを補うような示唆に富んでいて、それを生かした運動療法が多いです。本日は理解が難しいDNS独特の「手指の構え」について、運動療法へ影響する領域を筋システムと簡単な運動発達をベースに書きました。天下一強いあのキャラクターの必殺技にも使われる手指の構え。読んでる途中出てくるワークをすぐやってみたくなる記事です。

江原先生による慢性腰下肢痛の理学療法講座▶︎https://chronic-pain.peatix.com/

Buenas noches!terapeuta!(スペイン語でこんばんは療法士のみなさん)、週の真ん中水曜日の江原です。いつも当たり前だと思っていることを当然と思わずに考えることは、リハビリでも記事を書くことにおいても実はとても難しい作業です。当たり前すぎて気づかないこともありますが、それが他の人にとってはのどから手が出るほど知りたかった情報だったりするのです。そんなことをふと考えました。

 

私やスタッフが毎日の臨床で当たり前にやっているDNSアプローチの運動療法(DNS-DK)。当院では全員が、まるで呼吸するかのように無意識に評価や自主トレに取り入れています(呼吸アプローチのDNSだけに)。しかし、あまりにも無意識にやっているので当院に見学に来た理学療法士や実習中の養成校の学生から時折発せられる、

 

「この運動で指をしっかり開かせるのは理由があるんですか?」

 

という質問でハッと我に返ることもあります。

図1 DNS背臥位3か月肢位 手関節撓屈背屈・手指開排・母指撓側外転位に構えます

DNSのフラッグシップな運動療法(私見)である、背臥位3か月肢位では手関節背屈、手指開排、母指撓側外転を強調しています。こんなに身体の末端を強調する運動療法もなかなかないと思いますが、一方で何に効果的なのかが確かに伝わりにくいです。このようなところが「DNSが臨床に取り入れにくい」というネガティヴな部分にも大いに影響していると思います。ということで基本に返りまして、本日はDNSにおける手・手指の構えの一つ母指機能について書きたいと思います。

本日のトピックス

姿勢や痛みに影響する筋システム

抗重力活動に対して後から成熟し発達してきた筋群

母指の機能から感じる上肢への波及

母指の機能から始まる関節の中心化と脊柱モーターコントロール

運動療法例

姿勢や痛みに影響する筋システム

図2 上位交差症候群

運動器疼痛の考え方の一つ上位交差症候群(図2)はご存知でしょうか?痛みがある方の前方頭位のような悪い姿勢を分析し、バランスが崩れた2つの筋システムが関与しているとしたヤンダアプローチでのコンセプトです。

 

頚部・肩・上肢の痛みを説明する身体機能的な症候群として、運動器の理学療法士には比較的認知されていると思います。2つの筋システムとは「硬くなりやすい筋群」と「弱くなりやすい筋群」のことです。図3をご覧ください。

図3 筋システム(ヤンダアプローチより引用)

硬くなりやすい緊張系筋群の筋名を見ていると、臨床的に圧痛や運動制限を形成する筋が多いなと感じます。一方相動系筋群は「ローカルマッスル」の代表格の筋が名を連ねています。

 

母指撓側外転を含む、「DNSアプローチでの手の構え」は主に「上肢帯の相動系筋システム」に含まれる筋の作用で構成されています。なぜこの筋群やこの構えを強調するのでしょうか?それにはDNSアプローチの体系化の背景に目を向ける必要があります。

抗重力活動に対して後から成熟し発達してきた筋群

DNSアプローチの一部は小児理学療法の一つボイタ法を元にしています。乳児の運動発達がこの運動療法の基本であります。運動発達は乳児各時期に備わっている運動反射(病的反射)を用いて、身体機能を抗重力位に必要なレベルに反射的に使わせることにより、随意的な運動能力を段階的に高めていきます。

 

