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ワクチンに関連する痛み

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副反応からSIRVAについて解説いたします

週の真ん中水曜日の江原です。昨年同時期並みの水準で、現在も感染の勢いが止まらないコロナウイルス。

第11波が始まったというニュースも出ており、我々医療従事者は5類移行した現在でも注意しなければいけない感染症に間違いありません。

さてこの記事は痛みについて書いていますが、新型コロナウイルスも感染後に慢性疼痛を発症することが様々な報告から知られています。

例えば筋骨格系特異的疼痛の有症率に関する報告では、COVID-19感染前には40.7%であったが、COVID-19感染時には82.5%に増加し、COVID-19感染後も55.1%にとどまることが示されています1)

また、筋痛およびその他のびまん性の筋骨格痛がCOVID-19の初期臨床症状である可能性があり、疾患の様々な段階で観察されることが示されています2)。 

コロナウイルス罹患後の痛みは、広範囲性疼痛を示したいわゆる慢性疼痛の様相を呈するものが多いです。従ってリハビリも含めた多面的治療が提案されています。

図1 COVID-19罹患後の痛みのフロー

(新型コロナウイルス感染症診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント第2.0版より引用)

一方でワクチン接種そのものに注目すると、ワクチン接種に関連する肩の損傷(shoulder injury related to vaccine administration:SIRVA)という病態がコロナウイルスワクチン接種の増加と共に注目されました。

本日はSIRVAについてまとめます。

SIRVAの概要

定義と原因

ワクチン投与に関連する肩関節損傷(SIRVA)は、ワクチン接種後数時間以内の肩の痛みと拘縮を伴う病態で、三角筋下滑液包に誤ってワクチンを注射してしまうことで引き起こされます。

海外ではワクチンは筋肉注射で行われることが多く、SIRVAは2010年頃より主にインフルエンザワクチンの筋肉注射において問題視されるようになりました。

日本でのワクチン接種は皮下注射が主流でした。ワクチンの筋注が避けられてきた理由としては、薬剤の筋注投与による大腿四頭筋短縮症が社会問題となった時代背景がありました(ワクチン接種ではなく、抗菌薬や鎮痛剤の筋注によるもの)。

米国疾病予防管理センターや諸外国のガイドラインでは、副作用の軽減目的で筋注によるワクチン投与を推奨しています。

図1 誤った注射位置の例 

針の方向が垂直ではなく皮膚に対して頭側にずれて刺入し三角筋下包へ刺入してしまっている(参考文献6より引用)

・三角筋下滑液包内への不適切な注入:ワクチンが三角筋ではなく上部に挿入されると、関節包や腱に針が達し関節や腱が損傷し、炎症が引き起こされる

・不適切な注射器の選択:正しい角度や深さでない場合、針が肩の関節包や腱に触れる可能性がある

・注射部位の不適切な選択:図1参照

などが契機となり得ます。

痩せた人、筋肉量が少ない人ではこのリスクが高くなります。

その他、接種者の姿勢や接種を受ける人がリラックスしていない場合、筋肉が緊張し適切な部位に針が届かないことがあります。接種者の注射技術にも影響を受けます。

症状

注射針の刺入によって肩関節周囲に炎症が起こり、患者は痛み、肩関節可動域制限、QOLの低下を経験します4)

公的なワクチン有害事象報告システムを元に行ったSIRVAのレビューでは、333例のCOVID-19ワクチン接種時のSIRVAを同定し54症例が医療機関を受診していました。

画像診断でSIRVAと確認された患者(n=95)のうち、最も多い診断は癒着性関節包炎と滑液包炎で、最も多い症状は疼痛(97.7%)と可動域制限(68.1%)でした5)

図2 SIRVAのMRI画像 

水平面、矢状面のMRI画像で、肩峰下・三角筋下滑液包に液体が認められる6)

まとめ

COVIDやワクチン接種に関する痛みについてご紹介しました。SIRVAについては、肩関節機能が著しく損なわれます。また理学療法士の症例報告が多いですので、引き続きまとめてみたいと思います。

参考文献

1)Papalia Gf et al:COVID-19 Pandemic Increases the Impact of Low Back Pain: A Systematic Review and Metanalysis. Int J Environ Res Public Health.19(8):4599,2022

