Contents
1.腰方形筋はこんな筋肉
2.腰方形筋の筋膜
3.腰方形筋の作用
4.腰方形筋のストレッチ
5.腰方形筋の筋トレ
6.腰方形筋のトリガーポイント
7.文献
1,腰方形筋はこんな筋肉
人体に方形筋と呼ばれる筋は大腿方形筋、足底方形筋、そして腰方形筋があります。それぞれの方形筋の特徴として四角形に近いような筋の形をしています。もちろん腰方形筋もそのような形をしています。
腰方形筋は代償動作で使用されることが多く、痛みを引き起こし腰痛を引き起こす筋として臨床でも関わることが多い筋肉の一つです。
早速、腰方形筋の解剖から学んでいきましょう。
腰方形筋の水平断
上の表でわかるように浮遊肋とも呼ばれる第12肋骨の下縁、第12胸椎の横突起、第1~4腰椎の肋骨突起に付着して腸骨稜まで到達します。外側線維、内側線維を合わせてみると四角形に見えるのが確認できると思います。
*ちなみに英語名は、quadratus lumborum(=クアドラタス ランボラム)ですが、quadratusという単語はラテン語の「quadrus」が「正方形」を意味することに由来し、Lumborumはラテン語の「lumbus」が「腰」を意味することに由来します。
筋肉は3Dで覚えておくと、臨床でも役に立ちます。腰方形筋の水平面はどうなっているのか、確認していきましょう。
上のイラストは第3腰椎の高さの水平面です。脊柱起立筋の深層部にあるのが腰方形筋です。こうみると平べったい筋だということがわかります。また深層にあることも確認できますね。腰方形筋は解剖学上、後腹壁の筋として考えられています。
腰方形筋は内側線維と外側線維に分けることができます。内側線維は腰椎横突起から腸骨稜に付着する線維、外側線維は第12肋骨から腸骨稜に付着する線維です。
ではどう役割が違うのか外側線維、内側線維のそれぞれの作用ははっきりしてません。
胸腰筋膜の3層構造
下の画像をご覧いただくとわかる通り、腰方形筋は胸腰筋膜に囲まれています。実際には、今回お伝えする3層モデル他、2層モデルも存在しますが、一般的には3層モデルを取り上げていることが多いと思います。
ちなみに、2層モデルとは腰方形筋の後方に胸腰筋膜(腱膜)と前方に腹横筋を覆う膜組織によって構成されていて、両者は胚学的に独立した筋膜構造です。
一方、3層構造モデルでは胸腰筋膜外側層は脊柱起立筋を囲み、中間層は脊柱起立筋と腰方形筋の間を通り、内側層は腰方形筋と大腰筋の前方に位置しています。
腹腔内の筋膜平面は、内側および外側の弓状靭帯および横隔膜の大動脈裂孔を通って、腰方形筋および大腿四頭筋に沿っており、胸腔内筋膜を形成します。この、構造は術後の疼痛管理において使用される局所麻酔、腹横筋膜面(=Transversus abdominis plane:TAP)ブロックにおいて、この構造は重要になります。
ちなみに、弓状靭帯は下図のように、内側と外側に分けられていて、内側に大腰筋、外側に腰方形筋がそれぞれ付着しています。
腰方形筋の作用
簡単にいうと、腰方形筋は両側働くか、片側のみ働くかで作用が変わってきます。もう一度抑えておきましょう。
~腰方形筋の作用~
両側作用の場合
・腰部伸展
・腰椎の垂直方向の安定(腰仙椎移行部含む)
片側作用の場合
・腰部側屈
・片側骨盤の挙上
臨床上、よく見られるのは腰方形筋の片側収縮による片側骨盤の挙上です。
これは“hip hiking”(ヒップハイカー)と言います。装具を着用した歩行をした時や脳卒中の方が遊脚期に代償動作などで起こる現象として、臨床では頻繁に目にします。
これはクリアランス確保のための代償で、腰方形筋を片側収縮させて遊脚期に骨盤を挙上させて歩行を行います。もし脳卒中患者で腰方形筋が原因で腰痛があると訴えた方がいる場合、歩行の遊脚期を評価して股関節屈曲筋が働くようなリハビリを行い、腰方形筋への負担を無くしていくことも大切です。
別の腰方形筋作用として、深層にある筋でもあるので動かす作用とは反対に腰椎を安定化させる作用も持っています。つまり生活の中で使う場面が多いということです。これだけ使う場面が多いと腰痛の原因となりやすいです。
腰方形筋のストレッチ
ここでは2種類のストレッチをご紹介します。まず一つ目は、以前大腿筋膜張筋でもご紹介したストレッチの方法です。
腰方形筋の片側作用は、腰部側屈、片側骨盤の挙上ですからこの反対の姿勢になればいいわけです。それでは、手順を説明しましょう。
1,伸ばす側の肘を立てて横になります。
2,対側の下肢は伸ばす下肢を乗り越えて、足の裏を床につきます。
3,この姿勢から、骨盤を前に倒そうとするとストレッチがかかります。
4,さらに伸ばしたい場合は、肘立ちから手を床について起き上がると、よりストレッチされます。
*この姿勢ではなく、指示で支えた状態で腰部にフォームローラーを入れてもストレッチは行えます。
上記ストレッチではストレッチ感を得られない場合、上肢を含めたストレッチをお勧めします。こちらの場合、腰方形筋単独でストレッチする訳ではなく、広背筋含め周辺組織と同時にストレッチすることとなります。
