「ウィズコロナ時代」の移り変わり、若手セラピストの「新しい」戦い方

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臨床経験が数年たったセラピストなら、一度や二度キャリアについて悩んだことがあるでしょう。

キャリアって何を軸に考えますか?

「給料?」「やりがい?」「人間関係?」「家からの距離?」・・・・

本連載では、国家資格キャリアコンサルタントを保有し100名以上のセラピストをクライアントに持つ筆者が、

多くのセラピストが気になる「給料アップ」や「セルフブランディング」などのキャリア形成で重要なポイントを整理しながら、キャリア迷子にならないよう思考法を身につけてもらうことを目的としています。

本日は「コロナ」に関して色々考えてみます。ではさっそくいきます。

 

Beforeコロナ、Afterコロナ、あるいはWithコロナ・・・

 

新型コロナウィルス感染拡大によって、その前後が起点となり今後の世の中が変わることは感度の高い読者さんでなくとも、なんとなく予測はできるでしょう。

 

今回の騒動を起点にリハ界隈においてももちろん影響がある。

・院内感染によるリハ病棟の閉鎖

・養成校における実習の中止

・学会・研修会の相次ぐ中止

・急性期病院のパンク(感染症を割けたい後方病院の受け入れ拒否による)

・急性期からダイレクトで高齢者施設や在宅へ退院

 

また、小規模のクリニックで集患ができなくなってリハオーダーが減り、首切り・・・といった事例もでてきている。

 

社会保障費の観点でみると、東京工科大学の澤田先生がつぶやいていることが起こりうるかもしれない。

このコロナショックは確実に経済にダメージがいく→社会保障費がそちらへ動かざるをえない→金がなくなる→報酬引き下→業界ショック→管理職がより収益言われる→管理職からより単位と言われるという流れで僕らの生活にも関わる。だからこそ効果的・効率的なリハで成果を見せなあかんのです。

引用:https://twitter.com/MeganeOT/status/1249458871766110208

 

セラピストにとって、コロナウィルスは感染リスクだけでなく、こうしたリスクもあることを認識しておいたほうがいい。

 

こうした中、オンラインを使用して新しい動きもでてきている。

 

セミナー、実習の在り方に関して、オンライン学習を駆使した形への移行についてSNS上でやりとりが散見される。

 

今回は、まだ収束が見えない中で「ウィズコロナ」で変わっていきそうな点を個人的見解で整理し、その後キャリアコンサルタントとして今後の働き方について考えをまとめていくので、お時間ない人も是非時間をつくってお読みいただきたい。

 

<と、その前に用語の整理>

*「アフターコロナ」ではなく「ウィズコロナ」:前後で完全に分断できるわけではないためウィズ(with)を使用

*「終息」ではなく「収束」:終息という意味は完全に終わるという意味で徐々に収まる収束が適切と判断

 

何が、どう変わりそう?

多くのセラピストが物理的な空間に集うメリットとコストをよりシビアに捉えるようになり、学びの場のオンライン化が進んでいく可能性がある。

 

事実、オンラインヨガ、オンラインピラティス、オンラインストレッチなど今まで物理的な空間に集わないとできないと勝手に考えていたこともできてしまっている。

 

対面と違和感のない学習環境を実現するテクノロジーはさらに発展する。

 

オンラインでの動画配信技術が確立された昨今においては、オンラインセミナーへの移行も時間の問題と捉えることはごく自然であろう。

 

あと、リモート化の波はセミナーだけでなく学会運営にも広がっていくと容易に考えられる。

 

すでに、情報処理系の3つの学会の若手研究者たちが主催するフォーラムが、完全オンラインで開催しておりフレキシブルな体質の学会はどんどんオンライン化が進むかもしれない。

 

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リハに関連するセミナー事業や学会はどう変わりそうか?

 

セミナーでは大手のgeneが5月よりオンラインセミナー事業「リハノメチャンネル」に向けた配信を開始予定であり、昨年はリハテックリンクスが一足先に「リハデミー」の立ち上げを行っている。共にサブスクリプション型(月額制)のビジネスモデルではあるが、どう差別化を図っていくのか、また今後新たな流れが生まれていくのかユーザーの一人として注視していきたいところ。一方、リハ関連の学会に関しては軒並み「中止」を発表。

 

もちろんオンライン対応など準備期間がなかった点を踏まえると致し方ないが、最近では都道府県士会レベルで一部オンライン公開講座を行うところもでてきており、移行が一気に進む可能性がある。この「移行」については、そういったノウハウを持ち得ているか、決裁者が感度を持ち合わせているかが重要な点になる。

 

また、新たな流れも生まれてきている。

 

これまでは運営会社のプラットフォームで集客をして、講師が現地に出向き登壇するモデルが主流であったが(既存セミナーモデル)、今後はSNS×動画配信プラットフォームを活用して講師個々人がセミナー告知をして集客をし、講義をしていく流れが増えるだろう。

 

この流れは、何も開業していたり、病院に勤めて副業で講師をしている一般セラピストだけでなく、大阪府立大学の竹林先生や了徳寺大学の町田先生、吉備国際大学の京極先生など感度の高い大学の先生方が率先して行っているのも興味深い。

