厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(座長:駒村康平・慶應義塾大学教授)は16日、第5回会合を開催し、これまでの議論を踏まえた検討の方向性について議論した。高齢者や家族が適切な施設選択を行うための情報提供システムの充実が最重要課題として浮上し、多くの委員から現行制度の問題点と改善策が提案された。
情報公表システム「スカスカ」の実態明らかに
一般社団法人高齢者住宅協会の宮本俊介委員は、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の情報提供システムと比較して有料老人ホームの現状を厳しく指摘した。「サ高住は細かいところまで情報が見られるが、有料老人ホームの介護サービス情報公表システムは登録制度がないからかスカスカで、情報を得ることができない」と述べ、システムへの情報登録促進に向けた予算措置の必要性を訴えた。
大阪府の木本和伸介護支援課長は、自治体が独自様式の重要事項説明書を使用している場合、国の登録様式と整合せず「システムにそのまま登録できない状況」があることを説明した。同課長によると、大阪府では現在、掲載している事業所が「ない状況」にあるという。
国土交通省の田中規倫課長は「介護者が見やすく、求められている情報を整理した上で、素早く検索できるシステム」の重要性を強調し、住宅関連情報と介護関連情報を区別して検索可能な仕組みの必要性を訴えた。
常時情報公開でモニタリング機能強化
民間介護事業推進委員会の久留米義武参考人は、情報公開の意義について「常時公表されていることで、その後のサービス利用開始後も常時そのサービスが提供されているかを確認するために重要」と指摘。利用者自身が確認できる仕組みが「常に情報の正確性だけでなく、常時公表されていることのモニタリングに資する」と述べた。
独立行政法人国民生活センターの保木口知子理事は、契約時のトラブル防止策として「現状回復すべき事項やその費用、解約時の返金額の計算式、返金に要する日数」などの明文化を求めた。
登録制導入や処分基準策定も議論
情報提供以外では、横浜市の北條雅之課長が「登録制など許認可制度の導入について検討する必要がある」と表明。昨年度、市内で入居者を残したまま突然閉鎖された事例を踏まえ、事業者への義務強化を求めた。
日本社会事業大学の井上由起子教授は、新たな規制導入時の基準設定について「従うべき基準と参酌基準の使い分け」や「既存施設への経過措置」の検討が必要とした。
紹介事業適正化へ認定制度創設
入居者紹介事業の適正化については、令和8年度概算要求で28百万円を計上し、公益社団法人等による優良事業者認定制度の創設に向けた調査研究を実施する。
東洋大学の高野龍昭教授は、紹介手数料について「要介護度が重い人ほど、見取りの時期が近い人ほど紹介料が高いという設定が結構たくさんある」と問題を指摘。「高齢者の尊厳保持という意味から不動産仲介のように利用者の状態像に関わることなく料金設定される形が重要」と提案した。
人員配置基準や囲い込み対策も
公益社団法人日本看護協会の田母神裕美常任理事は、中重度の要介護者が多い施設について「介護や看護の最低限の職員配置を明示すべき」と主張。一般社団法人全国介護付きホーム協会の植村健志副代表理事は「夜間対応や重度者対応のための人員配置基準」の必要性を訴えた。
ケアマネジメントの独立性確保については、高野教授が「入居に関する契約とケアマネジメント契約が別立てで確保されていることの明示」を求めた。
検討会は次回、取りまとめ案について議論し、パブリックコメントを経て秋頃の最終取りまとめを目指す。駒村座長は「国民全体からのコンセンサスやきめ細かい意見も反映していかなければならない」と述べ、幅広い意見聴取の重要性を強調した。
▶︎有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第5回)
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