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なぜ「電子カルテ」は使いにくいのか?:41の研究から紐解く病院情報システムのユーザビリティ評価と改善の鍵

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臨床現場で働く私たちにとって、病院情報システム(HIS:Hospital Information Systems)や電子カルテの「使いにくさ」は、単なるストレスの要因にとどまらず、業務効率の低下や医療ミスの温床となり得る重大な課題です。

日本では、病院の約7割強が電子カルテ(EMR)を導入し、そのうち外部ネットワークと接続している施設は約6割弱にとどまると報告されています。主な懸念は情報漏えいです。一方、デジタル庁の「医療DXロードマップ」では、標準型電子カルテ(クラウド型)の要件定義〜開発〜試行導入を進め、2030年までに「ほぼ全ての医療機関」での普及を目指すとされています。

今回は、2025年に公開された最新のシステマティックレビュー『病院情報システムのユーザビリティ評価手法:システマティックレビュー』を基に、世界中の病院でどのような評価が行われ、何が問題視されているのかを深掘りします。特に、リハビリテーションや看護の現場におけるシステム導入の際に、私たちが知っておくべき「評価の視点」を解説します。

目次

1. はじめに:システム導入の「落とし穴」

近年、医療DXの推進により多くのシステムが導入されていますが、現場からは「クリック数が多い」「画面が見づらい」「直感的でない」といった声が後を絶ちません。

本記事で取り上げる研究は、2000年から2024年初頭までの間に発表された41件のユーザビリティ評価に関する研究を統合・分析したものです。

このレビューの結論を一言で言えば、「多くのシステムは『満足度』や『効率』を測っているが、『習熟のしやすさ(学習容易性)』や『柔軟性』の評価が決定的に不足している」という点にあります。これは、スタッフの入れ替わりが激しい日本の医療現場において致命的な欠陥となり得ます。

2. 世界のトレンド:どうやって「使いやすさ」を測っているのか

研究によると、HISの評価手法は主に以下の2つに大別され、それぞれ約34%の研究で採用されていました。

① ユーザーテスト(UT: User Testing)

実際のユーザー(医師、看護師、セラピストなど)にシステムを操作してもらい、タスクの完了率や時間を測定する方法です。

  • 特徴: 実際の業務フローにおける「リアルなつまずき」を発見できる。
  • 適用: 特にCPOE(処方オーダリングシステム)やADT(入退院・転送システム)など、時間的制約が厳しくミスが許されない場面で多用されます。

② ヒューリスティック評価(HE: Heuristic Evaluation)

ユーザビリティの専門家が、ニールセンの「10のヒューリスティクス」などの既定の原則に基づいてシステムを評価する方法です。

  • 特徴: 開発の初期段階で、デザイン上の欠陥を低コストで洗い出せる。
  • 適用: 放射線情報システム(RIS)やPACS(画像保存通信システム)など、インターフェースが比較的静的なシステムで好まれます。

Editor's View!

興味深いのは、看護情報システム(NIS)の評価では、この両者を組み合わせる「混合手法」が最も効果的であると示唆されている点です。看護やリハビリの業務は定型化しにくい複雑なフローを含むため、単一の評価では不十分なのです。

3. 部門別:システムごとの評価ポイントと課題

本レビューでは、各サブシステムにおける評価の傾向が分析されています。

なぜ「電子カルテ」は使いにくいのか?:41の研究から紐解く病院情報システムのユーザビリティ評価と改善の鍵

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