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健常者が神経障害性疼痛を発症するリスク

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神経障害性疼痛がどんな方に発症するのか知りたくなり論文を読んでみました。

江原先生による慢性腰下肢痛の理学療法講座▶︎https://chronic-pain.peatix.com/

週の真ん中水曜日の江原です。今疼痛領域に一つのブームが来ています。疼痛のメカニズムブームです。POSTさんの記事でも腰痛に対するメカニズムベースドアプローチを書きましたが、中でも日本語訳が決定したnociplastic painに関する特集や学会での講演が増えていると感じます。

 

3つの痛みのメカニズム

nociplastic pain、痛覚変調性疼痛とは、

日本痛み関連学会連合用語委員会は,国際疼痛学会(IASP)が「第3の痛みの記述子」 として提唱したnociplastic painの日本語訳を以下のように提案します.

痛覚変調性疼痛

侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の 活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠,あるいは,痛み をひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠,がないにもかかわらず生じる痛み .

Nociplastic pain の日本語訳に関する用語委員会提案

侵害受容の変化によって生じる痛みで、中枢性感作のメカニズムとも関与があると言われています。侵害受容の変化が身体の何によって起こっているかはまだ不明ですが、定義がなされたことによって日本でも学会や専門誌等で議論が白熱しており勢いを感じます。その他に、痛みのメカニズムには以前より侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛があります。

侵害受容性疼痛は、IASPによって
「非神経組織の実際の損傷またはその恐れから生じる痛みで、侵害受容器が活性化することによって生じる」と定義されている。
侵害受容器は、すべての神経支配構造から生じる機械的、化学的、または熱的刺激によって誘発される」。侵害受容性疼痛の場合、体性感覚神経系は正常に機能する。多くの場合、痛みは同じ分節神経支配を持つ領域で感知される。

IASP Terminology |  https://www.iasp-pain.org/resources/terminology

神経障害性疼痛 は、IASPによって
「体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる痛み」と定義されている。神経障害性疼痛は、様々な疾患や病変によって引き起こされる症候群を指している。これらの障害は異所性放電によるもので、感覚障害や運動障害をもたらし神経機能に影響を与える可能性がある。

Jensen TS, Baron R, Haanpää M, et al. A new definition of neuropathic pain. Pain. 2011 Oct;152(10):2204– 2205.

神経障害性疼痛も幾度か定義が変遷しており、一時は現在の痛覚変調性疼痛のような痛覚伝導路の機能異常の一端を担っているようなカテゴリーに入ったこともありました。2011年の定義により神経系の機能異常による痛みが除外され病変や疾患が存在していることが前提になり、痛覚変調性疼痛との住みわけが明確になりつつあります。

 

意外と関わりが少ない神経障害性疼痛

神経障害性疼痛を引き起こす疾患を示した図1を見ると、痛みを診ることが多い整形クリニックの外来リハではあまり遭遇しない疾患が多く記載されています。

図1 神経障害性疼痛の原因部位と原因疾患

疾患の症状としての痛みであり、末梢および中枢神経系の病態に応じた神経徴候を伴います。

図2 神経障害性疼痛の臨床的特徴

また症状も特徴的で、「姿勢を取ったり動きの中で痛みが出現する」運動器疾患の疼痛(侵害受容性疼痛)とは大きく異なり、時間的なパターンや突出痛と呼ばれる安静時痛があります。さらに前述したように神経障害を伴うため知覚異常も起こります。知覚異常の中にはこれも特有の症状であるアロディニアがあります。

 

また神経障害性疼痛は慢性化し痛み強度が増悪すると、身体機能やADLの他に著しくQOLを低下させます。慢性神経障害性疼痛によるQOL低下は、末期のがん性疼痛によるものに比較しても大きいです。それ程神経障害性疼痛の痛みは激しく、精神面にも大きな影響を与えてしまいます。

 

健常者を追跡した縦断的研究における神経障害性疼痛

このようにつらい痛みである神経障害性疼痛ですが、発症リスクはどのくらいなのでしょうか?疾患にもよりますが、臨床経験上そこまで多くないと感じていましたが論文を検索してみました。「中高年における神経障害性疼痛のリスクファクター」という名古屋大学が行う健康診断による縦断コホート研究では、5年ごとに行われる研究に合わせて2013年から2018年の調査で検討されました。