2)Tang D et al:The hallmarks of COVID-19 disease.16(5):e1008536,2020

3)Bailly F et al:Effects of COVID-19 lockdown on low back pain intensity in chronic low back pain patients: results of the multicenter CONFI-LOMB study. Eur Spine J.31(1):159-166,2022

4)Barnes MG, Ledford C, Hogan KA. A “needling” problem: shoulder injury related to vaccine administration. J Am Board Fam Med .25(6):919-22,2012

5)Jessica R et al:Shoulder injury related to vaccine administration(SIRVA) after COVID-19 vaccination.Vaccine 40,4964–4971,2022

6)Maliwankul K et al:Shoulder Injury Related to COVID-19 Vaccine Administration: A Case Series.Vaccines (Basel).10(4):588,2022

【目次】

第100回:脆弱性ある慢性疼痛患者グループー経済格差と疼痛医学ー

第101回:【症例報告】舌痛症のリハビリテーション

第102回:ジストニアの3徴候と慢性疼痛に関連する因子

第103回:地味に多い尾骨痛へのアプローチ~病態編~

第104回:地味に多い尾骨痛へのアプローチ~リハビリ編~

第105回:理学療法士が可及的早期に慢性疼痛を学ぶとよい理由

第106回:筋骨格系疼痛に対する信念と態度~生物医学モデルで消耗しない方法~

第107回:『腰痛持ち理学療法士』は非難対象なのか?

第108回:筋骨格系疼痛に対する信念と態度その2~患者の信念を把握せよ~

第109回:『私、ヘルニア持ちですので…』に対抗する臨床推論~筋骨格系疼痛に対する信念と態度その3~

第110回:坐骨神経痛と腰下肢痛の分水嶺~理学療法評価からの考察~

第111回:高齢者はSLRテストで痛がらないのは本当か?

第112回:痛み教育と心理的な抵抗~筋骨格系疼痛に対する信念と態度その4~

第113回:【変形性腰椎症】痛みの認知の修正に役立ったアプローチ~慢性腰痛1症例の紹介~

第114回:筋・関節を越えてゆけ!~筋骨格系疼痛に対する信念と態度その5~

第115回:起床時の腰痛に対する思考プロセスとアプローチ例

第116回:起床時の腰痛に対する思考プロセスとアプローチ例②~運動療法と寝具について~

第117回:【知見】腰椎前弯の影響と腰痛との関係

第118回:腰痛患者の呼吸筋機能と臨床での簡便な評価とアプローチ

第119回:腰痛と中殿筋機能の密接な関係

第120回:痛みのマルチモーダル治療とは①~感覚系のモードと薬物療法を理解する~

第121回:痛みのマルチモーダル治療とは②~痛みのメカニズムに対するリハビリの効果~

第122回:頭痛を起こす神経障害『後頭神経痛』

第123回:【症例】頭痛を起こす神経障害『後頭神経痛』②

第124回:【運動器コラム】2週間に1回の外来リハにこだわる理由

第125回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?①-segmental zoster paresis-

第126回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?②-segmental zoster paresisその2-