 

これは単にセミナーモデルの変遷していることにとどまらず、引いては大学教員の“在り方”、“教育の在り方”のパラダイムシフトにつながる系譜かもしれない。

 

そこから、「セミナー自体が有料」、「セミナーは無料で資料だけ有料」、「セミナー無料でオンラインサロンへの誘導にて課金」など様々なモデルが生まれてくるだろう。

 

今、「これってあくまで座学中心のセミナーの話でしょ?」と思われた方も多いかもしれないが、実技系セミナーにおける在り方も見直されるかもしれない。

 

畿央大学の森岡先生がtwitterに投稿されている内容は、既存の在り方を見直す参考になりうる。

今、まさに、技術講習で学ばなくても理学療法の臨床はできることを学んだのでは?そして、目の前の患者さんへの意識が余計高まったのでは?その病態から学びとり、情報を入手し、仮説をたて、試し、変化を追い、記録に残し伝えていくこと。くれぐれもアウトプット先を間違えないこと。

引用:https://twitter.com/ShuMorioka/status/1248399438411788294

 

実技(技術)セミナーに行く目的が「クライアントのため」であるならば、これを機に臨床推論や論文読解を通してやれることがたくさんあると気づく可能性も高い。

 

ただし、全てがオンラインに移行できるわけではないため今回の新型コロナ関連が収まった後、ふたたび元の形に戻ることも想像できる。

 

そして、これは管理業務にも影響を及ぼすかもしれない。

 

管理業務はどう変わりそうか?

 

筆者の知り合いのPTで管理層や経営層、事務方はリモートワークに移行している人もでてきている。実際、全社定例会議などもZoomやskypeで十分である。筆者も現在そのような対応をしている。

 

また、大手訪問看護会社などをはじめ、初期研修をオンデマンドに全て切り替えているところも出てきた。

 

まだ慣れていないということや、インフラやルール制定などの準備にコストがかかることから、生産性は一時的に下がることはあるだろう。ただ、このタイミングで投資に踏み切ることは中長期的な成長には不可欠といえる。

 

さらに、これまで医療・介護現場で進まなかったICT化も一気に進むかもしれない。

 

まだ多くの病院、事業所、そして管轄する役所が「紙ありき」の体質ではあるものの、最近、筆者の周囲やSNSにあがっている投稿などを見ていると、「オンライン化が一気に進んだ」という声が多く聞かれ、今回の危機でICT化が進む可能性も十分ある。

 

こうした教育や働き方など社会全体が変わろうとする中、個人の働き方・キャリアモデルも変わっていくと予想している。

 

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「自分株式会社」の視点でコントロールしていくモデルへ

 

これまでも筆者は、パラレルキャリア」や「複業」など様々な用語を用いて次の時代のキャリアを予想し、自ら体現してきたが、2020年以降また新しい形のキャリアモデルの流れが生じると考えている。

 

この点については、昨年10月に出版した拙著「医療・介護職の新しいキャリアデザイン戦略」の中で、2020年以降新しいキャリアモデルが必要という頁で日本のスターサッカー選手を例に示している(下図参照)

この例示を参考にする際には、皆さんが新卒(22歳頃)のタイミングで「どの年代か」をざっくり見てもらえればと思う。

 

例えば、筆者が新卒であった2010年頃で見ると今ちょうど30歳前半で、「副業・複業解禁世代」と位置づけている。

 

この「世代」を挙げると、筆者と同級生には例示した本田圭佑氏(サッカー選手・投資家・監督)をはじめ、副業×転職で有名なmoto氏(元リクルート)、長友佑都氏(サッカー選手・投資家・事業家)、ダルビッシュ有氏(選手・投資家・YOUTUBER)、前田健太氏(選手・YOUTUBER)・・・など名だたる「副業・複業家」が存在している世代だと理解できるだろう。

 

その流れで、2020年以降の働き方を予測していたのだが、コロナ危機で一気にそのパラダイム・シフトが起こっていくかもしれない。ただし、ドラスティックに天地ひっくり返るなど大きく変わるのではなく、テレワーク、キャッシュレス、ICT化など本来起こるべき変化が加速度的に生じていくイメージを持っている。つまり、起こりうるべき近未来が一気にくる。

 

その過程で“不必要”“お荷物”と烙印を押されたサービス、仕事がなくなるかもしれない。そして、その後には個人も組織も残酷なくらい差がついてしまう可能性がある。

 

そのため、以下に書く「これからのキャリア」に関しては特に今の学生・20代30代前半の若いPTOTSTには是非意識してほしい。

 

では、どう変わっていくのか?

