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復帰か、待機か──スポーツ復帰判断の科学と現実のギャップ

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プロローグ:ある決断の重み

2023年、欧州のプロサッカークラブに所属する22歳のMFは、重大な決断を迫られていました。前十字靭帯(ACL)再建術から6か月。チームドクターは「医学的には問題ない」と告げ、理学療法士は「もう少し待つべき」と慎重な姿勢を崩しませんでした。そしてチームは、残り試合で彼の復帰を切望していました。

結局、彼は復帰を選びました。だが3週間後、同じ膝を再び痛めました。完全断裂です。キャリアの岐路に立たされることになりました。

こうした悲劇は珍しくありません。エリート選手のおよそ2割、若年層では3割が復帰後に再負傷すると報告されている背景には、「科学的根拠に基づく判断」と「現場の現実」のギャップが存在します。

現場の実態:時間基準が支配する判断

Chettyら(2025, Eur J Sport Sci)の国際調査では、医師・理学療法士・リハ専門職ら12,688名を対象に復帰判断の実態が分析されています。医師の82.9%が「治癒時間」を最重視し、特にACLでは「術後6か月」を復帰目安とする傾向が55~92%に及ぶと報告されています。

一方で、理学療法士の72%は機能評価を、67%は筋力測定を重視しており、より包括的な視点を持つ傾向が示されています。しかし、van Melickら(2016)などの研究では、推奨基準が現場で十分に運用されていない実情も指摘されています。知識はあっても、評価やリソース、組織文化の壁で実装に至らない課題があるからです。

科学が示す明確な答え:6基準とリスク低減

科学的研究は、時間だけに依存した判断の危うさを示しています。Grindemら(2016)は、下記の6基準をすべて達成して復帰した群では、再損傷リスクが84%低下したと報告しました。Beischerら(2020)は9か月未満の復帰で新規損傷が約7倍に上ることを示し、Nagelli & Hewett(2017)は2年待機の仮説的提案を行いました。時間は必要条件であっても、十分条件ではありません。機能・心理・負荷を含む複合的なクリテリアで判断することが重要です。

【図表1】ACL再建後の“6基準”チェックリスト(臨床での使いどころ)

復帰か、待機か──スポーツ復帰判断の科学と現実のギャップ

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