理学療法の卒前教育コアカリを10項目に再編 新設は3つ

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日本理学療法教育学会が、理学療法士の養成教育に関する2つの文書をウェブサイトで公開しました。「理学療法卒前教育ガイドライン1版」と「理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム(令和8年度改訂版)」です。

コアカリキュラムは大項目の構成を、医学・歯学・薬学と整合する10区分へ組み替えました。「情報・科学技術の活用」など3項目が新しいカテゴリとして加わっています。ガイドラインは臨床実習指導者が備えるべき能力を4つに整理しました。学生を受け入れる臨床側にも関わる内容です。

コアカリキュラムは10の大項目に組み替え

改訂版をまとめたのは、学会の理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム委員会です。委員長は大阪医療大学医療看護学部理学療法学科の加藤研太郎氏が務めました。学会の掲載ページは、公開時期を2026年8月と記しています。

構成を変えた理由について、改訂版は「理学療法学教育の標準化と学際連携の推進を図るため」と記しています。全体構成を、医学・歯学・薬学のモデル・コア・カリキュラムに整合する10の大項目へ再編成したという説明です。医療系各職種との共通言語化と相互運用性を高める狙いを挙げました。

10の大項目は以下の通りです。

  • プロフェッショナリズム(PR)
  • 総合的に患者・生活者をみる姿勢(GE)
  • 生涯にわたって共に学ぶ姿勢(LL)
  • 科学的探究(RE)
  • 専門知識に基づいた問題解決能力(PS)
  • 情報・科学技術を活かす能力(IT)
  • 患者ケアのための臨床技能(CS)
  • コミュニケーション能力(CM)
  • 多職種連携能力(IP)
  • 社会における医療の役割の理解(SO)

前版にあたるのは平成31年度版(日本理学療法士協会、2019年)です。大項目は6区分でした。A「理学療法士として求められる基本的な資質・能力」、B「社会と理学療法」、C「基礎医学」、D「臨床医学」、E「理学療法専門科目」、F「臨床実習」という並びです。基礎医学や臨床医学、専門科目、実習を大区分とする構成から、資質・能力を軸にした区分へ移りました。

改訂版は巻末に新旧の対応表を付けました。旧Fの「臨床実習」は、多職種連携能力(IP)の4項目に対応づけられています。旧Dの「臨床医学」は15項目に細分された区分でした。救急医学、臨床心理学、疾患別の臨床医学がここに置かれていました。改訂版での対応先は、総合的に患者・生活者をみる姿勢(GE)の3項目と、専門知識に基づいた問題解決能力(PS)の「臨床医学」です。

日本理学療法教育学会「理学療法教育学会版 理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム(令和8年度改訂版)」の新旧の比較、および日本理学療法士協会「理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム」(2019年)より作成

学修目標の書き方も変わりました。「説明できる」「実施できる」といった行動指標で統一しています。診療参加型臨床実習での行動やOSCE(客観的臨床能力試験)で評価できる形に最適化した、という記述です。

新しいカテゴリは「情報・科学技術」「チームワーク」「学修とリフレクション」

対応表の末尾には、前版に対応する区分を持たない項目が並んでいます。「新しいカテゴリの項目」として挙げられたのは3つです。

  • IT-1 理学療法における情報・科学技術の活用
  • IP-2 チームワーク
  • IP-5 学修とリフレクション

情報・科学技術については、第1章で位置づけを示しました。データやAI、遠隔支援などを適切に実装し、急性期から回復期、生活期、予防にわたる介入の精度と効率を高める能力という記述です。

改訂で具体性と到達度の明確化を図った重要領域も列挙されています。根拠に基づく理学療法、臨床推論、医療倫理・法規、地域・在宅・緩和、がん、老年、慢性疼痛、精神、内部障害。これらと並べて、ICTやAIなど情報・科学技術の活用を挙げました。

残る2項目は、いずれも多職種連携能力(IP)に属します。チームワークと、学修とリフレクションです。前版では臨床実習(F)の中に多職種との関係性や役割の項目が置かれていました。チーム内での働き方と振り返りを、独立した中項目として立て直した形になります。