 

この記事では最初のステップとして小手先の方法論ではなく、キャリアコンサルタントの視点から理論的背景を踏まえ予測していきたい。

 

“変幻自在”にキャリアを歩む

コロナ危機による社会の劇的な変化、終身雇用と年功序列の崩壊、テクノロジーの進化に伴い、筆者を含めた若い世代は「逃げ切り世代」と全く異なるアプローチが必要になる。

 

その一つのアプローチとして筆者が期待しているのが「プロティアン・キャリア」というモデルである。

 

これは、ボストン大学のダグラス・ホール氏が2000年代に提唱した比較的新しいキャリア理論であり、社会や職場の変化に応じて柔軟にキャリアを変えていく、言い換えれば「変幻自在なキャリア」を意味する。

 

ホール氏は、キャリアとは「組織によってではなく、個人によって形成されるものであり、キャリアを営むその人の欲求に見合うようにその都度方向転換するものである」との主張を提示し、変幻自在の意味を持つ、ギリシャ神話のプロテウスになぞらえ、「プロティアン・キャリア」と表現した。

 

既存キャリアとの比較については下図のようなイメージ。

 

この理論について筆者は、組織ありきで様々なフィールドを持つ「複業・副業」というスタイル(2010年世代のキャリアモデル)を踏襲、あるいはアップデートしているモデルだと考えている。

 

このキャリアを構築する上では「アイデンティティー(*1)」「アダプタビリティー(*2)」が肝であり、「自分らしく」かつ「環境の変化に適応しながら」キャリア構築をしていくことが求められる。

 

*1:アイデンティティー:何を大切にして自分らしく働くのかという価値観

*2:アダプタビリティー:社会や組織の変化に対して自分を適応させていくという柔軟な姿勢

 

筆者は拙書内でプロティアン・キャリアに似たモデルを提示している。

 

それは、自分の「価値観」と「能力」の関係性、それに「仕事」を加えた三位一体モデル

 

簡単に説明をすると、図のように「コア価値観」と「コア能力」が「仕事」の枠組みに当てはまっていれば、キャリアにおいて「成果も上げられ・満足度も高い状態」を創り上げることができると仮定している。

 

しかし、プロティアン・キャリアは、この三位一体モデルを更にアップデートした上位概念と考える。特に「価値観=アイデンティティ」の考え方がアップデートされている。

 

変化に適応するには、自分自身が変わらなければならないことは頭では理解できる。今のように変化の激しい時代、「環境」の変化に適応するアダプタビリティーは必須の能力。

 

変化から目を背けてアイデンティティーを固持しようとする状態は、キャリアにおいて危機・リスクであると言える。このアイデンティティーの“柔軟な変化を強いる”点が新しい発見と理解している。

 

これは、「一人一人のアイデンティティや価値観が重要」という昨今叫ばれているキャリアデザイン界隈における風潮と相反するように見えるが、実はそうでもない。

 

世の中の潮流・ニーズに適合させる「マーケット・イン」的な思考を持つことは会社経営においては当たり前の話。自分の価値観や能力(製品)ありきの「プロダクト・アウト」的な思考にこだわるが故にマーケットにおいて製品が売れない状況が続くことは経営上リスクになる。

 

既存のキャリアはどちらかと言えば「プロダクト・アウト」の視点を重視されてきたものの、このモデルではどちらかと言えば「マーケット・イン」の視点が重視され(バランスが大事ではある)、その流れに合わせて価値観も能力も柔軟に適合させようとしている点が本質だといえる。

 

ウィズコロナの時代は、資本主義的な充実を目指すモデルから、有事の際にも崩れず柔軟に適応(アダプタビリティ)できる自らのエコシステム(*3)を持つモデルへと変化していくと予想できる。(*3:お互いに連携・依存しながら生態を維持する関係の様

 

リモートワークが進む中では、より一層「会社組織」の管理が希薄になり、個々の倫理観や能力に委ねられる部分も増える。

 

そのため、「病院(会社組織)」「上司」というある種の教示的存在が良くも悪くも精神的なアイデンティティの拠り所であったものがどんどん希薄になり、副・複業でのプロジェクト参加、職場ではなく外部のコーチ・メンターの存在、オンラインサロンなどのサードプレイスが拠り所の代替として存在意義を高めていくと考える。

 

反面、個が尊重される分、より二極化、多様化が進むことも許容していく耐性が必要となる。

 

「自分はどう生きるのか、どう働きたいのか」を常に問いかけ、アップデートし続ける社会や環境に「自分株式会社」をどう適合し続けていくのかを常に考える時代の幕開けともいえる。

 

ウィズコロナ時代におけるセラピストの働き方に関して連載いただいている細川さんに、直接質問にお答えていただく機会を設けました。
【日時】 4月30日 (木) 21:00~22:00

【参加費】1,500円

【定員】15名(転職・複業など、キャリアについて本気で考えている方のみご参加ください)

【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。

詳細&申し込みはこちらから!https://1post.jp/5361

 

【ウィズコロナ時代到来:目次】

第一回:「若手セラピストの「新しい」戦い方

第二回:僕は君たちに「3つの武器」を配りたい

 

引用・参考

1)三好貴之・細川寛将(2019):医療・介護職の新しいキャリア・デザイン戦略~未来は、自分で切り拓く~

2)田中研之輔(2019):プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術

 

「ウィズコロナ時代」の移り変わり、若手セラピストの「新しい」戦い方

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