誤嚥性肺炎や不慮の窒息といった食事関連の事故で、毎年約4万人が死亡している。
医療・介護現場では、言語聴覚士や医師、看護師が口から食べられるかどうかを判断しているわけだが、これらの職種はどこも人員不足なのが現状だ。
筑波大学発スタートアップ、PLIMES株式会社が開発したウェアラブルデバイス「GOKURI」は、対象者の首に装着したネックバンドで嚥下音と姿勢を測定し、適切なリスク管理・処置に役立てることができる。
今年3月には、CYBERDYNE株式会社よりシードラウンドで1.5億円の資金調達を完了。今後、カスタマーサクセスの実現と市場展開を加速させていくフェーズに入る。
嚥下×Techが描く今後の世界観やサービスの詳細をPLIMES株式会社CCOの仁田坂 淳史さんにお話を伺った。
優秀な医師の耳を再現した技術
ー 嚥下形「GOKURI」について、どんなものなのか教えてください。
仁田坂 GOKURIは、頸部に装着したデバイスで、水や唾液、食事などの嚥下が正常かどうかを音で判断し、誤嚥していないかを光やスマホアプリで知らせます。センサーの収集した嚥下音などのバイタルデータは、スマートフォンを介してクラウド上のデータベースに登録・管理されます。
頸部聴診法は既に臨床現場で行われていますが、属人的であり技術伝承していかないものです。
GOKURIは「優秀な医師の耳を再現した技術」です。人工知能を使って標準化し、それを広めていって嚥下を測るという文化を定着したいと考えています。
誤嚥の有無を97.3%以上の精度で測定することができていますが、医療機器認定を取得することを目指しているので、将来的には99.99%まで上げていきたいと思っています。
ー どのように解析しているのでしょうか?
仁田坂 嚥下音は喉頭蓋の開く音、食塊が食道を通過する音、喉頭蓋が閉じる音から構成されますが、それらを識別したり周波数などを見ています。
ただ、Deep learningでの解析であり、機械学習ではないので「このパラメーターがこうだったから誤嚥している」という話ではないです。
医師や看護師、言語聴覚士が、経験上で”なんとなく”怪しいと判断していることを、Deep learningで勝手に学習して精査しています。
ー 首の角度も測定しているんですよね。
仁田坂 ジャイロセンサーを入れて、主に前後傾の角度をみています。円背している方や、途中で姿勢が崩れてしまう方もいますので、頸部姿勢からも誤嚥が防げると考え、測定しています。
AIがSTの仕事を奪う?
ー 嚥下をみれる専門職は病院にも地域にも圧倒的に足りていないので、テクノロジーで代替できる部分はどんどん進んだ方がいいと個人的には思っています。
仁田坂 現在はパートナー契約というかたちで限定的に提供していて、契約いただいている病院・施設のみに利用している段階です。今回の調達ラウンドで、量産する一歩手前まで、感覚的には1000台くらいを展開していく予定です。
仰る通り、どの疾病期においても使えることは分かっていたのですが、まずはどこをターゲットにすれば刺さるビジネスモデルなのか、ここ2年くらいマーケティングしてきて、「急性期病院・回復期での食事モニタリング」としてニーズが高いことか分かりました。
病院側としては、患者さんをなるべく早く退院させてあげたいと思いがありますが、専門職は多忙ですので、食事中に1人の患者さんにつきっきりになることはできません。
GOKURIを利用すれば食事中の嚥下の状態をモニタリングすることができますので、そこに人員を削く必要が無くなります。
人工知能というと「仕事を奪う」というイメージを持っている人もいますが、そういうことでは全然ありません。
脳卒中患者さんは、嚥下以外にも失語症をはじめ言語聴覚士さんが関わる必要とする問題を多く抱えていることが多いと思います。
食事指導に割いていた時間を少し楽にしてあげることで、より本質的なところに注力することができるのではないかと考えています。
一家に一台、誤嚥計
ー 誤嚥性肺炎で亡くなる人は非常に多いですし、ビジネスとしても非常に可能性を感じますね。
仁田坂 将来的には、誤嚥性肺炎の解決策として確立して、世界に輸出していきたいと考えています。
Appleは、心筋梗塞にフォーカスして技術開発をしています(ex. Apple Watch)が、それは現在アメリカが心臓病で亡くなる方が多いからです。日本は世界でトップの高齢化先進国ですから、これだけ誤嚥性肺炎で亡くなる方が多いですが、世界ではこれから増えてくる疾病です。
未だに確立した治療法が見つかっていない疾病ですので、そこに我々は挑んでいます。
GOKURIで嚥下のデータを蓄積していただくことで、これからもっと色んなことが分かるようになってきます。
どういう指導を行えば誤嚥しないのか、どうすれば嚥下力が鍛えられるのかといった、指導に直結する部分をセラピストの皆さんとも一緒にみつけていきたいと思っています。
目指しているのは、各家庭に一台づつ誤嚥計が置いてある世界です。温度計は今から400年前に、血圧計は100年前に発明されました。
今まで嚥下計というのはありませんでしたが、嚥下計がご家庭にも置いてあることで、高齢者自身自身で誤嚥性肺炎を予防し、より長く口から食べることのできる未来を作っていきたいと思っています。
・GOKURI - PLIMESホームページ
▶︎ https://www.plimes.com/gokuri
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