症状ばかりを追いかけることで慢性化する
ー CRPSに関して、明日の臨床からすぐに取りかかれる、評価等はございますか?
壬生先生:まず診断における判定基準はBudapest Criteriaや厚生労働省が出している本邦のCRPS判定基準があり、自覚症状と他覚症状の相互から評価しますが、項目を見てもらうとわかるように、評価はいたって簡単なものです。
セラピストでも所見を取ることはできるので、診療の中で「この患者さんはCRPSかも」と感じた時は評価して医師に報告すると良いでしょう。ただ診断に関しては、症状が多岐にわたりすぎていて、厳密に診断されるべきだと思いながらも、それができない限界も感じています。
ただその多くの症状に、いくつかの関連性を見出すことができれば、またひとつCRPSの理解は進むのではないかと思います。
セラピストの評価としては、何か特別な評価というよりは、身体機能とADLをきっちり評価することが重要だと思っています。痛みの持続によって生じている機能障害やADL障害を改善させることが私たちの仕事なので。
慢性痛患者、特にCRPS患者の多くに見られる身体知覚異常を評価するツールとしては、the Bath CRPS Body Perception Disturbance Scaleがあります。
ー 限界という点で、どうにもこうにも、痛みが変わらない、症状が固定されてしまった、という状況もあると思いますが、そういった方々のゴールはどこにセッティングされるのでしょうか?
壬生先生:私のところに来る患者さんの中には、症状が固定されてしまった患者さんも多くいらっしゃいます。もちろん、訴える症状をなんとか軽減したい、という思いは常にあるものの、そうはいかないのがCRPSだったりします。
となった時に、第二の選択肢として、今の症状がそのままあったとして、「今よりももっと良く暮らすためには何ができるのか?」ということを考えることです。このとき逆に、症状ばかりを追いすぎて、それがきっかけで慢性化してしまった経験もあります。
理学療法士としては辛い選択かもしれませんが、ある意味で“症状は良くならない”として何が提案できるか、という点がこの分野の理学療法では求められると思います。
ー 前向きな諦めですね。またひとつ疑問なのですが、ペインクリニックでCRPSを診る場合、医師の大きな役割とはなんでしょうか?
壬生先生:多くは、リハ前の疼痛コントロールですね。ブロック注射を行って、痛みを軽減した後で、リハビリをしないと、痛がってリハビリにならないことも多くあります。
中には、自分でも触るのが嫌な患者さんも多く、そういった患者さんは、いろいろな方法を使って保護していたりします。侵害刺激の少ない布で、覆ったりとかですね。そうなってくると徐々に、痛い場所を“無視”しはじめます。
そして、身体知覚が歪んできてしまい、痛みや機能の改善難しくなるのではと考えています。ただ、最近報告された論文では急性期からでも、無視をしてしまう人もいるという報告もあるので、一概には言えません (Wittayer et al., 2018)。
ー そうなりますと、CRPSに対するプロトコルの作成は非常に難しいと感じるのですが、一応はあるのですか?
壬生先生:一応、研究ベースのものがあります。結局は“不動”がいちばんの問題ですので、運動療法がメインになるのですが、動かすと痛い患者さんをいかに動かすか、という点が理学療法士には求められます。
触ると痛い患者さん対して、どう動かすか、など色々な障壁をかいくぐりながら、不動を抑制していきます。
続くー。
【目次】
第一回:西上先生に救われた過去
第二回:疾病利得
第三回:痛みは良くならないとしても
最終回:慢性疼痛を阻止せよ
壬生先生オススメ書籍
壬生 彰先生のプロフィール
学歴
2007 年 3 月 広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科 卒業
2013 年 3 月 神戸大学大学院保健学研究科博士前期課程終了 修士(保健学)
2018 年 3 月 大阪大学大学院医学系研究科博士後期課程 単位修得退学
職歴
2007 年 4 月 社会福祉法人恩賜財団済生会兵庫県病院リハビリテーション科(2012年6月まで)
2012 年 7 月 医療法人曉会田辺整形外科上本町クリニックリハビリテーション科(現在に至る)
2015 年 4 月 大阪大学医学部附属病院麻酔科ペインクリニック(現在に至る)
2017 年 4 月 甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科 助教(現在に至る)
受賞歴
2014 年 6 月 第36回日本疼痛学会 優秀演題
その他(社会活動や著書など)
2016 年 9 月 日本ペインリハビリテーション学会 代議員(現在に至る)