いざ東京パラリンピックへ【東京スポーツ・レクリエーション専門学校|小泉圭介先生】

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PTとしての責任 ロンドンオリンピックの経験

 先生のお話を伺っていると、色々な人たちに導かれて来たようですが、それは意識的にそうしてきたのですか? 

小泉先生:意識的かどうかはわかりませんが、一つ意識していたこととすると、“準備を常にしている”ことだと思います。これまで様々な機会で選んでもらいチャンスをいただいてきましたが、私も最初からファーストチョイスではないのです。

 

何人かに声をかけ、その後に私に声がかかっています。その声がかかった時にいつでも「はい行けます」といえる準備をして、仕事の結果から「いいじゃん」と、次に声をかけてもらえるように準備をしてきました。これは今も変わっていません。

 

 スポーツの世界はそのようなつながりの社会がより強く感じますね。

小泉先生:今では逆に、誰かを仕事に呼ぶという立場も多くなってきたのですが、それはそれで難しいと感じます。半分うまくいけばいいほうでしょうか。正直ハズレもあります。私自身の経験としては、競技と環境に上手くはまったほうが多いかと思いますが、それでも勝率100%ではないですね。上手くいかなかったことも沢山あります。

 

各競技によってそれぞれ文化もあります。基本的に、水泳や陸上はマッサージがベースにあります。そもそも、そういう競技なので否定するつもりもありません。となると、自分よりもマッサージがうまい専門家は大勢います。

 

つまり私の仕事は、マッサージだけではないわけです。その中で私の生きる道は、“評価”と考えました。状態や状況を評価して最善策を考え、見解を出す。つまり、マネージメント力が、自分の強みだと思っています。これはアメフト経験によって培われた能力ですね。

 

 スポーツ理学療法分野に興味がある方は、ただスポーツ理学療法に興味がありますとだけ言いますが、この辺りを整理しておかないとですね。

小泉先生:そうですね。私もよく「スポーツの仕事をしたいです」と相談されますが、「スポーツの何をやりたいの?」と返します。治療的な事をしたいのか、トレーニング的な事をしたいのか、フィールドに出て何かをしたいのか。スポーツ分野とひとくくりにしていても、その仕事は非常に多岐にわたります。その中で、「あなたは何をやりたいの」という部分がもう一つ大事な部分ですね。

 

私も最初の頃は、ガチガチの治療家を目指していて、テクニカルな部分に憧れていました。 徒手療法を勉強していましたが、第一任者の人達がすでにいますから、勉強すればするほど、「自分には他に何か強みはないか」と考えだしました。

 

これまで、現場でのトレーナーとして10年ほど仕事してきましたが、今では逆に治療的アプローチのリスクを感じています。つまり、選手の依存を生むということです。臨床では存分に治療技術を駆使することが必要だと思います。

 

しかし、選手がフィールドに出て、「PTがいないと戦えません」という状況を作ってしまうのは、PTの責任です。正直、現場からすると、そういう人材はいりません。逆に、競技力を落とすことになりかねませんから。もちろん、いざという時には現場でもテクニカルなアプローチをやりますが、選手の成長をうながすために、わざと突き放すという方法を選択することもあるわけです。

 

リオオリンピックの直前まで、競泳代表チームでトレーナーチームのマネージメントの仕事をしつつ、一番近くで選手のコンディショニングも行う立場にありました。

 

そこでは、まずチームが勝つために何が必要なのか、それを“評価”することが重要でした。チームの状態をみて、問題点を洗い出し、何が勝つための要素なのか、その穴をどう埋めるのか、いらないものを省き、整理をして、最適な「戦略」を考え出していく必要があります。そうでなければ戦略そのものが正しいかどうか判りませんから。

 

ロンドンオリンピックでは、特に「ケガをなくす」ということが重要な戦略でした。競技力を低下させないで、ケガを減らし、結果的にパフォーマンスをあげる、という点にトライしたのが我々の仕事でした。結果、戦後最大のメダル数を獲得することができたので、ある程度仕事としては成功だったかと思います。金メダルが獲れなかったことが心残りですが・・・。

2012ロンドンオリンピックにて

医学と選手の狭間で

 来年はいよいよ東京オリンピックですが、先生も変わらず競泳担当として東京オリンピックを戦うのですか?

小泉先生:いえ、リオからは代表トレーナーとしてはパラリンピック(以下パラ)に移りました。ここでもまずは「評価」から始めました。リオ前に、パラの競泳代表選手の現状を把握するため色々測定してみたんですが、筋力が圧倒的に足りていないことがわかりました。

 

例えば、上肢の障害をもった選手が、30cmの台から片足で立てないのです。つまり、障害を持っているという理由で、できるトレーニングしかしていなかったということです。幸い私は、理学療法士(以下PT)ですので、いやいや関係ないだろうと。

 

もっとガンガンにトレーニングして、できないことをできるようにしていこう、ということでトレーニングコーチのような役割が始まりました。

 

ATの本業とは違うと言われるかもしれませんが、障害を考慮して、トレーニングメニューを組むことができる点において、むしろ我々PTの腕の見せ所です。2016年からトレーニングは継続していて、パラ競泳にもトレーニングが文化として根付いてきました。いよいよ4年間の成果が試される時が近づいてきましたね。

 

 そのあたりで難しいと感じるのは、選手の感覚と我々が考える医学的な部分で、必ずしも一致するわけではないと思います。トップ選手であればなおさらだと思いますが、この場合どのように対応されるのでしょうか?