前腕手指に関わる部分の運動発達を簡単にまとめると、「前腕尺側から撓側」へ「掌屈から背屈」へと運動の獲得が進みます。運動療法中に撓側・母指を意識的に利用することはより筋システムを系統的に促通する中で、発達段階において高度な機能を要求します。

 

なので運動の経過の中で前腕・肘などの上肢全体、肩関節・肩甲骨機能を無意識化で向上させることに繋がります。運動発達が進んだ成人に応用すると、「手関節背屈位で母指を意識的に外転位にする」ことで上肢全体から肩甲帯・脊柱への促通効果が波及すると理解しています。

母指の機能から感じる上肢への波及

言葉で覚えるより、実際に母指を利用したワークをして感じてみましょう。これは私が参加しなかった時のDNSアプローチワークショップで紹介されたそうです。

図4 母指と示指の対立(深爪すいません)

母指と示指の爪がねじれの位置ならないよう、図4のように一直線上に向き合えるように指尖と指尖をつけてください。これやってみるとわかる難しさがあります。私も何とか出来るのですが、まず指の自動運動で爪同士が向き合わせるのも大変です。

 

この時点で左手を使って構えるのが精いっぱいの方もいます。なんとか構えられた人は、自分の体の隅々に感覚を張り巡らせてください。指先の力ではなく肩甲骨や背骨あたりに筋の緊張を感じるのではないでしょうか?

 

母指の機能を最大に発揮させるには上肢全体の機能が必要であることを痛感します。このワークから手指を含めた相動系筋システムが上肢全体に連動することを示していると考えます。

 

余談ではありますが、手関節を撓屈背屈位・母指撓側外転位は言葉や感覚で説明するのが難しいので、10~40歳代くらいまでの患者さんには「かめはめ波の手の構え」と伝えたりしています。皆さんフッと鼻で笑います。

母指の機能から始まる関節の中心化と脊柱モーターコントロール

またDNSの反射性寝返りという運動療法では、横隔膜・腹斜筋・骨盤底筋を同時に促通しますが、その時に上肢は手関節背屈撓屈・手指外転開排にしておきます。この手関節手指の構えをするのにうまく力が入らなかったり、掌屈方向に戻ってしまうような方は寝返り運動もうまくできない場合が散見されます。

 

特にこれが腰痛が主訴の方であると、腰部以外の機能障害が腰部の不安定性に影響していることを示唆するのでこのような全身的な評価が有用になります。慢性疼痛ガイドラインでは脊柱安定化エクササイズは比較的エビデンスが高い運動療法として挙げられています。

 

しかし、単にガイドラインに書いてある方法をなぞるだけでは患者個々によって異なる運動パターンに対応できません。理学療法の身体機能評価をフル活用して見極め、根拠がある運動の工夫として反映することも重要です。

運動療法例

図5 diagonal extensionへの応用

最後に臨床編です。ここで度々出していますが、四つ這い運動への応用です。腰痛の運動療法というイメージが強いこの運動。当院では、腰痛だけでなく、肩関節痛や上肢しびれ、頚部痛や頭痛などの運動器関連疾患は当然のこと、介護保険領域の様々な疾患の廃用症候群にも応用しています。

 

評価と運動療法は表裏一体の格言がありますので、このように導入するとよいでしょう。

1.通常のdiagonal extensionを行います。多くの場合何も指示しないと、手指・母指は内転し運動すると思います。

2.母指撓側外転・手指開排を指示して同様にdiagonal extensionを行います。

 

2に調整すると、姿勢やバランスを崩したり、左右差が現れることがあります。むしろ、視診上良くない方へ変化することの方が多いです。母指を意識して支持する四つ這いにより相動系筋筋群が活性化すれば、diagonal exensionに横隔膜・腹斜筋・脊柱短関節筋を促通する効果が付加され一石二鳥です。

 

四つ這いだけでなく、同様に手指・手関節の構えをあらゆる運動療法に取り入れることで、全身の筋活動や姿勢への介入を行うことができます。他の例では肩のインナーマッスル強化に用いるカフエクササイズも、手指の構えも取り入れて工夫できる運動療法だと思います。