 

投薬治療のみ行う健常者366名が実験に参加していましたが、5年間の間に5.2%(19名)の方が神経障害性疼痛を発症したそうです。

解析によると発症リスクとしては、

・BMIが低下していること、
・下肢痛の強度が高い
・TUGテストが遅い
・骨粗鬆症やサルコペニアの割合が高い
・腰椎後弯が大きい、精神的なQOL低下がある

が挙げられています。神経障害性疼痛自体は、理学療法手技や運動療法においてコントロールされるものではないと考えています。

 

しかしこの報告でのリスクファクターを鑑みると、心身機能低下が神経障害性疼痛発症にも関与すると言えます。したがって、全身持久力を高めADLを改善するようなリハビリテーション(運動療法)は重要であると示唆されます。

※八雲スタディ:名古屋大学が行っている北海道二海郡八雲町での住民検診(Yakumo スタディ)のこと。約40 年間継続している長期検診コホート研究。

 

まとめ

痛みのメカニズム分類のうち、激しい痛みでADLやQOLを低下させる神経障害性疼痛の発症について注目し記事にしました。

健常者を経時的に追跡した縦断研究において、神経障害性疼痛を発症した方が一部おりそこではいくつかのリスクの可能性が提示されました。

坐骨神経痛など腰下肢痛がある方には神経障害性疼痛のリスクファクターに注意して対応すれば、痛みがまだまだない間にも予防的な対応ができるかもしれません。

それではまた次回。Adios(スペイン語でさようなら)

この記事を書いた江原先生による慢性腰痛の講習会

慢性腰下肢痛のリハビリテーション

腰痛や坐骨神経痛などの下肢痛に対して理学療法を実施しても、あまり効果的ではないと感じ悩んだことはありませんか?痛み治療に特化したペインクリニックでは、腰下肢痛に対しては医師と理学療法士が分業して治療しています。理学療法士は主に診断に基づき、診断の補助やトリアージを行いますが、実はこの過程が非常に重要なのです。

トリアージを適切に行うことで、臨床での悩みはかなり改善すると思います。知識と経験を要する領域ですが、評価フローを使えば確実性は高まるのではないかと考えています。そこで今回は、【慢性腰下肢痛のためのTo Doリストを作りました】。侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛や認知情動面の影響をトリアージして、慢性腰下肢痛にメカニズムベースのアプローチを実践していきましょう。

講師プロフィール

江原 弘之先生
運動器認定理学療法士・いたみ専門医療者・公認心理師
西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科 部長
NPO法人ペイン・ヘルスケア・ネットワーク 代表理事

プログラム

・慢性腰下肢痛で知っておいた方がいい「痛み」の知識
・痛みの構造化問診票・9つの質問
・痛みの評価フローとトリアージ
・理学療法評価の活用方法
・理学療法の守備範囲とチーム医療
・症例提示

◆概要
【日時】 3月24日(金) 21:00~23:00
【参加費】3,300円
*POST有料会員は無料で受講可能です。
有料会員はこちらをご確認ください。
【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。

申込▶︎https://chronic-pain.peatix.com/

参考文献

Imagawa S et al:Risk Factors for Neuropathic Pain in Middle-Aged and Elderly People: A Five-Year Longitudinal Cohort in the Yakumo Study.Pain Medicine21(8),1604–1610,2020

【目次】

第100回:脆弱性ある慢性疼痛患者グループー経済格差と疼痛医学ー

第101回:【症例報告】舌痛症のリハビリテーション

第102回:ジストニアの3徴候と慢性疼痛に関連する因子

第103回:地味に多い尾骨痛へのアプローチ~病態編~

第104回:地味に多い尾骨痛へのアプローチ~リハビリ編~

第105回:理学療法士が可及的早期に慢性疼痛を学ぶとよい理由

第106回:筋骨格系疼痛に対する信念と態度~生物医学モデルで消耗しない方法~

第107回:『腰痛持ち理学療法士』は非難対象なのか?

第108回:筋骨格系疼痛に対する信念と態度その2~患者の信念を把握せよ~

第109回:『私、ヘルニア持ちですので…』に対抗する臨床推論~筋骨格系疼痛に対する信念と態度その3~

第110回:坐骨神経痛と腰下肢痛の分水嶺~理学療法評価からの考察~

第111回:高齢者はSLRテストで痛がらないのは本当か?