単独でのストレッチにおいては、基本マッサージのような指圧でなければ単独筋のストレッチは不可能です。セルフストレッチでは、上記2種類のように関節運動を伴う、ストレッチの選択をお勧めします。
さらにストレッチの種類を変更する場合、肘関節の屈曲、伸展によってもストレッチされる筋肉は変わります。また、ストレッチ方向として、側屈方向に加え、前屈、後屈を加えるとそれぞれストレッチされる筋肉も異なります。
腰方形筋の筋トレ
Side bending(=サイドベンディング)
腰方形筋のトレーニングは、主に今回紹介する2種類に分けられます。どちらも、体幹トレーニングの一環とした腰方形筋のトレーニングにおいて重要なトレーニングであり、特にSide bridgeは有効であることが示されています。
最初に紹介するSide bendingは画像を見てもわかる通り、ダイナミックな腰部のトレーニングであり、腰椎の分節的な運動に伴った腰方形筋のトレーニングをおこないます。
1,スタートポジションは、片方にダンベルを持った姿勢からスタートします。もう一方の手は、頭の後ろに手をつき、肘は外側を向けます。
*片方の手を頭の後ろにする理由は、胸椎を伸展するためです。胸椎を進展させておけば、無駄な前後の大小運動が石柱では起こらないので、一定の運動方向でトレーニング可能です。
2,この状態から、トレーニングする筋とは逆に側屈します。*下の図で言うと、左の腰方形筋トレーニングの姿勢です。
3,側屈の状態から、元の位置に戻ります。この時、動いているのは腰部だけであり、上肢の反動等は抑制しましょう。
Side bridge(=サイドブリッジ)
コアエクササイズとして一般的となった再度ブリッジは、腹横筋のみならず腰方形筋のトレーニングとしても有効です。今回は、3種類のトレーニングをご用意しました。
それぞれに、違いはありますが、膝を曲げた状態と伸ばした状態では下肢の貢献度が異なります。まずは、膝を曲げた状態から行い、負荷量を上げるごとに、膝を伸ばし、バランスボールなどの不安定な場でのコントロールというように負荷を設定しましょう。
サイドブリッジの良いところは、バリエーションが豊富にある点で尚且つケガを起こしにくいトレーニングです。基本的には、スタビライゼーションと呼ばれる固定性を高めるトレーニングのため、関節運動が最小限です。
ただ、実際の運動場面において静止できる能力を高めるだけでは無意味であり、固定性を保ちつつ自由に関節をコントロール必要があります。そこで、サイドブリッジの状態から四肢の運動を取り入れるとバリエーション豊かなサイドブリッジが行えます。
例えば、以下の状態から、股関節をが移転する運動を含めたり、肩関節が外転運動をさらに追加することもできます。さらにそこから、前額面上の運動として、屈曲伸展を入れることで、さらに自由度の高い運動を網羅できます。
このバリエーションは、対象者の状態や目的に応じて必要なモーションを加えていくと良いでしょう。
腰方形筋のトリガーポイント
トリガーポイント、定義としては「過敏化した侵害受容器」とされ、それを含む問題を総称して筋膜性疼痛症候群と呼ばれています。最近では、エコーの進化によって生理食塩水を注入する医師や筋膜リリースと称した方法でトリガーポイントを使ってアプローチすることがあります。
これには、筋肉それぞれに関連痛を放散する部位が大まかに決まっており、以下は腸骨筋含む腸腰筋のトリガーポイントを図に表しました。見てわかる通り、股関節の前面ほか背部にもその痛みは放散していることがわかります。
理由は様々仮説がありますが、どれもはっきりと結論ずけられたものはありません。
トリガーポイント触診(trigger point palpation) 推奨グレード B トリガーポイントを診断する検査方法の信頼性は確立されておらず,触診によるトリ ガーポイント識別の再現性には,研究の質を改善する必要がある。
引用:背部痛 理学療法診療ガイドライン
参考文献
https://anesthesiology.pubs.asahq.org/article.aspx?articleid=2719863
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10453772/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8554479/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3827575/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8894932/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9219209/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9323648/