「7割コア+3割自由設計」は前版から変わらない

改訂版は「7割コア+3割自由設計」を原則に掲げました。養成課程の約7割を全国共通のコアとして提示する形です。残る約3割は、各養成施設がディプロマ・ポリシーやカリキュラム・ポリシーに基づいて独自に編成できるようにしています。

この比率は、今回新しく採られた方針ではありません。前版も「指定規則の中の7割程度を目安とした内容に絞る」と書いています。学修時間の概ね7割を本編で構築し、残る3割は各養成施設が独自に設定するディプロマポリシーに基づいて編成することを求めていました。比率の考え方は前版を引き継いだ部分です。

比率は引き継いだうえで、科目を設計する枠組みを改めました。旧来の科目直結型の区分から脱却したと改訂版は記しています。再編成した10の大項目から必要な学修目標を横断的に抽出・統合し、科目内容を設計できるようにしました。「評価所見から仮説・介入へ」「地域特性から目標設定へ」といった単位でのモジュール化を例に挙げています。

ガイドラインは実習指導者が備えるべき4つの能力を示した

もう1本のガイドラインを編集したのは、学会の理学療法教育ガイドライン委員会です。委員長は星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻の中川仁氏。執筆者には大学、専門学校、病院、クリニックに所属する18人が名を連ねました。

全4章のうち、中心になるのは学内教育を扱う第2章と、臨床実習教育を扱う第3章です。第1章に策定の経緯、第4章に学会の提言が置かれています。臨床にいる理学療法士に直接関わるのは第3章です。

ガイドラインは、臨床実習指導者に求められる能力を4つに整理しました。①対人スキル、②専門職種としてのロールモデル、③評価能力、④指導力です。下敷きにしたのは海外の研究2本でした。Recker-Hughesらは4領域をポジションペーパーで示し、Myersらは3領域24項目に体系化しています。これらを日本の文脈に則して再分類したという説明です。

4つの能力の性格について、ガイドラインは踏み込んだ書き方をしています。「『身につけてほしい』と望まれるものではなく、指導者として備えていなければならない」という記述です。

指導者の専門性にも言及があります。医学教育の研究を引き、コンピテンシーの前提として専門性の保持が重要だと指摘しました。そのうえで「実習指導者は、専門・認定理学療法士の資格を有していることが望ましい」と記しています。

現行の制度は、実習指導者に原則2つの要件を課しています。1つは免許取得後5年以上の業務従事。もう1つが講習会の修了です。

ガイドラインが挙げる対象の講習会は2種類。厚生労働省が指定した臨床実習指導者講習会と、厚生労働省と公益財団法人医療研修推進財団が実施する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士養成施設教員等講習会です。厚生労働省の養成施設指導ガイドラインは、これに日本作業療法士協会が実施する臨床実習指導者中級・上級研修を加えた3種類を挙げました。

例外もあります。見学実習の指導者は、免許取得後5年以上の業務従事があれば足ります。養成施設の教員や臨床実習指導者の要件を満たしていなくてもよい、と同ガイドラインは定めました。

学会が挙げた専門・認定資格は、この要件の上に置かれた望ましい条件という位置づけになります。制度上の要件ではありません。

「ある程度の助言・指導のもと」の読み方を具体的に示した

臨床実習終了時の到達目標は、日本理学療法士協会が定めています。「ある程度の助言・指導のもとに基本的理学療法を遂行できる」という文言です。ガイドラインは、この「ある程度」が明確な基準を持たない表現だと指摘し、解釈を示しました。

並べたのは2つの記述です。卒後1~2年目の到達目標は「指導・助言のもとで理学療法が遂行できる」とされています。協会の『新人理学療法士職員研修ガイドライン』は、入職後おおよそ1年以内の到達目標を示しました。「必要に応じて指導を求め、基礎的(ベーシック)理学療法を実践できるレベル」という水準です。