第112回:痛み教育と心理的な抵抗~筋骨格系疼痛に対する信念と態度その4~

第113回:【変形性腰椎症】痛みの認知の修正に役立ったアプローチ~慢性腰痛1症例の紹介~

第114回:筋・関節を越えてゆけ!~筋骨格系疼痛に対する信念と態度その5~

第115回:起床時の腰痛に対する思考プロセスとアプローチ例

第116回:起床時の腰痛に対する思考プロセスとアプローチ例②~運動療法と寝具について~

第117回:【知見】腰椎前弯の影響と腰痛との関係

第118回:腰痛患者の呼吸筋機能と臨床での簡便な評価とアプローチ

第119回:腰痛と中殿筋機能の密接な関係

第120回:痛みのマルチモーダル治療とは①~感覚系のモードと薬物療法を理解する~

第121回:痛みのマルチモーダル治療とは②~痛みのメカニズムに対するリハビリの効果~

第122回:頭痛を起こす神経障害『後頭神経痛』

第123回:【症例】頭痛を起こす神経障害『後頭神経痛』②

第124回:【運動器コラム】2週間に1回の外来リハにこだわる理由

第125回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?①-segmental zoster paresis-

第126回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?②-segmental zoster paresisその2-

第127回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?③-SZP軽傷例の症例報告-

第128回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?④~帯状疱疹関連痛と混合性疼痛~

第129回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?⑤~帯状疱疹関連痛を鑑別するには~

第130回:【疼痛“部位”の評価】どこが痛いかを把握する意義

第131回:【疼痛“部位”の評価】描画法で痛みを解釈するポイント

第132回:痛みとソーシャルリファレンシング

第133回:早期の通院ドロップアウトの予防線-セラピストが意識する行動-

第134回:【慢性腰痛】痛みによる睡眠障害をスルーしないインタビューのコツ

第135回:慢性頚部痛を起こす疾患と評価の注意点

第136回:慢性疼痛患者の心のフックを見つけよう

第137回:慢性疼痛にマッサージを施行する意義

第138回:TKA後に残る膝の痛みと痛みの認知傾向との関係

第139回:足底腱膜炎と慢性疼痛の関係part1

第140回:【症例検討編】足底腱膜炎と慢性疼痛の関係part2

第141回:【症例検討編】足底腱膜炎と慢性疼痛の関係part3~もしも高齢者の足底が痛くなったら~

第142回:不平不満が多い慢性疼痛患者に苦労しているセラピストが読むコラム

第143回:『痛む足と動く足趾症候群』というレアな難治性疼痛疾患①

第144回:『痛む足と動く足趾症候群』というレアな難治性疼痛疾患②

第145回:愛着・アタッチメントと慢性疼痛①

第146回:愛着・アタッチメントと慢性疼痛②

第147回:疾患や障害を負い揺れ動く感情~アンビバレンスとは~

第148回:アドヒアランス行動のタイプとノンアドヒアランスによる弊害

第149回:リハビリテーションにおいて要求と不平が多い人への対応

第150回:患者のモチベーションアップに困った時に読むコラム①

第151回:患者のモチベーションアップに困った時に読むコラム②

第152回:患者のモチベーションアップに困った時に読むコラム③

第153回:臨床で考えたい急性腰痛と慢性腰痛の境界線①

第154回:臨床で考えたい急性腰痛と慢性腰痛の境界線②~MRIがない施設における腰下肢痛症例の治療経過~

第155回:自分の痛みを理解することの重要性

第156回:痛みのマネジメントにおける理学療法士の仕事~運動療法・痛みのトリアージ・復職アドバイス~①

第157回:痛みのマネジメントにおける理学療法士の仕事②~痛みのトリアージ~

第158回:痛みのマネジメントにおける理学療法士の仕事③~復職~

第159回:生物医学モデルへの傾倒は慢性腰痛患者を差別する?

第160回:慢性腰痛を生物医学モデルで説明したくなる2つの理由

第161回:頚部痛から発生する頭痛・顔面痛『大後頭三叉神経症候群』①

第162回:頚部痛から発生する頭痛・顔面痛『大後頭三叉神経症候群』②

第163回:『あなたのヘルニアは富士山です』~慢性疼痛におけるメタファーの例~

健常者が神経障害性疼痛を発症するリスク

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