まとめ

DNSアプローチで大事にする手指の構えについて、筋システムからまとめました。手の構えの影響による脊柱機能評価は難しいですが、シンプルな運動療法から継続していくと症例ごとのポイントが見えてくると思います。それではまた来週!Adios!(スペイン語でさようなら)

この記事を書いた江原先生による慢性腰痛の講習会

慢性腰下肢痛のリハビリテーション

腰痛や坐骨神経痛などの下肢痛に対して理学療法を実施しても、あまり効果的ではないと感じ悩んだことはありませんか?痛み治療に特化したペインクリニックでは、腰下肢痛に対しては医師と理学療法士が分業して治療しています。理学療法士は主に診断に基づき、診断の補助やトリアージを行いますが、実はこの過程が非常に重要なのです。

トリアージを適切に行うことで、臨床での悩みはかなり改善すると思います。知識と経験を要する領域ですが、評価フローを使えば確実性は高まるのではないかと考えています。そこで今回は、【慢性腰下肢痛のためのTo Doリストを作りました】。侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛や認知情動面の影響をトリアージして、慢性腰下肢痛にメカニズムベースのアプローチを実践していきましょう。

講師プロフィール

江原 弘之先生
運動器認定理学療法士・いたみ専門医療者・公認心理師
西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科 部長
NPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワーク 代表理事

プログラム

・慢性腰下肢痛で知っておいた方がいい「痛み」の知識
・痛みの構造化問診票・9つの質問
・痛みの評価フローとトリアージ
・理学療法評価の活用方法
・理学療法の守備範囲とチーム医療
・症例提示

◆概要
【日時】 3月24日(金) 21:00~23:00
【参加費】3,300円
*POST有料会員は無料で受講可能です。
有料会員はこちらをご確認ください。
【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。

申込▶︎https://chronic-pain.peatix.com/

参考書籍

・動的神経筋安定化・発達運動学的アプローチ Aコーステキスト

ヤンダアプローチ

 

【目次】

第1回:私が経験した慢性疼痛に対する1つの大きな勘違い

第2回:慢性疼痛の種類と痛みの評価~どこがなんで痛いのか~

第3回:一次性慢性疼痛をコントロールせよ①~慢性骨盤内疼痛症例~

第4回:骨盤内の痛みは3ステップで見極める~一次性慢性疼痛をコントロールせよ②~

第5回:脊柱モーターコントロール評価と会陰部痛~一次性慢性疼痛③~

第6回:両肩・両上肢痛はPMRを見逃すな

第7回:今僕らが「ママさんの腱鞘炎」にできること

第8回:「毎回VASで痛み診るのがめんどい」と感じた理学療法士が読むコラム

第9回:痛み有訴率オッズ比約2.6!心的状況「アレキシサイミア」とは

第10回:慢性非特異的腰痛へのOberテスト活用法

第11回:私が考える『認知行動療法的運動器理学療法』

第12回:慢性疼痛リハビリに向き合うただ1つの資質

第13回:変形性膝関節症の多様な痛みを把握しよう

第14回:『偏頭痛』ウラ話~頭痛に対する理学療法士の正しい作法シリーズ①~

第15回:歩行観察なんか大嫌い~批評と今後の展望~

第16回:臨床での『想定外』がリハビリにもたらす事象~ホリエモンから脳科学まで~

第17回:この秋に行きたい痛み関連学会4選

第18回:緊張型頭痛と運動器理学療法~頭痛に対する理学療法士の正しい作法シリーズ②~

第19回:痛みのfear-avoidance modelを臨床でちゃんと使いこなすコツ

第20回:症例報告・腹部痛3例のリハビリテーション経過

第21回:児童虐待と慢性疼痛

第22回:母指機能が痛みの運動療法にもたらす効果

【DNSアプローチ】母指機能が痛みの運動療法にもたらす効果

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