第127回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?③-SZP軽傷例の症例報告-

第128回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?④~帯状疱疹関連痛と混合性疼痛~

第129回:帯状疱疹にリハビリテーションは必要か?⑤~帯状疱疹関連痛を鑑別するには~

第130回:【疼痛“部位”の評価】どこが痛いかを把握する意義

第131回:【疼痛“部位”の評価】描画法で痛みを解釈するポイント

第132回:痛みとソーシャルリファレンシング

第133回:早期の通院ドロップアウトの予防線-セラピストが意識する行動-

第134回:【慢性腰痛】痛みによる睡眠障害をスルーしないインタビューのコツ

第135回:慢性頚部痛を起こす疾患と評価の注意点

第136回:慢性疼痛患者の心のフックを見つけよう

第137回:慢性疼痛にマッサージを施行する意義

第138回:TKA後に残る膝の痛みと痛みの認知傾向との関係

第139回:足底腱膜炎と慢性疼痛の関係part1

第140回:【症例検討編】足底腱膜炎と慢性疼痛の関係part2

第141回:【症例検討編】足底腱膜炎と慢性疼痛の関係part3~もしも高齢者の足底が痛くなったら~

第142回:不平不満が多い慢性疼痛患者に苦労しているセラピストが読むコラム

第143回:『痛む足と動く足趾症候群』というレアな難治性疼痛疾患①

第144回:『痛む足と動く足趾症候群』というレアな難治性疼痛疾患②

第145回:愛着・アタッチメントと慢性疼痛①

第146回:愛着・アタッチメントと慢性疼痛②

第147回:疾患や障害を負い揺れ動く感情~アンビバレンスとは~

第148回:アドヒアランス行動のタイプとノンアドヒアランスによる弊害

第149回:リハビリテーションにおいて要求と不平が多い人への対応

第150回:患者のモチベーションアップに困った時に読むコラム①

第151回:患者のモチベーションアップに困った時に読むコラム②

第152回:患者のモチベーションアップに困った時に読むコラム③

第153回:臨床で考えたい急性腰痛と慢性腰痛の境界線①

第154回:臨床で考えたい急性腰痛と慢性腰痛の境界線②~MRIがない施設における腰下肢痛症例の治療経過~

第155回:自分の痛みを理解することの重要性

第156回:痛みのマネジメントにおける理学療法士の仕事~運動療法・痛みのトリアージ・復職アドバイス~①

第157回:痛みのマネジメントにおける理学療法士の仕事②~痛みのトリアージ~

第158回:痛みのマネジメントにおける理学療法士の仕事③~復職~

第159回:生物医学モデルへの傾倒は慢性腰痛患者を差別する?

第160回:慢性腰痛を生物医学モデルで説明したくなる2つの理由

第161回:頚部痛から発生する頭痛・顔面痛『大後頭三叉神経症候群』①

第162回:頚部痛から発生する頭痛・顔面痛『大後頭三叉神経症候群』②

第163回:『あなたのヘルニアは富士山です』~慢性疼痛におけるメタファーの例~

第164回:健常者が神経障害性疼痛を発症するリスク

第165回:神経障害性疼痛に運動療法は効果的か

第165回:疼痛をスクリーニングするpain DETECTの使い方

第166回:スクリーニングテストで腰痛リハビリテーションはどう変わるのか~STarT Back Screening Tool編①~

第167回:スクリーニングテストで腰痛リハビリテーションはどう変わるのか~STarT Back Screening Tool編②~

第167回:スクリーニングテストで腰痛リハビリテーションはどう変わるのか~STarT Back Screening Tool編③~

第168回:スクリーニングテストで腰痛リハビリテーションはどう変わるのか~STarT Back Screening Tool編④~

第169回:高齢者の痛み①~加齢と疾患~

第170回:高齢者の痛み②~痛みの評価で注意したいポイント~

第171回:高齢者の痛み③~骨粗鬆症による脆弱性骨折~

第172回:慢性疼痛でも気を付けたい「診断モメンタム」とは?

第173回:慢性疼痛のメカニズム分析と思考の負荷

第174回:手術後に引き続く痛み~慢性術後痛とは~

第175回:慢性手術後疼痛のリスクとマネジメント

第176回:慢性手術後疼痛の症例報告~理学療法士がアプローチすべき領域は?~

第177回:脊椎術後に生じる痛みFBSSとは?

第178回:FBSSのマネジメント~理学療法士の立場でできること~

第179回:慢性疼痛に対するアプローチー腰痛と有酸素運動ー

第180回:痛みの破局的思考の臨床像

第181回:歯の痛みと破局的思考の関係

第182回:神経ブロック療法が効果的な症例とは

第183回:慢性疼痛と精神疾患~BS-POPによる評価~

第184回:臨床の負担となる質問紙をどう生かす?BS-POPで何を診るかの1案

第185回:性自認・性志向と痛み

第186回:性自認・性志向と痛み

第187回:性自認・性志向と痛みの話③~スティグマとマイノリティストレス~

第188回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法①~疼痛強度と神経生理~

第189回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法②~局所麻酔とリハビリ~

第190回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法③~脊髄刺激療法とリハビリ~

第191回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法④~脊髄刺激療法とリハビリその2~

第192回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法⑤~ノイロトロピン®~

第193回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法⑥~抗てんかん薬~

第194回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法⑦~抗うつ薬~

第195回:理学療法士も知っておきたい鎮痛法⑧~内服薬変更を医師に依頼するような症例~

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