小泉先生:その不一致を無くすためには、継続して選手を見ているということが大事です。良い時も悪い時も知っているということが大事です。絶対に、一度みただけでわかるものではありません。

 

ある程度の期間、寝食を共にして、常に会話し、今はどうすべきかを話し合うことしか道はないと思います。トップレベルになればなるほど、普通ではなくなります。この点は、よく学生や若手にも「つじつまが合わないことを流すな」と伝えます。

 

「普通こうなるはずなのに、なぜか違う。なぜだろう」と、考え続けることです。必ずそこに何かがあります。

 

 となると、PTもトップ選手と同等は無理ですが、「動ける」ことが重要になりますね。

小泉先生:そうなのです。今、東京スポーツ・レクリエーション専門学校ではアスレチックトレーナー(以下AT)を勉強する学生に教鞭をとっています。その半数は、現職のPTですが、みな一様に動けません。

 

スポーツといっても、多種多様な動きがあり、苦手な分野もありますが、イメージできなければなりません。そのイメージを作るためには、自分が動いて、体感する経験が必要です。ですから、授業では体を動かすことも多いです。

 

PTとしての知識や経験を基礎としたうえで、体感してイメージ力を鍛えることが重要です。

 

フィールドと病院との間には、溝があります。トレーナーとして活動するにはその溝を埋める作業が必要で、その溝が埋まってくると、いよいよ現場に出ることができます。逆に言うと、このギャップを埋めることができなければ、現場に出ることはできません。

 

この辺りは、PTの学校で教えられるものではないので、卒後教育として学びなおす必要があると思っています。

 

 最近では特にスポーツに興味があるPTが減ってきたように思います。

小泉先生:最初のきっかけとしては未だに多いですが、途中であきらめる人が増えましたね。昔のチョイスは大半が競技現場で活躍するATでしたが、今ではスタジオで活動するヨガやピラティスなどという仕事の選択肢もあります。

 

つまり、選択肢が増えたことで分散されているという実態もあると思います。ただ私は古いPT教育を受けた人間ですから、その根底には必ず医療というベースを持つべきだと思っています。まず病院など施設で働いて、それからセカンドキャリアとしてスポーツの活動を広げる方が長い目で見ると良いのではないかなぁと思います。

 

 最後になるのですが、これまでの話の流れを完全に無視してお聞きしたいことがありました。なぜ小泉先生といえば「体幹」というイメージがついたのでしょうか?

小泉先生:おっしゃる通りですよね。体幹おじさん的なイメージをもたれていますね。それも、先ほど話した、自分の肩の問題にさかのぼるのですが、自分が肩をケガしていて、アメフト現役中3回ほど肩を脱臼したので、元々の興味は肩にありました。

 

しかし、結局は肩だけ治してもダメだなと感じたんですね。局所が治ったとしても、そもそものプレイの質自体が低ければ、またケガをすると、身をもって体感しました。

 

上手く身体を使うためには、パーツだけではなく全体のパフォーマンスが大切で、四肢末端の作業効率を上げるためにも体幹が機能していることが重要です。ただし、体幹が機能するとはどういうことなのか?ただ固めればよいという話ではありません。四肢と体幹が連動することこそが重要です。

 

これは、リハビリを受ける患者さんにも、トップアスリートにも同じことが言えると思うんですね。私はJISSに入るまでトップアスリートを診た経験はほとんどありませんでしたし、ましてや水泳など全く無知でした。正直、最初は競泳選手に何をやったらいいのかわかりませんでしたが、しかし経験がなくても対応できた理由が、そこにあると思います。

 

それまでの運動器疾患や中枢性疾患の患者さんに対しての臨床経験で、四肢末端に無駄な力が入っている方々に対して体幹の評価を行い、体幹と四肢の連動に対してアプローチしていた経験がありました。

 

そして、それはトップアスリートといえども同じで、やはり不具合のある選手には四肢末端と体幹の連動に問題がある。最初のころJISSで会ったトップアスリート達に対しても体幹の評価を行い、病院で患者さんに行っていたような地味な腹筋をさせると悶絶しました。それで「これか」と。

 

選手たちがケガをしたり、パフォーマンスが上がらないのは「これ」、つまり体幹と四肢末端の連動能力の欠如だったんだと思い、それから地味なトレーニングメニューを増やしたところ、障害の予防やパフォーマンス向上に手ごたえを感じました。おそらく、この一連の出来事と、時代が私の「体幹」というイメージを作ったのだと思います。

 

自分のキャリアを振り返っても、いきなりスポーツ専門の医療機関で働かなくてよかったと思っていますね。一般病院と老人病院の経験で、視野が広がり、今の「小泉メソッド」の基礎になっているのですから。局所の怪我だけ診てるPTとの違いは、ここら辺にあると自分では考えてます。

 

映画、アメフト、病院と色々経験してきましたが、すべてが僕の強みです。

 

 最後に変な質問失礼いたしました。本日は誠にありがとうございます。

小泉先生:いえ、こちらこそありがとうございました。

 

小泉先生のプロフィール

理学療法士(認定スポーツ理学療法士)
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツトレーナー

<トレーナー実績>
・2006年 水球ワールドリーグ日本代表チーム
・2012年 ロンドンオリンピック日本選手団
・2013年 水泳世界選手権バルセロナ大会(競泳)
・2015年 水泳世界選手権カザン大会(競泳)
・2016年 リオデジャネイロパラリンピック日本選手団(競泳)
・2019年 パラ水泳世界選手権ロンドン大会

 

小泉先生が講師を務めるアスレチックトレーナー養成校

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