これらを踏まえた結論が置かれました。「ある程度」は「少々」ではなく、「中程度から比較的多くの量の指導や助言を必要とする」という意味に解釈するのが適切だとしています。

実習生が実施できる行為の水準も整理されています。協会が示す3段階は次の通りです。水準Ⅰは「指導者の直接監視下で実施されるべき項目」。水準Ⅱは「指導者の補助として実施されるべき項目および状態」。水準Ⅲは「見学にとどめるべき項目および状態」です。

ガイドラインは、この水準が固定ではないと注意を促しました。同じ行為でも患者のリスクが高ければ水準は上がります。使用できる補助具や実施する環境によっても変わり得るという指摘です。

学生は無資格であるため、実施には違法性を阻却する条件が必要になります。ガイドラインが挙げたのは4点でした。実施行為の範囲と水準の設定、指導者による適切な指導・監督、事前の能力評価、対象者の同意と事故補償の確認。これらが社会的相当性を担保するとしています。

2対1の指導モデル、指導者自身の健康管理にも触れる

実習生2名に指導者1名をあてる2対1指導モデルについて、ガイドラインは3つの利点を挙げました。学生同士が教え合うことによる学習効率の向上、学生間の相互学習による指導者の負担軽減、ピアサポート機能による学生の心理的負担軽減です。臨床実習の質向上のため「導入の検討を行なってもよい」と記しています。

指導者自身の状態にも言及があります。臨床実習の指導は負担を感じる場面もあるため、教育者自身がストレスや時間、感情を適切に自己調整する必要があるという記述です。定期的なストレスチェックの実施、リフレッシュのための休暇の確保に留意することが望ましいとしました。

臨床実習をめぐる環境の課題として、ハラスメントを挙げた項目もあります。従来の指導形態では、指導者と学生の関係における権力構造のストレスから、学生が心身の不調に陥るケースが指摘されてきたとしています。心理的安全性の確保と建設的な指導環境の重要性を強調しました。

養成校の裁量を残しつつ、学修目標は「漏れなく」

2つの文書は、各養成施設の裁量を認める立場を明記しています。

ガイドラインは第1章で立場を述べました。学会版ガイドラインは各養成施設の独自のカリキュラムや教育方法を拘束するものではない、という記述です。理学療法士養成教育が効率よくかつ最低限の標準化された教育として提供されるために、必要な事項を指針として示すことを目的としたとしています。

2つの文書の役割分担も示されました。ガイドラインが目標を示す方向性・指針、コアカリキュラムが学修目標達成に向けた具体的方略という整理です。両者を養成教育を実践する両輪として活用することを求めています。

コアカリキュラムの概念図にも、同じ趣旨の注記があります。養成校の実情や科目の目標に応じて、設定している学修目標を選択して構成することを意図している、という記述です。

裁量には限定もかかります。コアカリキュラムは第2章で、科目構成や授業設計は各養成施設の教育理念や地域性、学習者の特性に応じて柔軟に設計できるとしました。そのうえで、示した学修目標については「教育内容の濃淡はあっても漏れなく取り入れ、体系的に学修できるよう教育課程を構築することが望まれる」と記しています。

臨床実習の位置づけには、指定規則の改正が前提にあります。指定規則は2018年10月5日公布の改正で見直され、2020年4月1日から施行されました。前版によれば、それまでは総単位数93単位、うち臨床実習18単位でした。改正後は総単位数101単位以上、理学療法士の臨床実習は20単位以上になっています。ガイドラインは、この改正で臨床実習が総単位数の約2割を占めるまで拡充されたと記しました。

診療参加型臨床実習の扱いは、指定規則の本体ではなく厚生労働省の養成施設指導ガイドラインに書かれています。評価実習と総合臨床実習について、診療参加型臨床実習が望ましいとする内容です。

2つの文書は、学会ウェブサイトの「ガイドライン・コアカリ」内、理学療法教育ガイドラインおよびコアカリキュラムの各ページで公開されています。

参考資料

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