Contents
1.大腿筋膜張筋はこんな筋肉
2.大腿筋膜張筋の筋線維
3.大腿筋膜張筋の機能まとめ
4.大腿筋膜張筋の臨床的意義
5.大腿筋膜張筋の評価
6.大腿筋膜張筋のストレッチ
7.大腿筋膜張筋とTHAー外科的アプローチー
8参考文献
1,大腿筋膜張筋はこんな筋肉
まずは基本的な知識(起始・停止、支配神経、栄養血管、髄節、作用)から学んでいきましょう。
大腿筋膜張筋は、長さ約15cmの2層の筋膜層の間に挟まれた筋状筋で、大臀筋、小臀筋と中臀筋の一部を覆っています。前上腸骨棘(ASIS)から大臀筋と結合して腸脛骨管を形成し、脛骨の外側突起に停止します。
腸骨帯は幅5cmの帯状で、上には2層、下には単管と呼ばれる帯状のものに分かれています。表層部は腸骨稜の結節に、深層部は股関節の関節包に付着しています。
支配髄節は腰部神経4、5、第一仙骨神経(L4-S1)の根を起点とした上臀神経によって支配されています。
2,大腿筋膜張筋の筋線維
前内側線維(AM)1)
この線維の主な役割は、歩行のスイング段階での股関節屈曲などの開放運動連鎖運動で股関節を屈曲させることである。これは、筋電図と電気刺激実験を介して確認されています1)。踵接地時には反応が見られないことから、立脚相で股関節を伸展させるためには筋肉が不活性である必要があることを示唆しています。筋はランニングの加速時に最も活性化しますが、その主な役割は強力な股関節屈曲器としての役割であることを示唆しています。
純粋なOKC(=open kinetic chain)では、AM線維は股関節の屈曲運動と外転運動で最も活性化されます。しかし、外転運動中に股関節が外旋している場合には、AM線維は機能しません。
後外側線維(PL)
この線維は、歩行の立脚期に最も活性化されます。この筋が股関節の外転の役割を活性化することで、片足立ちでの股関節の安定化に大きく貢献していることを示唆しています。大臀筋上部もこの歩行期に活動している。PLの頭が大臀筋から来ている腱を結合する線維をもっていることを考えると、これはPLの線維と大臀筋は、立脚期で骨盤の安定性を制御するために働くことを示唆しています2)。
純粋なOKC(=open kinetic chain)では、PL線維はすべての股関節内旋運動と外転運動で活動しています。
3,大腿筋膜張筋の機能まとめ4,5,6)
・大腿筋膜張筋は股関節内旋において力を発揮し、股関節外転が弱いとされている。
・大臀筋とともに、寛骨臼で大腿骨の頭を保持して股関節を安定させます。
・腸脛靭帯、大臀筋とともに、伸展時の膝の安定性と部分屈曲時の膝の安定性に寄与しています。
4,大腿筋膜張筋の臨床的意義
スナッピングヒップ症候群(=External snapping hip syndrome)
あまり聞きなれない名前かもしれませんが、弾発股とも呼ばれます。主に、バレリーナやダンサーに見られる症状で、読んで字のごとく引っかかる音が鳴ります。基本的には4型あり、それぞれ前方型、外側型、関節内型、後方型とあります。
前方型は、内側型とも呼ばれますが大腿直筋や腸骨筋が主な原因となります。後方型は、ハムストリングス腱が関与し、関節内型は股関節唇損傷や軟骨損傷が起因となります。
そして外側型が、大腿筋膜張筋の緊張によって起こった、腸脛靭帯によって弾発股となります。これに合わせて、鼠蹊部痛症候群を起こすこともあります。最も一般的な病因は、腸脛靭帯が大転子の上を移動するためです。これは、腸脛靭帯膜の後部帯が厚くなるためと考えられています3)
5,大腿筋膜張筋の評価
オーバーテスト(=Ober's Test)
言わずと知れた大腿筋膜張筋、腸脛靭帯の異常を検出するテストとして行われます。手順は以下の通りです。
1,下図のように検査側下肢を上に向け側臥となり行います。
2,検者は下肢を下から支えます。
3,検査側下肢の股関節を伸展、膝関節屈曲し、落下させます。
4,この時、異常がなければ股関節は内転しながら落下します。
ちなみに、修正版オーバーテストというものもあり、膝関節を伸展したまま行う方法もあります。膝関節の屈曲伸展の有無により、腸脛靭帯の関与度を測ることが出来ます。
6,大腿筋膜張筋のストレッチ
ここでは、基本的なストレッチ方法でセルフエクササイズとして行えるものをピックアップしました。大腿筋膜張筋の作用は、股関節の屈曲、外転、内旋ですからこの反対の姿勢になればいいわけです。それでは、手順を説明しましょう。
1,伸ばす側の肘を立てて横になります。
2,対側の下肢は伸ばす下肢を乗り越えて、足の裏を床につきます。
3,この姿勢から、骨盤を前に倒そうとするとストレッチがかかります。
4,さらに伸ばしたい場合は、肘立ちから手を床について起き上がると、よりストレッチされます。
*この時、骨盤が後ろに倒れないようにしましょう。倒れるようなら手のついている位置を、変えてみましょう。
7,大腿筋膜張筋とTHAー外科的アプローチー
我々、療法士が大腿筋膜張筋を学ぶ上で避けて通れないのが、THAの術創の理解です。THAにはいくつかの手術手技があり、医師によっても異なりますし、患者さんの状態によっても異なります。
この時、侵入方法によって切開される筋肉が異なりますので、事前に知っておく必要があります。また、我々療法士が一般的に理解している脱臼姿位として「屈曲、内転、内旋」というものがありますが、実は術式によっても異なります。以下、侵入方法の違いによる脱臼姿位をまとめます。
THA脱臼姿位
伸展・内転・外旋:DAA、ALA(ALS)
屈曲・内転・外旋:DLA
屈曲、内転、内旋:PLA、PA
7,参考文献
2)https://www.jospt.org/doi/abs/10.2519/jospt.2013.4116
3)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499870/
4)Hislop HJ, Montgomery J. Daniels and Worthingham's Muscle Testing: Techniques of Manual Examination. 8th ed. Missouri: Saunders Elsevier, 2007; p201-204
5)Moore KL, Dalley AF, Agur AM. Clinically oriented anatomy. 7th ed. Baltimore, MD: Lippincott Williams & Wilkins, 2014
6)Drake RL, Vogl W, Mitchell AW, Gray H. Gray's Anatomy for Students 2nd ed. Philadelphia : Churchill Livingstone/Elsevier, 2010